非小細胞肺がん治療 PD-1/PD-L1阻害薬の登場で新しい時代へ~治療最適化のカギは効果を予測できるバイオマーカー~JAMA Oncol


  • [公開日]2016.07.01
  • [最終更新日]2017.11.13[タグの追加] 2017/11/13

2015年10月、米食品医薬品局(FDA)は非小細胞肺がん(NSCLC)を適応とするプログラム細胞死受容体1(PD-1)/PD-1リガンド(PD-L1)チェックポイント阻害薬の2つを相次いで承認した。米ブリストル・マイヤーズスクイブ社のオプジーボ[Opdivo](一般名ニボルマブ)、米メルク社のキイトルーダ[Keytruda](一般名ペムブロリズマブ)である。これらはいずれもPD-1を標的とする抗体医薬。一次療法後に進行したNSCLCの治療の適応で承認され、持続的な臨床効果の検証結果が報告されていることから、標準療法として導入されるまでに時間はかからなかった。

しかし、臨床効果を予測するバイオマーカーがいまだ不在のため、PD-1阻害薬をNSCLCの治療に使用する合理的根拠に欠けている。米コロンビア大学メディカルセンター・ニューヨークプレスビテリアン病院のAdrian G.Sacher氏は、明確で標準化したバイオマーカーの必要性を強調するレビューを2016年6月16日のJAMA Oncolオンラインに発表した。

-バイオマーカーの探索研究に知恵を結集せよ-

米FDAは、患者のPD-L1発現状態に関係なくニボルマブを承認した。これに対し、ペムブロリズマブの承認はPD-L1発現量の高い患者のみを対象とすることに限定した。この違いがバイオマーカーの活用をさらに混乱させている。

すでにあるバイオマーカーを精密化すること、新たなバイオマーカーを同定することは、これら抗体医薬の有効性と安全な使用を保証するために重要である。現在は、有益性の得られている患者はほとんどいないという段階であることから、PD-1/PD-L1阻害薬で持続的な有益性が得られる可能性がある患者集団の選抜を明確化し、さらに、有益性が得られる患者集団を拡大できる併用療法の予測値を示すマーカーを同定することが急務である。

現段階では、予測バイオマーカーとしてのPD-L1発現量測定方法の標準化を進めること、並行して、臨床で使いやすい、より明確なバイオマーカーの探索を続けていくことが、これら新しいNSCLC治療薬の最適化への道といえる。そのためには、免疫チェックポイント蛋白質の発現やゲノムの遺伝的符号、新抗原のモデリング、ならびに関連するT細胞反応を注意深く研究することが、これら抗体医薬の作用メカニズム、治療効果予測因子をより深く理解するのに寄与するはずである。バイオマーカー候補の数が単に増えるだけでは、臨床現場がさらに複雑化するだけである。

がん細胞は、T細胞を介する腫瘍殺傷活性を鈍らせ、抗腫瘍免疫を回避するためにPD-1の経路を利用している。PD-1のリガンドであるPD-L1とPD-L2はいずれもT細胞の活性を修飾しているが、異なるタイプの腫瘍に広く発現しているPD-L1は、PD-1が阻害された時の反応に関連するマーカーとして早期から注目されていた。一方、PD-L2の発現は免疫細胞により限定的であり、PD-L1発現と相関する可能性もあるが、PD-1/PD-L1阻害による有益性の独立したマーカーとしてはいまだ研究途上である。PD-L1の発現量を予測バイオマーカーとする研究では様々な結果が報告されており、PD-L1発現量が高い場合は有益性を得られる可能性が高いことが明確に予測できる。一方で、PD-L1発現陰性患者でも少数は有益性が得られる。つまりPD-L1発現量のみでは効果を予測することができない。決定的なバイオマーカーが不在の中で、患者を選抜することなくこれらの抗体医薬を使用することは、免疫関連の毒性や臨床的有益率が低くなる可能性を受け入れてしまうことにほかならない。では、組織のPD-L1発現量に基づいて治療する患者を選抜すると、PD-L1陽性の定義が不明確であるため複雑になる。しかも、腫瘍のPD-L1発現状態にかかわらず治療効果を得られる可能性のある患者は少なくとも一定数は存在するのである。

-ニボルマブのバイオマーカーとしてのPD-L1-

ニボルマブは、非扁平上皮型NSCLCを対象とする第3相臨床試験(Checkmate057)、および扁平上皮型NSCLCを対象とする第3相臨床試験(Checkmate017)の結果に基づき優先審査され、承認取得に至った。

Checkmate017では、272人の患者をニボルマブ群、またはドセタキセル群に無作為に割り付け治療した。その結果、全生存期間OS中央値(ニボルマブ群9.2カ月、ドセタキセル群6.0カ月)、無増悪生存(PFS)期間中央値(各3.5、2.8カ月)、全奏効率ORR)(各20%、9%)はいずれもニボルマブ群がドセタキセル群より有意にすぐれた。ニボルマブ群で、腫瘍組織のPD-L1発現量はこれらの評価項目との有意な関連性は認められず、発現率10%未満、10%以上のORR(各16%、19%)に差がなかった。OSとPFS期間中央値は、10%以上の患者集団の方が10%未満の集団より延長する傾向を示すにとどまった。これらのデータを踏まえ、米FDAはPD-L1の発現量にかかわらず、扁平上皮型のNSCLC患者すべてを対象としてニボルマブを承認したのである。

Checkmate057では、582人の患者をニボルマブ群、またはドセタキセル群に無作為に割り付け治療した。その結果、ニボルマブ群では主要エンドポイントであるOS中央値が改善し、ドセタキセル群と比べ有意に延長した(各12.2カ月、9.4カ月、ハザード比HR)=0.73)。PFS期間中央値(各2.3カ月、4.2カ月)はニボルマブ群の方が短かったものの、1年間のPFS率(各19%、8%)、およびORR(各19%、12%)はニボルマブ群の方が有意に高かった。そして、ニボルマブ群では腫瘍組織のPD-L1発現量が高いほどOS、PFS期間が延長し、ORRも高かった。すなわち、発現率10%以上の患者集団のORRは37%、10%未満の患者集団ではわずか11%であった。特に、OS中央値のHRはPD-L1発現量により大差が認められ、10%以上の患者集団ではHR=0.40、10%未満の患者集団ではHR=1.00であった。つまり、発現率10%以上の患者集団のOSは2倍以上延長したことになる。これらのデータを踏まえ、米FDAは非扁平上皮型を含むすべてのNSCLC患者を対象としてニボルマブを承認したのである。

関連記事:非小細胞肺がん 免疫チェックポイント阻害剤オプジーボ 2年生存期間においても有効性を示唆(2016/5/24)

-ペムブロリズマブのバイオマーカーとしてのPD-L1-

ペムブロリズマブは、フェーズI試験(Keynote-001)でPD-L1発現量の高いNSCLC患者集団の奏効率が高かったという初期データに基づき、2014年10月に画期的治療薬に指定され、承認取得に至った。

Keynote-001では、腫瘍組織のPD-L1発現量の閾値(カットオフ)を50%として評価した。その結果、PD-L1発現量50%以上でペムブロリズマブを投与された患者集団のORR(45.2%)、およびPFS期間中央値(6.3カ月)は、全解析対象(各19.4%、3.7カ月)より明らかに改善し、PD-L1発現量が1~49%、または1%未満でペムブロリズマブを投与された患者集団と比べると、50%以上の患者集団のPFSとOSの曲線は明確に分離していた。

Keynote-010は、白金製剤の治療後に進行したNSCLC患者1034人を対象とするフェーズII/III試験で、1034人をペムブロリズマブ2mg/kg群、同10mg/kg群、またはドセタキセル群に無作為に割り付け治療した。その結果、ペムブロリズマブ2mg/kg群、10mg/kg群のOS中央値(各10.4カ月、12.7カ月)は、いずれもドセタキセル群(8.5カ月)より有意に延長した(各HR=0.71、0.61)。OSの改善はPD-L1発現量50%以上の患者集団で増幅し、2mg/kg群(14.9カ月)、10mg/kg(17.3カ月)はドセタキセル群(8.2カ月)と比べ約2倍に延長した(各HR=0.54、0.50)。これらのデータに基づき、米FDAはPD-L1発現量が50%以上のNSCLC患者に限定してペムブロリズマブを迅速承認したのである。

関連記事:非小細胞肺がん 免疫チェックポイント阻害薬PD-1抗体ペムブロリスマブ 生存期間を延長 Lancet

Biomarkers for the Clinical Use of PD-1/PD-L1 Inhibitors in Non–Small-Cell Lung Cancer

記事:川又 総江

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