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治療介入によりRAS遺伝子が野生型に変化した大腸がんの臨床的特徴を解明:抗EGFR抗体薬の新たな治療標的の可能性

がん研究会有明病院と国立がん研究センターは7月19日、転移性大腸がん患者における血漿循環腫瘍DNA(ctDNA:がん細胞から血液中に流出したDNA)を使った解析によって、治療介入によりRAS遺伝子変異型から野生型へ変化した患者の割合、および変異ステータスの変化に関連する臨床病理学的特徴を初めて明らかにしたことを発表した。

RAS遺伝子変異型のがん細胞は、増殖シグナルが恒常的に活性化されており、転移性大腸がんの主要な治療である抗EGFR抗体薬の効果を期待できないため、RAS遺伝子変異型転移性大腸がん患者はRAS野生型の場合と比較して予後不良と言われている。

しかしながら、RAS遺伝子変異型の場合であっても、治療介入後にRAS野生型に変化することで抗EGFR抗体の効果が期待できる可能性が指摘されている。そのため、このRAS変異ステータスの変化が起きる割合、および関連する臨床病理学的因子が明らかにすることは重要である。

そこで同研究においては、GOZILA studyに登録された転移性大腸がん患者のうち、薬物療法前の遺伝子検査でRAS遺伝子変異が確認された478名を対象とし、治療変更時のctDNA中にRAS遺伝子変異が検出されなかった患者(A群)の割合を求めたところ、19.0%であることが明らかとなった。そのうち潜在的な交絡因子を除外し、少なくともひとつの他の体細胞変異が認められた患者(B群)の割合は、9.8%であった。

更にRAS遺伝子変異ステータスの変化(変異型→野生型)に関連する臨床病理学的な特性を検討した結果、肝転移またはリンパ節転移がないこと、大腸がんでは頻度の低いタイプのRAS遺伝子変異(KRAS エクソン2以外)があることが明らかになった。

以上より、これまで抗EGFR抗体薬の効果が期待できないとされていたRAS遺伝子変異型転移性大腸がんであっても、約1割の患者において、抗EGFR抗薬の恩恵を受ける可能性が示唆された。同研究の結果を踏まえ、RAS遺伝子変異型からRAS野生型に遺伝子変異ステータスが変化する転移性大腸がんに対し、抗EGFR抗体薬を含む治療の有効性安全性を検討するための臨床試験(C-PROWESS試験、jRCT:s031210565)が現在進行中だ。

また同研究の結果は、転移性大腸がん患者の治療方針を決定する際の重要な情報として活用されることが期待される。

なお今回の成果は、7月13日付で科学雑誌「Nature Communications」に掲載されている。

参照元:
がん研究会有明病院 プレスリリース

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