食道がんの治療の決め方
食道がんの治療では、病期分類に応じた標準治療を基本とし、更に個々の患者さんの全身状態や希望などを総合的に検討して決定されます。
代表的な治療には内視鏡治療、手術、放射線治療、薬物治療がありますが、根治率を高めるためにこれらを組み合わせて使うこともあります。
食道がんの内視鏡的切除
内視鏡を使って食道の内側からがんを切除する方法を内視鏡的切除術と言います。
内視鏡的切除には、内視鏡の先端から輪状の細いワイヤー(スネア)をかけて病変を切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)と、粘膜下層から病変を高周波ナイフにより切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の二種類があります。
基本的には、リンパ節転移がなく一括切除が可能な早期がん(0, I期)が内視鏡治療の対象です。
がんの広がりが食道の3/4周以上に及ぶ場合は、内視鏡的切除後の狭窄リスクが高いため、狭窄予防の処置として、ステロイド局注や内服を行います。
切除した病変を使って病理学的にがんの広がりを診断し、がんが完全に取り切れていない可能性やリンパ節転移の可能性が高い場合には、追加で化学放射線療法や手術を行う場合もあります。
内視鏡的切除は体への負担が少なく、術後の食生活への影響が小さい方法です。合併症として出血や食道に穴が開く穿孔が起きることがありますが、多くは内視鏡によって対処することができます。
その他にも、吐き気やめまい、腹痛など、術後の体調変化には注意が必要です。
食道がんの手術
手術は主に内視鏡的切除が難しいI期からIII期までが対象の治療法です。
基本的には、がんが発生した食道部位の切除、更には転移している可能性のあるリンパ節やその周囲の組織も同時に切除します(リンパ節郭清)。
切除後には、胃や腸を使って食物の通り道を造る再建手術を行います。
手術の種類は、がんが食道の頸部・胸部・食道胃接合部のどの部位にできたかによって異なります。
頸部食道がんの手術
頸部食道がんは、食道がんで最も頻度が高いがんです。頸部の食道の切除に加えて、のど(咽頭・喉頭)や食道全体、周囲のリンパ節を同時に切除することもあります。
手術後は、小腸の一部や胃を使って食道を再建します。のどの切除をした場合には、新たに呼吸のための気管の入り口を作ります。
また、自然な発声が難しくなりますが、発生を補助する機器を使ったりリハビリテーションを行ったりすることで会話ができるようになります。
現在では、胸腔鏡や腹腔鏡を使った鏡視下手術や縮小手術など、手術の低侵襲化が進んでおり、一部の術式では、医療法手術ロボットを使ったロボット支援下手術も保険適用となっています。
胸部食道がんの手術
右胸部と頸部と上腹部を開き、胸部食道全体と胃の一部を取り除きます。また、頸部・胸部・腹部のリンパ節も同時に切除します。
手術後は、胃を引き上げ、残っている頸部食道とつなぎ合わせることで食道を再建します。
現在では、胸腔鏡や腹腔鏡などを使った低侵襲の手術が可能となってきています。
食道胃接合部がん
食道胃接合部がんは食道と胃のつなぎ目にできるがんです。術式は、がんの浸潤度合いによって決定されます。食道側への浸潤が進んでいる場合は手術を行います。
食道側にあまり浸潤が進んでいない場合には、食道の上部は残し、食道の下部と、胃の上半分または全体を切除します。更に、周囲のリンパ節も同時に取り除くことが必要です。
手術後は、残っている胃、小腸や大腸を使って食道を再建します。
手術による副作用としては、消化管の縫い目から食べ物や消化液が漏れることで炎症が起きることがあります。
また、手術が声帯の周囲に及ぶため、誤嚥や痰がうまく排出できないことによる肺炎や嗄声(声のかすれ)などが起きることもあります。
その他、肝・腎・心臓などの臓器障害が起きることもあるため、特にご高齢の患者さんや別の臓器に疾患を持っている患者さんでは、注意が必要です。
食道がんの放射線療法
食道がんは、扁平上皮がんという組織型に分類されるがんが多く、放射線への感受性が高いと言われています。
がんがある部分に対して局所的に放射線を照射する治療法で、食道や胃、のどの機能を極力温存しながら治療を行うことが可能です。
根治率を上げるため、薬物療法と組み合わせて実施する場合もあります。(詳細は薬物療法の項参照)
放射線療法の副作用としては、治療開始から2-3週間程で、照射部位の食道の炎症が起こり、痛みやつかえ感、声のかすれが生じることがあります。
また、照射部位の皮膚の乾燥や日焼けに似た症状、白血球減少などが起こることもあります。
これらの副作用は早期障害と呼ばれ、通常は治療終了後2-4週間ぐらいで改善していきますが、症状が強い場合には治療を途中で中断することもあります。
一方で、治療が終わって時間が経ってから生じてくる副作用もあり、晩期障害と言われています。
具体的には、照射部位に肺や心臓、甲状腺が含まれていた場合、肺炎や心臓の表面の炎症、胸水貯留、甲状腺機能低下などが生じてくる可能性があります。
そのため、治療が終わってからも担当医の継続的な診察を受けることが大切です。
食道がんの薬物療法
食道がんの薬物療法としては、根治を目的として手術や放射線療法と併用して行う場合と、切除不能な進行・再発がんに対して延命を目的として行う場合の二種類があります。
プラチナ製剤であるシスプラチンと代謝拮抗剤であるフルオロウラシルが中心的な薬であり、その他にタキサン系の薬剤や免疫チェックポイント阻害剤のひとつである抗PD-1抗体剤が使われます。
シスプラチン+フルオロウラシル(FP療法)
薬物療法の中心を担う治療法です。
II-III期の食道がんにおいては、根治率を上げるために手術の前に行う術前療法として使われます。また、手術後にリンパ節転移が判明した場合には、術後療法としても使われることがあります。
また、FP療法にドセタキセルを併用したDCF療法も、術前・術後療法として使われます。
更に、切除不能進行・再発食道がんに対する一次治療として、PF療法に免疫チェックポイント阻害剤の一種である抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)やニボルマブ(製品名:オプジーボ)を併用した治療法も承認されています。
臨床試験の結果から、ペムブロリズマブとの併用療法は全例に使うことができますが、ニボルマブとの併用は、PD-L1発現率などを考慮して使うことが推奨されています。
副作用としては、吐き気、食欲不振、口内炎、脱毛などの自分で気付く症状と、白血球の減少、血小板の減少、貧血などの検査で分かる副作用があります。
また、シスプラチンを長期的に使うことで、腎障害、末梢神経障害、内耳障害が出てくることもあります。
化学放射線療法(CRT療法)
食道がんでは、CRT療法がIII(T4)-IVa期の標準治療として使われています。
また、通常であれば手術が標準治療であるI-III(T1-T3)期の中でも、全身状態が悪く手術の侵襲性に耐えられない患者さんや、手術を希望しない患者さんに対しては、CRTが選択されることもあります。
最も標準的なCRT療法では、化学療法にFP療法を同時併用する治療法ですが、FP療法単独で使う場合とは用法・用量が異なります。
ニボルマブ+イピリムマブ
切除不能進行・再発食道がんに対してする一次治療として、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体ニボルマブと抗CTLA-4抗体イピリムマブ(製品名:ヤーボイ)の併用療法が承認されています。
全身状態およびPD-L1の発現状況、忍容性等を考慮して使うように推奨されています。
ニボルマブ・ペムブロリズマブ
免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブ、ペムブロリズマブ単剤療法は、FP療法で増悪が見られた場合の二次治療として使われます。
ペムブロリズマブ単剤療法は、PD-L1陽性の扁平上皮がん、あるいはマイクロサテライト不安定性(MSI-H)が認められた場合にのみ使うことができます。