2023年10月20日から24日まで、スペイン・マドリードでESMO(欧州臨床腫瘍学会)が開催された。がん領域としてASCO(米国腫瘍学会)に続く最大規模の学術集会(学会)であるESMOでは、毎年多くの注目すべき研究結果が発表されている。今回は、「ESMO 2023 がん種別にみたポイント」シリーズと題し、乳がんの目玉となったデータとそのディスカッションポイントをまとめてみた。
早期乳がん
ER+HER2-早期乳がんに対する術前化学療法および術後内分泌療法へのニボルマブ(製品名:オプジーボ)の上乗せ:CheckMate-7FL試験【Abstract#LBA20】
ER+HER2-早期乳がんに対する術前化学療法および術後内分泌療法へのペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)の上乗せ:KEYNOTE-756試験 【Abstract#LBA21】
いずれも術前・術後療法に対する抗PD-1抗体上乗せを検討した点で非常に類似した試験であり、同程度の病理学的完全奏効の改善が確認されている。しかしながら、両試験ともに追跡期間が短いため、無再発生存期間(RFS)のデータが出ておらず、今後更に追跡を続けることで、術後再発をどの程度抑えることができるのかを明らかにすることが、実臨床への導入のカギとなり得る。
トリプルネガティブ乳がんでは、既に周術期でキイトルーダが承認されており、今年のESMOで長期追跡(中央値63.1ヵ月)後も無イベント生存期間(EFS)の持続的な延長が示された。今後抗PD-1抗体がER陽性乳がんの周術期治療にも導入されることが期待されると同時に、術前・術後の抗PD-1抗体が本当に必要な症例を絞り込むバイオマーカーの解析が進むことが望まれる。
「ホルモン受容体陽性乳がんに対する術前・術後療法へのキイトルーダの追加、病理学的完全奏効率を有意に改善」
HR+HER2-高リスク早期乳がんに対するアベマシクリブ(製品名:ベージニオ)+内分泌療法の術後療法:monarchE試験(5年解析結果)【Abstract#LBA17】
サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害薬の有用性に関しては、既にベージニオのmonarchE試験とリボシクリブのmonarchE試験でそれぞれ有望な結果が報告されている。
今回のESMOでは、monarchE試験の長期追跡(中央値54カ月)後の結果から、アベマシクリブの効果が治療終了後も持続して認められたことが報告された。また長期安全性プロファイルも良好であり、内分泌療法とCDK阻害剤の併用を支持するデータをなった。
なお、リボシクリブは現時点では本邦では未承認である。
脳転移を有するHER2+転移性乳がんに対するトラスツズマブ デルクスデカン(T-Dxd, 製品名:エンハーツ):DESTINY-Breast01,02,03試験(プール解析)【Abstract#377O】
第2相DESTINY-Breast01試験(NCT03248492)および第3相のDESTINY-Breast02試験(NCT03523585)とDESTINY-Breast03試験のプール集団において、脳転移症例に対する頭蓋内奏効率や奏効期間を後ろ向きに解析。脳転移に対する過去の治療歴の有無にかかわらず効果が認められ、更に症状が安定している脳転移だけでなく、活動性の脳転移に対しても同程度の効果が見られた点は評価すべきであり、脳転移に対するT-Dxdの使用を支持するデータとなりそうだ。
今回の結果は後ろ向き解析であるという限界もあるため、今後更に頑健なエビデンスが出てくることに期待しつつ、放射線治療などの局所療法と併せ、最適な治療法・治療の順番などを考えていく必要がありそうだ。
進行乳がん
治療歴のあるHR+HER2-転移再発乳がんにおけるダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)と化学療法の比較:TROPION-Breast01試験【Abstract#LBA11】
HER2陰性の既治療乳がんにおいて、従来の化学療法と比較して抗体薬物複合体(ADC)が有効であることを示したデータであり、学会の中でも最も注目のデータが集まるPresidentialセッションで発表された。
化学療法で問題となる好中球減少症などの重篤な有害事象発症率が低いことも評価すべき点であるが、悪心や口内炎が多く出ている点は、QOLの観点から見ると問題かもしれない。
ADCの開発が進む乳がんでは、Dato-DXdに加えてサシツズマブ ゴビテカンやエンハーツなどでも同等の効果が見込まれていることから、今後のADCの選択や耐性機序などに応じた使用の順番などが検討課題となりそうだ。