分散型臨床試験(DCT)の臨床試験への導入を目指して~西日本がん研究機構が勉強会を開催~


  • [公開日]2024.09.11
  • [最終更新日]2024.09.06

8月17日、西日本がん研究機構(WJOG)主催の「DCTに関する勉強会」がオンラインにて開催された。
コロナ禍をきっかけに、遠隔診療の重要性が増している。治験の大きなキーワードとなるDCTについての理解を深めることを目的とした会としてエキスパートの先生からの講演が行われた。

効率的なDCTの実現を可能にするITツール開発(株式会社MICIN オンライン医療事業部 DCTユニット 松永 拓真 氏)

松永氏の所属する株式会社MICINの臨床開発デジタルソリューション事業では、DCTプラットフォームMiROHAシステムの開発・提供を通じた治験業務効率化に取り組まれている。DCTリーディングカンパニーとして、国内の適切なDCT社会実装に向けた啓蒙活動や、製薬企業・医療機関との協業を日々推進。

DCTの導入メリットとしては、被験者募集の加速化&業務効率化による治験コスト削減(製薬企業側の価値)、治験アクセスの簡便化&治験参加の負担軽減(患者側の価値)が主に挙げられるが、治験業界ではシステムの乱立により医療機関側の負担増に繋がる場面も多く、業務負荷の軽減は実現されていない、と松永氏は指摘。
その解決に向けて開発を進めているサービスは主に2つ。オンラインによる診療やeConsentを用いた被験者募集(企業と大学病院との協業による治験の被験者募集の加速化や臨床試験ネットワークとの協業による活性化の実現も進んでいる*)、およびeSource・治験データのデジタル化(遠隔モニタリングや、DCT実施時の医療機関同士の情報やり取り円滑化を目指してシステム構築が進んでいる)サービスであり、医療機関へのシステム導入を通じた課題解決を図っているとのこと。

これからのDCT普及への展望として、システムの院内統一による効率化とコスト削減、日本の試験オペレーションに最適化されたシステム開発・導入、普段使い慣れたシステムの利用、そして医療機関での業務負担軽減につながる基盤構築を目指している、と松永氏は語った。
現在、臨床研究医師主導治験・企業主導治験など、様々な試験導入に向けた院内体制構築支援・導入コンサルティングを実施中とのこと。その他DCTについて理解を深めるためのワークショップや個別相談なども可能である、と呼びかけて講演を締めくくった。

MICIN社との協業によるオンライン診療導入の取り組み(聖マリアンナ医科大学病院 腫瘍内科 砂川 優 先生)

現在のがん領域における治験は、臓器横断的に希少な対象において実施されるケースが増えていること、また治験実施施設が限定されていることから、症例組み入れが難渋していることを砂川先生は指摘。
このような現状において同意説明の遠隔化を導入することで、来院困難などの疾患の特性に合わせた対応が可能であり、患者さんの利便性が上がること、また医療機関側においても、同意説明を組みやすくなり、CRCの院外からの補助説明も可能になるなどのメリットがある。
また、砂川先生によると、オンライン診療を利用した治療に関する患者さんアンケート結果では、近くのかかりつけ医での診察・検査を受けながら、必要に応じてがん専門病院の医師がオンラインで同席するシステムの利用希望が約5割を占めており、主治医につながりながら専門医への相談を希望する患者さんが多いことが示されている(腫瘍内科遠隔医療分科会による2023年のアンケート調査結果より)。

既に砂川先生の所属する聖マリアンナ医科大学とMICIN社は、2021年にICT(情報通信技術)を活用したDxに関する包括協定を締結している。オンライン診療システムを利用した治験プレスクリーニングの実装可能性を検討した研究を実施した先生自身の経験を基に、実際のスクリーニングフローの詳細を紹介した(システム構築の成果は2022年のJSMO(日本臨床腫瘍学会学術集会)にて発表済)。

砂川先生はオンライン診療システムの院内導入に関して、初診時からのオンライン診療の妥当性検討、MiROHA導入による実施体制の構築、院内の手順書の作成の具体的な準備について詳しく説明した。砂川先生が実施した遠隔による同意説明の方法は、当初は診療のみオンライン(患者さん自身のスマホと治験実施施設のパソコンを使用)で実施し、同意の署名は郵送による紙媒体というハイブリッド型を採用。現在はそこにeConsentシステムが加わったことで、同意説明から署名まですべてオンラインで完結させることが可能となった。ただし、後者は患者さん側もかかりつけ医やCRCのサポートを受けながらオンライン診療用のタブレットで診療を受ける必要があるため、自宅での実施は難しくなった点は課題であると砂川先生は指摘した。

最後に、同意説明の遠隔化のためのキータスクとして、治験にかかわるスタッフへDCTの認知を広めて仲間を増やすこと、手順書の改良を重ねること、遠隔ならではの被験者サポート法を確立していくこと、そしてシステムプロバイダとの連携により良いシステム作りを一緒に実現していくこと、と砂川先生は述べた。
11月には岡山県にて、日本遠隔医療学会学術集会も開催されるとのこと、オンコロジー領域における遠隔医療を進めていく動きが期待される。

新薬開発におけるDCTの普及に向けて:現状と今後への期待(愛知県がんセンター 薬物療法部 谷口 浩也 先生)

谷口先生は、これまで希少な疾患を対象とした医師主導試験を複数手がける中で、登録が進まず、限られた資金で治験実施施設を増やすことも難しい、という苦悩に直面し、オンライン治験という着想に至ったと言う。
最初にオンライン診療を導入したALLBREAK試験(WJOG15221M)は、ALK融合遺伝子陽性固形がん(肺がんを除く)という極めて希少な対象であり、一方で比較的良好な安全性プロファイルの内服薬を使った医師主導治験という条件が最初のDCT試験として最適であった、と谷口先生は振り返った(Taniguchi H et al. Cancer Sci 2023)。また、DCTは治験実施機関のPI(治験責任医師)が中心となって進めていく必要があるため、PIの高いモチベーションが成功のカギであると谷口先生は自身の経験を語った。

現時点ではDTCに関しては様々な誤解がある、と谷口先生。
まず一つ目が、遠隔診療は「危ない」という誤解。オンラインでの診察で得られる情報に限りがあるという課題はあるが、緊急時でも患者さんの情報を把握しているパートナー医療機関による適切な対応が可能であるため、患者さんの安全性は高い。
続いて「(パートナー医療機関に)なりたい」という誤解。パートナー医療機関の選定には二種類の方法があり、事前に特定のパートナー医療機関を決めておくプレコントラクト型がある一方で、候補の患者さんが見つかった段階で初めてパートナー医療機関契約を進めるオンデマンド型がある。後者の場合には患者さんが起点となり、どの施設でもパートナー医療機関になりうる。
また「(治験契約完了までが)遅い」という誤解。実際には、全国どこでも一カ月以内に治験の治療開始に至っていることを示し、全国に質の高い病院がある日本の強みである、と谷口先生は語った。
最後に「高い、ムズイ」という誤解。DCTというと整備にお金がかかり手順が難しいイメージがあるが、実際は専用システムを使わずにZOOMなど使い慣れたシステムでのオンライン診療も可能であり、またeConsentやデータ共有に関しても、紙媒体と組み合わせながらお金をかけずに実施可能とのこと。更にDCTのための手順書類は、令和5年度AMED研究開発推進ネットワーク事業(谷口班)の成果としてWeb上で公開予定であるので参考にしてほしいとのことだ。

eConsentに関しては、患者さんがパートナー医療機関側のかかりつけ医師同席の下、治験実施機関からのオンライン診療を受ける、という「Doctor to Patient with Doctor (D to P with D)」型のメリットが大きい、と谷口先生。ただし、パートナー医療機関に負担が出てくるのは事実であり、かかりつけ医師、CRC、外来看護師をはじめとするスタッフなど、パートナー医療機関への人的・金銭的サポートも一つの課題となりそうだ。オンライン診療による登録期間短縮や試験コスト削減と、DCTコストやパートナー医療機関へのサポートのバランスをとっていくことが重要になってくる。

ALLBREAK試験は、DCT導入により当初の予定よりも早く2024年3月に患者登録を満了した。参加した患者さんの約40%がオンライン治験患者さんであったことから、オンライン治験の導入によりの約40%の登録数増加を達成したと言える。現在、更に目標登録者数を当初の倍の28例にして募集継続中とのこと。途中脱落者もなく順調に進んでいるようだ。また、北海道から九州まで日本全国の患者さんが主治医を変えずに治験参加を実現しており、対面診療かオンライン治験(D to P with D型)か、患者さんが治験参加方法を選択可能であることも患者さんのメリットになっていると言う。

今後のDCTを他試験へ展開していくため、希少がんである唾液腺がんに対する経口キナーゼ阻害剤の医師主導P2試験でも、複数の医療機関でDCTを導入予定とのこと。更に、他の臨床試験グループでは企業治験として未承認薬でも、臨床試験グループの枠組みを生かしたDCTの取り組みも進んでいる。
一方で、日本においては、学会の取り組みが海外と比較して遅れていることを谷口先生は指摘。DCTの推進は国策として積極的に進められているため、今後ドラッグラグ・ロス解消の手段として大きな期待がかかっている、と今後の展望を語った。

DCTの登場によりHub and Spoke型(スクリーニング施設と治験実施施設が分断される体制)の臨床試験の時代は終わりを迎え、スクリーニング施設と治験施設という分断を生む思想はなくなり、DCTを基盤とした遠隔スクリーニングとオンライン治験による全員参加型の時代になる、と谷口先生。登録促進とコスト削減により、治療開発促進が期待できる重要なシステムであるため、DCTの導入を検討することは今後のPIの責務である、と強調し講演を締めくくった。

関連リンク
西日本がん研究機構(WJOG) ウェブサイト

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