目次
患者さんの理解度を確認しながら寄り添う“治験のサポーター”
治験を円滑に進めるための調整役として、治験コーディネーター(CRC)という職種がある。通常の診療では、あまり接点を持つ機会がない医療者であるが、治験において果たす役割は大きい。 ―CRCの1日の業務例―担当患者さんの状況を電子カルテで確認
担当患者さんの対応(バイタルの確認と有害事象や併用薬についての聞き取り)
電子カルテへの記録(治験で必要な記録を入力)
診察に同席(治験薬の投与の可否、次回の予定を確認)
治験薬の払い出し(内服薬の場合は薬剤部で払い出し後に患者さんへ手渡す)
EDC(Electronic Data Capture)入力(治験の記録をシステムに入力)
次回対応の準備(担当患者さんの次回来院予定日、検査オーダーなどの確認)
翌日の業務の最終確認
そのほか、メールのチェックや他CRCのサポート、新規試験の準備など
愛知県がんセンターでは、年間で新規試験50以上、計250以上の臨床試験・治験を受託・運営している。担当するCRCは38名、うち院内CRCは8名であり、ほかは民間企業からの派遣だという。今回、話しを伺った中山CRCも以前は企業CRCとして活躍していた。

目の前で説明できない障壁、より丁寧な説明と事前準備で対応
今回のリモート治験では、ICの際はかかりつけ医にてタブレット端末や患者さんのスマートフォンを用いてのビデオ通話、薬剤が自宅に届いてからの患者さんとのやり取りは電話であったという。診療室内の通信環境の限界や、必要以上の個人情報の取得に関するリスクの観点からこのような方法になったそうだ。 「患者さんとの関わり方は大きく変わりませんが、対面で接することがないため、従来の治験より電話で連絡を取る回数が増えました。また目の前で説明できないので、わかりやすい言葉で説明するように心がけています」と中山CRCは言う。 初回の治験説明時は患者さんの手元に届く書類が多いため、1つずつ番号を付けて何の資料かを示した別紙を作成し、説明を行う際は「何番の資料を出してください」という説明を行ったという。薬剤が患者さんに届いた際、薬剤のボトルの開け方を言葉だけで説明したのは「苦労した点だった」と振り返る。
リモート治験ならではの郵送トラブル、家族が在宅確認の電話に出てしまったことも
リモート治験ならではのトラブルも発生したという。従来の治験であれば、院内で患者さんに直接渡せるが、今回は治験薬を患者さんの自宅に配送した。薬剤を入れた荷物には施設名と治験薬であることが記載されている。患者さんがご家族にがんであることや治験に参加することを伝えていないにもかかわらず、宅配業者からの電話をご家族が受けてしまったという事案が発生したそうだ。 こうした事態を受け、院内のリモート治験の案内にも注意喚起として記載することと、患者さんが確実に自身で受け取れるよう予定の確認を行い、患者さん自身にも注意喚起をするように運用を変更した。この点は患者さんにも理解いただき、双方で注意していかなければならない点であろう。 治験はプロトコールで決められたスケジュールで、定められた検査を行わなければならない。それが抜けてしまうと逸脱となり、治験に参加した患者さんのデータが今後の薬剤開発へ寄与しないという結果にもなりえる。治験実施施設へ患者さんが来院する形式の治験であれば、CRC側で検査の漏れがないかを確認でき、検査結果が出るまでの日数も一定であるが、かかりつけ医側の電子カルテは確認できないことや、同じ検査であっても医療機関によって結果が出るまでの日数が異なる場合もあるため、そのケアもリモート治験ならではの苦労した点だと中山CRCは語る。 <常診療で多忙なかかりつけ医へ連絡し、検査に漏れがないかを確認したり、検査結果の到着が遅れていたら連絡をしたり、その後の治験スケジュールを調整したりと、臨機応変に対応しなければならなかったようだ。 「パートナー医療機関の体制は様々だが、CRCさんがいて協力を得られると逸脱が減らせると思います」(中山CRC)
自分の要望を医療者に発信してほしい
最後に、中山CRCにオンコロの読者へメッセージをいただいた。 「先生に自分の要望を主体的にどんどん伝えてください。例えば、医師が『遠方だから検査をして結果が出ても無駄になってしまうかも』と先回りして考えて、患者さんに伝えないかもしれない。でも、自分がやってみたいと思うのであれば先生に要望として伝えてほしい。自分だったらどうしてもらいたいか、ということを考えて業務を行っているので、患者さんも医療者に要望を発信して、治療選択肢などを十分把握したうえで治療に臨んでください」 そして、中山CRCは、愛知県がんセンターが日本での治験実施施設として選ばれ続けるような医療機関になるよう頑張りますと締めくくった。