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特集 膀胱がん 第2回「BCG抵抗性となった筋層非浸潤性膀胱がんの治療選択」

[公開日] 2017.05.16[最終更新日] 2017.05.16

目次

膀胱がんは、ごく初期に発見して病巣を切除しても再発をくり返すことが多く、固形がんの中でも少し変わった特性があります。そういった膀胱がんの特性や初発膀胱がんの治療について、慶應義塾大学医学部 泌尿器科学教室 専任講師の菊地栄次先生にお話を伺いました。 第2回のテーマは「BCG治療抵抗性となった筋層非浸潤性膀胱がんの治療選択」についてです。 第1回記事:特集「~初発筋層非浸潤性膀胱がんとBCG療法~」

BCG治療抵抗性のタイプは4つにわけられる

オンコロ可知(以下可知):BCG治療抵抗性となった場合はどのような治療がありますか? 菊地先生:BCG治療抵抗性(BCGフェイラー)は大きく以下の4つのタイプに分けて、治療方針を立てる必要があると考えています。 1、 BCGリフラクトリー(BCG不応性) BCG療法を実施しても、実施中に腫瘍が進行していく患者さんやBCG治療を行っても腫瘍がほとんど小さくならない患者さんのことです。このタイプには全摘を強くお勧めします。たとえ、抗がん剤に変更して膀胱内注入しても、ほとんど効果を認めません。 2、 BCGレジスタント BCG導入治療をしたことにより腫瘍が少しずつ小さくなったものの、治療を開始して半年の間に腫瘍の消失しない患者さんのことです。このタイプも膀胱全摘が望ましいと考えます。 3、 BCGリラプシング(BCG再発性) BGC治療後に再発する患者さんのこと(単なる再発のこと)です。このタイプが圧倒的に多いです。例えば、1年前にBCGを実施し1年後に再発しましたといったケースが該当し、多くの患者さんはもう一度BCGを行うことになります。 4、 BCGイントレラント(BCG不耐性) 副作用でBCG療法が最後まで実施できない患者さんのことです。BCG治療中、2日以上続く肉眼的血尿、発熱や激しい排尿時痛、頻尿などの排尿障害を認める場合など、計画していた6~8回のBCG注入が完遂できない場合を指します。BCG治療抵抗性がんの約10%はこれに該当します。これらの患者さんには、BCGの投与量を少なくする、あるいは投与間隔をあけるなどの工夫を行ったり、抗がん剤膀胱内注入療法に切り替えて治療を続けるよう努力します。 可知:3のBCGリラプシング(BCG再発性)の方で再発を繰り返す患者さんでも、BCGは効くのでしょうか? 菊地先生:再発腫瘍においてもBCGに反応性を有していることが少なくないので、場合によっては改めてBCGを実施した方が良いと考えます。 可知:BCG治療抵抗性となった患者さんを対象に、免疫チェックポイント阻害薬PD-1抗体であるペムブロリズマブ(キイトルーダ)の第2相試験(Keynote057試験, JapicCTI-163236 , NCT02625961,)が実施されていますが・・・ 菊地先生:転移性膀胱がんに対しては免疫チェックポイント阻害薬の効果があることがわかってきました。現在、BCGに抵抗性を示す筋層非浸潤性膀胱がんに対して効果があるのかを確認している段階です。

膀胱温存するか否か?~あくまでも筋層浸潤性膀胱がんの標準療法は膀胱全摘~

可知:患者さんからは放射線治療のことをよく聞かれます。放射線療法はどういったケースに行うものですか? 菊地先生:全身状態が悪く膀胱全摘ができないときです。また、患者さんが膀胱温存を強く希望していらっしゃる場合は、条件さえクリアできれば、放射線治療を行うこともあります。その条件は施設によって様々ですが、例えばがんの大きさが小さい、深くまで浸潤していない、水腎症がない、かつ膀胱機能が十分に認められる場合などです。 放射線治療は単独だけでは効果が乏しいため、可能な限り腫瘍をTUR-BTで切除する。そのうえで放射線をかけ、さらに抗がん剤も組み合わせることでより効果が出ます。2002年から2006年、日本放射線癌研究グループで行われた本邦のアンケート調査によると、放射線治療が施行された膀胱がん患者159人の内訳は放射線単独治療が47%、全身化学療法併用放射線治療が21%、動注化学療法併用放射線治療が32%でした1)。治療別の5年全生存率はそれぞれ26%、67%、64%で、放射線単独治療の治療成績が悪いとの結果でした。 1) Maebayashi T, et al, Patterns of practice in the radiation therapy for bladder cancer: survey of the Japanese Radiation Oncology Study Group (JROSG) Jpn J Clin Oncol 2014;44(11):1109-15 可知:膀胱をなるべく温存しようと考える医療機関もあると思いますが・・・ 菊地先生:一部の施設では放射線照射の様式、抗癌剤の投与方法を工夫するなどして積極的に放射線治療を実施しているようです。それぞれ独自のプロトコールで膀胱温存治療が行われているため、詳細な治療成績、合併症の頻度などが十分に把握されておらず、そのため放射線治療は一般化されづらいのではと思われます。少なくとも膀胱がんに対しての知識が高い放射線治療医と泌尿器科医の協力のもと放射線照射により膀胱温存治療がなされるべきと考えます。 放射線療法は膀胱全摘が回避でき、多くの場合治療後も自然な排尿が可能です。一方で前立腺肥大症や膀胱機能低下がもともとある患者さんにおいては、放射線を膀胱に照射することでさらに膀胱機能が悪化し、強い排尿障害が生じる場合もあります。放射線照射は膀胱だけでなく、周りの腸にも及ぶことがありますので、下痢・血便等の副作用が現れたりもします。さらに膀胱を残せば必ず、再発のリスクは残りますので、慎重な定期フォローが放射線治療後に必要となることも留意しておくべきです。 表:膀胱全摘と放射線治療の利点と欠点
膀胱全摘 放射線治療
利点 ・治療が一度で完遂 ・放射線治療後の頻回な経過観察が避けられる ・手術の必要なし ・多くの場合、膀胱機能温存可能 ・ED(勃起不全)のリスク低(30%)
欠点 ・尿路変更術が必要 ・術後回復まで3か月 ・男性;EDのリスク高(90%) ・女性:性機能障害のリスクあり ・脳梗塞、深部静脈血栓症(DVT)など致死的な合併症併発の可能性あり ・疼痛、感染、出血などの一般的外科手術リスクあり ・全身麻酔のリスクあり ・4~7週治療期間を要する ・局所再発のリスクは依然あり、その際に全摘の可能性あり ・下痢、疲労、膀胱炎症状などの短期的合併症のリスクあり ・稀だが永久的な排尿障害のリスク有
可知:それでも、患者さんが膀胱温存を積極的取り入れる医療機関を探している傾向にあると思いますが・・・ 菊地先生:私も放射線療法を積極的に取り入れない理由の一つに、あくまでも、標準治療は膀胱全摘だからです。膀胱全摘のかわりに放射線療法をお勧めする時代がくるとすれば、放射線療法と膀胱全摘の治療成績を前向き臨床試験で評価し、同等の治療成績が確認される必要があると思います。ただ手術治療と放射線治療という全く異なった治療法を直接比較する臨床試験を計画することは極めて難しいと思われます。

第1回記事

[blogcard url="https://oncolo.jp/feature/170508k01"]

第3回記事

[blogcard url="https://oncolo.jp/feature/20170523k"] 記事:可知 健太 この記事に利益相反はありません。
特集 膀胱がん 膀胱がん

3Hメディソリューション株式会社 執行役員 可知 健太

オンコロジー領域の臨床開発に携わった後、2015年にがん情報サイト「オンコロ」を立ち上げ、2018年に希少疾患情報サイト「レアズ」を立ち上げる。一方で、治験のプロジェクトマネジメント業務、臨床試験支援システム、医療機器プログラム開発、リアルワールドデータネットワーク網の構築等のコンサルテーションに従事。理学修士。

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