ESMO 2022 がん種別にみたポイント


  • [公開日]2022.09.29
  • [最終更新日]2022.09.29

こんにちは。オンコロの浅野です。9月9日から13日まで、フランス・パリにてESMO(欧州臨床腫瘍学会)2022が開催されました。オンコロジー(腫瘍学)領域として欧州最大の学術集会(学会)であるESMOでは毎年多くの注目演題が発表されています。今回は、「ESMO 2022 がん種別にみたポイント」と題し、注目を集めた演題とそのディスカッションポイントをまとめて紹介いたします。

肺がん

LBA47:Osimertinib as adjuvant therapy in patients (pts) with resected EGFR-mutated (EGFRm) stage IB-IIIA non-small cell lung cancer (NSCLC): Updated results from ADAURA

対象:術後のEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)
薬剤:オシメルチニブ(製品名:タグリッソ

腫瘍を完全切除した早期(IB、IIおよびIIIA期)上皮成長因子受容体変異陽性(EGFRm)非小細胞肺がん(NSCLC)患者の術後補助療法として、オシメルチニブの無病生存期間DFS)延長効果が、長期観察でも認められた。一方で、3年の服用期間以降、脳転移を含むイベント数の増加が目立ってきており、TKIによる腫瘍根絶の難しさを感じさせるデータであった。

術後補助療法としてのオシメルチニブは、日本でも今年(2022年)の8月24日に承認されたが、IB期は承認対象外である点が、海外と異なる。今後オシメルチニブが国内外において実臨床においてどのように使われていくのか注目していきたい。

その他、INCREASE試験(950O)やKEYNOTE-091(930MO)など、今回の学会でも周術期のデータが数多く発表された。

LBA55 – Trastuzumab Deruxtecan (T-DXd) in Patients (Pts) With HER2-Mutant Metastatic Non–Small Cell Lung Cancer (NSCLC): Interim Results From the Phase 2 DESTINY-Lung02 Trial

対象:HER2 遺伝子変異を有する既治療の転移性非小細胞肺がん(NSCLC)
薬剤:トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、製品名:エンハーツ

前治療歴のある HER2 遺伝子変異を有するNSCLC患者(5.4mg/kg 投与群 52 名、6.4mg/kg 投与群 28 名)において、臨床的に意義のある有効性が示され、特にT-DXd 5.4mg/kgの投与量でより良好な安全性プロファイルが示された。T-DXd( 5.4mg/kg)は、既治療でHER2変異のあるNSCLC患者に対し、既にFDAの迅速承認を受けている。HER2遺伝子変異を有する NSCLCに対する初のHER2をターゲットとした薬剤であり、肺がん領域においては抗体薬物複合体ADC)としても初の承認薬としてインパクトが高い。

この薬剤が日本でも早く患者さんに届くことを期待したい。

メラノーマ

LBA3 – Treatment with tumor-infiltrating lymphocytes (TIL) versus ipilimumab for advanced melanoma: Results from a multicenter, randomized phase III trial

対象:進行性メラノーマ(悪性黒色腫)
薬剤:腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法

進行性メラノーマにおいて、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法(患者本人のがん組織中のTILを採取し体外で大量培養後、患者の体内に戻す治療法)が、標準療法イピリムマブ単独剤)と比較して無増悪生存期間の有意な改善を示した第III相試験。現在の標準療法がイピリムマブ単剤ではなく抗PD-1抗体薬との併用療法になりつつあることなどの指摘はあるが、TIL療法と標準免疫療法を比較した初のランダム化試験であり、抗PD-1抗体抵抗性の症例にも効果を示した点でインパクトが高い。

TIL療法は現在、肺がん、子宮頸がん、頭頚部がんなどの多くのがん腫でも臨床試験が進行中とのこと、TIL療法が多くの施設で広く患者さんに提供できる日が来ることを願いたい。

LBA6 – Neoadjvuant versus adjuvant pembrolizumab for resected stage III-IV melanoma (SWOG S1801)

対象:術前・術後メラノーマ(悪性黒色腫)
薬剤:ペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ

ICIが効果を発揮するためには、T細胞がneoantigenと出会うことにより腫瘍抗原特異的T細胞が活性化されることが必須である。手術によりneoantigen(T細胞による攻撃の標的となり得る腫瘍特異的な抗原)の供給源である腫瘍や、T細胞が抗原提示細胞を介して活性化する場であるリンパ節が取り除かれてしまうことから、周術期でICIを使う場合には、術後よりも術前の方が良いと考えられてきた。

本試験は、実際に術前と術後のどちらでICIがより効果的かを臨床的に確かめた、初めてのランダム化第II相試験。切除可能ステージIII-IVのメラノーマにおいて、ペムブロリズマブの術前投与は術後投与と比較してPFSが有意に延長し、これまでの仮説を裏付ける結果となった。

術前治療により、その後の手術への影響や長期的なAEの懸念があるため、全例に術前ICIが推奨されることはないが、今後多くのがん種で周術期ICIの開発が進む中、治療の判断に重要な示唆を与えるデータだろう。

大腸がん

LBA7 – Neoadjuvant immune checkpoint inhibition in locally advanced MMR-deficient colon cancer: The NICHE-2 study

対象:ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)を有する術前の大腸がん
薬剤:イピリムマブ(製品名:ヤーボイ)とニボルマブ(製品名:オプジーボ)の併用療法

ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)に対する術前補助療法において、イピリムマブとニボルマブの併用療法が劇的な効果を示した。(MPR 率 95%、うち pCR 67%)今回のESMOで最も注目度が高かった演題であり、術前治療でこれだけの病理学的奏効が得られるのであれば、手術がいらなくなるのでは?と思わせるほどのデータであった。

今回対象となったdMMRは、DNAの損傷を修復できず、常にneoantigenを産生している特殊なケースではあるが、それを差し引いて考えても、術前補助療法における免疫チェックポイント阻害剤(イピリムマブ+ニボルマブ)の威力を見せつけられた強烈なデータである。

318MO:Circulating tumour DNA (ctDNA) dynamics, CEA and sites of recurrence for the randomised dynamic study: Adjuvant chemotherapy (ACT) guided by ctDNA analysis in stage II colon cancer
LBA28:Prognostic effect of imaging and CEA follow-up in resected colorectal cancer (CRC): Final results and relapse free survival (RFS) – PRODIGE 13 a FFCD phase III trial

手術はそれ自体が根治を目指せる治療法であるからこそ、不要な術後治療を最小限にしつつ、再発を早期に発見に治療介入を開始することが重要になってくる。今回大腸がん領域において、術後のフォローアップに関連した二つの演題が発表された。

一つ目のDYNAMIC試験は今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で既に発表されており、今回は探索的解析の結果であった。術後のctDNA解析が局所再発よりも遠隔再発の予測に高感度であること、また、術後補助化学療法後のctDNAクリアランスが良好な転帰と関連することが示された。

術後治療における薬剤開発が進む中、術後に薬物療法を受けるべき再発リスクの高い患者と、手術単独で十分効果が期待できる(=術後薬物療法が不要な)リスクの低い患者を区別する必要がある。今後更なる技術の改善や大規模な解析が進むことで、ctDNAのモニタリングによる微小残存病変の検出が、実臨床における術後治療のフォローアップのツールとなり得る。

一方のPRODIGE 13試験では、CTスキャンによる集中的な術後フォローアップにより、再発時に治癒を目的とした外科的治療を行う割合が増加したと発表された。

周術期の薬剤開発が進んでいく中で、術後症例に対し、どのような症例にどのタイミングでどんな治療介入をすべきか、今後も大腸がんに限らず重要な課題になってくるだろう。

乳がん

LBA13 – Nivolumab and ipilimumab in early-stage triple negative breast cancer (TNBC) with tumor-infiltrating lymphocytes (TILs): First results from the BELLINI trial

対象:トリプルネガティブ乳がん
薬剤:ニボルマブ(製品名:オプジーボ)と低用量イピリムマブ(製品名:ヤーボイ)の併用療法

術後補助療法のチェックポイント阻害剤(ICI)の開発が進む中、どのような症例に使うべきかという重要な課題が残されている。

本試験は、ニボルマブ±低用量イピリムマブの投与が、TILを有するTNBCにおいて免疫応答を誘発するという仮説の検証を目的とした第II相非無作為化バスケット試験の試験であり、今回のESMOで乳がんにおける最初の結果が発表された。TILを有するTNBC患者の多くが、わずか4週間のICI投与で、免疫活性の上昇と高い奏効を示した。この結果を受けて、TILs陽性TNBCに対して、術前化学療法を使わないICI単独での術前補助療法の可能性も期待される。

また、より早期に対する薬剤開発においては、根治を目指せる可能性が高いからこそ、有効性だけでなく長期的に見た慎重なQOLの解析も重要になっていくだろう。

婦人科がん

LBA29: Final overall survival (OS) results from the Phase III PAOLA-1/ENGOT-ov25 trial evaluating maintenance olaparib (ola) plus bevacizumab (bev) in patients (pts) with newly diagnosed advanced ovarian cancer (AOC)

対象:プラチナ系抗癌剤ベースの化学療法+ベバシズマブ1次治療後の進行卵巣がん
薬剤:オラパリブ(製品名:リムパーザ)とベバシズマブ(製品名:アバスチン)の併用療法

517O – Overall survival (OS) at 7-year (y) follow-up (f/u) in patients (pts) with newly diagnosed advanced ovarian cancer (OC) and a BRCA mutation (BRCAm) who received maintenance olaparib in the SOLO1/GOG-3004 trial

対象:プラチナ系抗がん剤ベースの化学療法に奏効を示したBRCA1/2遺伝子変異陽性卵巣がん
薬剤:オラパリブ(製品名:リムパーザ)

SOLO1/GOG-3004試験およびPAOLA-1/ENGOT-ov25試験の結果は、BRCA変異/HRD陽性患者がPARP阻害剤の維持療法により長期的な恩恵を受けられること(特に生存期間の延長が期待できること)、また当初懸念されて二次的な急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群MDS)の発生が長期追跡後も少なかったことが示された。これにより、BRCA変異/HRD陽性症例に対するオラパリブへの期待や遺伝子検査の重要性が強調された。
一方で、HRD 陰性患者に対するオラパリブの効果の検討が進んでいるものの、OSベネフィットを示すにはいらっておらず、治療選択肢の研究は未だアンメットニーズとなっている。

前立腺がん

LBA9 – Duration of androgen deprivation therapy (ADT) with post-operative radiotherapy (RT) for prostate cancer: First results of the RADICALS-HD trial (ISRCTN40814031)

対象:前立腺全摘後の前立腺がん
治療:アンドロゲン除去療法(ADT)と放射線療法(RT)の併用

LBA64 – Duration of androgen suppression with post-operative radiotherapy (DADSPORT): A collaborative meta-analysis of aggregate data

RADICALS-HD試験では、早期前立腺がんにおける根治的前立腺全摘出術後の術後放射線療法(RT)へのアンドロゲン除去療法(ADT)併用の役割と適切な治療期間が初めて検討された。RTのみと比較し6カ月ADT併用群では効果に差が見られなかったが、24カ月ADT併用にて無転移生存期間(MFS)および無遠隔転移(FFDM)率が有意に改善された。

このRADICALS-HD 試験も含めたDADSPORT試験のメタ解析では、現時点ではOSの改善までは示されていない。もともと対象としている症例の予後が良好であり、特にRADICALS-HD試験に関してはOSの追跡が十分ではないため、今後毒性も含めた更なる長期の追跡データが必要とされている。年齢、高リスク症例、心血管疾患の併存などの特徴、また予後バイオマーカーなどが検討されることにで、高い治療効果が期待できる症例を正しく選択していくことも重要である。

肝細胞がん

LBA36:Final analysis of RATIONALE-301: Randomized, phase 3 study of tislelizumab versus sorafenib as first-line treatment for unresectable hepatocellular carcinoma

対象:未治療の進行性肝細胞がん
薬剤: tislelizumab(チスレリズマブ)

LBA35:Camrelizumab (C) plus rivoceranib (R) vs. sorafenib (S) as first-line therapy for unresectable hepatocellular carcinoma (uHCC): A randomized, phase III trial

対象:未治療の進行性肝細胞がん
薬剤:camrelizumab(カムレリズマブ)とapatinib(アパチニブ)の併用療法

肝細胞がんに対する抗PD-1抗体の有望な二つの第III相試験のデータが発表された。
ひとつはRATIONALE-301試験であり、切除不能な肝細胞がん患者を対象に、ソラフェニブに対する抗PD-1抗体tislelizumabの非劣勢を示した。Tislelizumabは一般的にソラフェニブよりも忍容性が高いため、今回のデータは臨床的に意味のある結果である。

もうひとつは、切除不能な肝細胞がん患者を対象に、抗PD-1抗体camrelizumabとTKIであるapatinibの併用とソラフェニブ単剤を比較した試験であり、併用によるPFS、OSの有意な改善を示した。

肝細胞がんにおける抗PD-1抗体の開発に期待が高まる中、今後はより肝機能が低下した症例に対する抗PD-1抗体の評価が必要であるとされている。また、肝細胞がんにおける個別化治療を発展させていくために、治療効果と相関し得る遺伝子変異の特定やその他のバイオマーカー探索の必要性が指摘された。

腎細胞がん

BA8 – Phase III study of cabozantinib (C) in combination with nivolumab (N) and ipilimumab (I) in previously untreated advanced renal cell carcinoma (aRCC) of IMDC intermediate or poor risk (COSMIC-313)

対象:未治療の進行性腎細胞がん
薬剤: カボザンチニブ(製品名:カボメティクス)とイピリムマブ(製品名:ヤーボイ)とニボルマブ(製品名:オプジーボ)の併用療法

COSMIC-313試験は進行腎細胞がんを対象とした第III相試験で、ICI併用療法(イピリムマブ+ニボルマブ)に対し、更にTKIの追加によりPFSが改善することを示した点で新規性が高い。一方で、今回の併用によりICIの弱点である早期進行が改善されたにも関わらず、OSの結果は公表されておらず、実臨床への導入のためには更なるOSの追跡が必要である。また、進行腎細胞がんを対象としたCheckMate 9ER試験において、ニボルマブとカボザンチニブにイピリムマブを追加した3剤併用群は、毒性中止となった背景があり、今回のCOSMIC-313試験においても慎重な毒性プロファイルの情報収集が必要だとされている。

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