外科医の視点から見たIII期肺がん治療の現状と課題、近畿大学の光冨徹哉先生がJLCS2022で講演第63回日本肺癌学会学術集会より


  • [公開日]2022.12.12
  • [最終更新日]2022.12.09

12月1日、第63回日本肺癌学会学術集会(JLSC 2022、会期12月1日~3日)が福岡県の福岡国際会議場で行われた。光冨徹哉先生(近畿大学病院特任教授 /Kindai Hospital Global Research Alliance Center センター長)は、「シンポジウム1:III期非小細胞肺癌に対する治療戦略」で、外科医としての視点からIII期肺がん治療の現状と課題を語った。

ICIは「術後よりも術前が望ましい」が慎重になるべき状況も

III期肺がんは非常に多様な病態を含んでおり、世界のガイドラインを比較すると、リンパ節への転移の有無や転移状態によって治療法が統一されていない。

放射線治療においては、同時化学放射線療法(CCRT)後に地固め療法を実施することが現在のSOC(Standard of Care)である。一方、PACIFIC試験やPROCLAIM試験では、地固め療法まで進める症例が全体の約7割である(PROCLAIM試験 senan et al. JCO 2016など)と、光冨先生は問題点を指摘。さらに周術期の薬物療法の開発が進み、手術(CRT)をするか、放射線治療をするかで迷うケースが益々増えているという。

手術を行う場合も、術前・術後薬物療法の選択は難しい。しかしながら、特に免疫チェックポイント阻害剤(ICI)に関しては、マウスの実験や他がん種の臨床試験SWOG S1801)の結果から、光冨先生は「術後よりも術前に使うことが望ましい」と言う。

肺がんにおける術前ICIの試験は、現在日本において承認申請中で、海外でも申請からわずか4日で承認となったCheckMate-816試験がある。この試験では、III期の症例における無イベント生存期間(EFS)のハザード比が0.54と良好な結果をしている。一方で、従来のICIの特徴と同じく、PD-L1陰性症例や扁平上皮がんでは期待ほどの効果が得られていないことから、光冨先生は、「PD-L1発現率組織型に関しては慎重になるべきだ」とコメントした。

「術前・術後の両方のメリットとリスクを説明することが大切」(光冨先生)

海外の術前・術後ICIの臨床試験として、光冨先生はNADIM試験、NADIM II試験という2つの試験を紹介。これはIII期N2症例の中でもmultiple station N2(左右の肺の間に位置する縦隔リンパ節に複数転移が見られる)症例の割合が出ていると言う点で意義深いという(N2症例全体の中で、NADIM試験では54%、NADIM II試験では試験群37%, 対照群35%)。いずれの試験においても、CheckMate-816試験にひけを取らない結果が得られており、これまで手術の対象から除かれていたリンパ節転移のある程度進んだ症例においても、術前ICI治療の対象になる可能性があるとしている。

安全性については、「術前にICI+化学療法を使うことによって合併症や手術の遅れが顕著に増えることはない」と光冨先生。一方、比較対象群と比べて低い数字ではあるものの、17%の症例で手術ができなかった点については、既に承認されている術後ICI療法を検討したIMpower010試験においても、術後ICI治療までに21%が脱落していることから、術前・術後療法でのある程度の脱落は、レジメンによらず起きてくるものだと解釈できるが、患者さんの捉え方は個々で違うため、「術前・術後の両方のメリットとリスクを説明することが大切」と述べた。

術前・術後の治療選択に重要性を増す術前検査

光冨先生は今後、EGFRを含むドライバー変異についても議論していく必要があると言及。また残された課題として、術前ICI治療を実施した症例において、術後のICI治療が必要かどうかと言う点を指摘したが、これに関しては、術前・術後療法にICIレジメンを使う治験が現在進行中であるという。

一方、術前ICIから手術に進むのか、PACIFICレジメン(同時化学放射線療法→ICI地固め療法)をすべきなのかという治療選択も難しくなる。さらにPD-L1ステータスやEGFR変異の有無によって周術期治療の選択肢が変わってくる可能性もあることから、術前の検査が重要になることに関しても言及し、講演を締め括った。

■参考
第63回日本肺癌学会学術集会

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