AYA世代のがん関連研究の現状と今後は? AYAがんの医療と支援のあり方研究会が市民公開講座を開催


  • [公開日]2021.04.19
  • [最終更新日]2021.04.19

AYA(アヤ:Adolescent and Young Adult)世代は、15歳から40歳未満の思春期・若年成人のこと。この世代のがんは希少がんが多く多様で、さまざまな診療科で診察されているが、学業、就労、家事・育児・介護と治療との両立、恋人・友人などとの関係性、生殖機能の温存、長期的な健康管理など、さまざまな課題を抱えている。AYAがんの医療と支援のあり方研究会が、3月20日、第3回学術集会のシンポジウム2/市民公開シンポジウム「AYAがん関連研究の現状と今後」をオンライン開催。AYA世代のがんの患者が直面する課題解決に向けた研究の成果や途中経過を報告した。

多職種でサポートするAYAがん支援チームの全国展開必要


国立国際医療研究センター病院
乳腺・腫瘍科診療科長
清水千佳子氏

 シンポジウムでは、最初に、第3回同研究会学術集会会長で国立国際医療研究センター病院乳腺・腫瘍科診療科長の清水千佳子氏が、AYA世代のがん患者の包括的ケア提供体制について発表した。清水氏が代表を務める厚生労働省の「AYA世代がん患者の包括的ケア提供体制の構築に関する研究」班では、北海道大学病院、国立がん研究センター中央病院、名古屋医療センター、大阪市立総合医療センター、九州がんセンターなど全国14か所のモデル病院でAYA支援チームを結成。医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー(社会福祉士)、心理士(公認心理師)、理学療法士など多職種のチームが、地域のがん診療医療機関とも連携して、AYA世代のがん患者のニーズのアセスメントを行い、適切な支援への橋渡しをしている。

 清水氏は、「特にがん専門病院ではない総合病院や大学病院では、AYA世代のがんの患者さんをどう拾い上げてスクリーニングするかに、どこも一番苦労しています。また、AYA支援のための時間の不足、人員配置など資金的な制約も課題です」と話した。そして、AYAがん支援チームを全国に普及させ、この世代のがん患者のサポートを進めるためには、「がん診療連携拠点病院の指定要件に入れるなどの措置が必要ではないでしょうか」と指摘した。


(清水千佳子氏発表資料より)

オンライン授業も活用し高校生患者の治療と学業の両立支援を

 「AYA世代がん患者に対する精神心理的支援プログラムおよび高校教育の提供方法の開発と実用化に関する研究」の中で、12~20歳のがん患者向けに、「疾病受容を促すための意思決定支援手引き」を作成していることを紹介したのは、同研究班代表で、名古屋医療センター臨床研究センター上席研究員の堀部敬三氏だ。また、AYA世代の患者の心理的苦痛と支援ニーズをスクリーニングして評価し、心理士、医療環境にある子どもに心理社会的支援を行うチャイルド・ケア・スペシャリスト、ソーシャルワーカー、看護師など多職種で支援を行う「包括的精神心理的支援プログラムの開発」も構築中という。


名古屋医療センター臨床研究センター
上席研究員 堀部敬三氏

 高校生のがん患者にとっては、治療と学業との両立も大きな課題だ。この研究班が、日本小児がん研究グループ(JCCG)に所属する204施設と成人白血病治療共同研究機構(JALSG)参加223施設を対象に行った「療養中の高校教育継続に関するWeb調査」の結果では、成人診療科では、高校生がん患者の教育状況について意識されていない可能性があることが明らかになった。国立がん研究センターが、2019年9月~20年4月に小児がん患者2511人に対して実施した「小児患者体験調査」によると、がん治療のために高校生の61.3%が休学し、8.8%が退学している。小中学生に比べて、治療と教育の両立ができる配慮が受けられた高校生の割合は明らかに少ないのが実態だ。

 「文部科学省はメディアを用いた高校教育を制度化し、単位取得についても上限のない例外を認めているにも関わらず、臨床現場では高校生の教育支援が実現できていません。自治体でも生徒・保護者や在籍校からの連絡に頼っているところが多く、がんで入院した高校生の把握と支援のための体制構築が必要です。コロナ禍で遠隔教育の整備が進んだこともあり、私立学校に通う生徒も含めて入院した高校生などの把握を自治体がしっかり行えば、理想とする支援が進むと考えられます」。「精神心理的支援プログラムと高校教育提供の方法の開発-厚生労働科学研究における取り組み」をテーマにした発表の中で、堀部氏は、そう訴えた。

AYAがん患者の臨床試験への参加促進へ、小児科と成人診療科の連携が不可欠

 AYA世代のがん治療が注目された理由の一つは、小児がんに比べて、5年生存率の改善率や10年相対生存率が低いことにある。特に、脳腫瘍、急性リンパ性白血病については、日本だけではなく欧米でも小児患者に比べて治療成績が悪い。

 この問題について、堀部氏は、「AYA世代の患者さんの臨床試験への参加率が低いことも、治療成績が悪い要因の一つ」と指摘。「AYA世代のがん治療開発の半分近くは小児がん研究グループを中心に行われていますが、10代後半のがん患者さんの8割以上は成人診療科で診療されているのが実態。各医療機関における小児科と成人診療科との積極的な交流がないと、AYA世代の患者さんの臨床試験への参加が難しい状況です。また、AYAがんの治療の開発のためには、日本小児がん研究グループと成人臨床試験グループとの連携が不可欠です。研究においては患者・市民の声を反映する必要があり、AYA世代の患者さんにも研究の計画時点から参画してもらって治療開発を進めるということが非常に重要です」と強調した。

 一方、標準治療がないか終わった段階の固形がんの患者を対象に、次世代シークエンサー(NGS)を用いて100種類以上の遺伝子の異常を一度に調べる2種類の遺伝子パネル検査が、19年6月から保険適用になっているが、希少がんが多い小児・AYA世代の患者には適した内容ではないとの指摘がある。「国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)の新たな取組」と題して発表した国立がん研究センター血液腫瘍内科医長の鈴木達也氏は、小児がんパネル開発ワーキングチームと新Todai OncoPanel検査による、小児・AYAがんのゲノム診断の臨床実装に向けた研究開発が進んでいることを報告した。


国立がん研究センター 血液腫瘍内科医長
鈴木達也氏

がん・生殖医療の心理支援が、がんを乗り越える力に

 AYA世代への支援の中で、最も地域のネットワークの構築が進んでいるのが、がん治療などによって生殖・妊娠の可能性が失われる恐れのある小児・AYA世代の患者に対する生殖機能温存に関する相談支援体制だ。今年度から、国と都道府県が、がん・生殖医療ネットワークが構築されていることを要件に、妊孕性が低下するリスクのある治療の対象となるか、長期間の治療によって卵巣予備能が低下する恐れのある43歳未満の男女を対象に、受精卵(胚)・卵子・卵巣・精子の凍結保存費用を助成する事業がスタートしている。

 「がん・生殖医療における研究の現状と今後-さらなる前進を目指して」と題した発表の中で、日本がん・生殖医療学会理事長で聖マリアンナ医科大学産婦人科学教授の鈴木直氏は、「若年乳がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する心理支援体制の構築」研究の成果の一部を紹介した。20~39歳の乳がん女性患者とその配偶者74組を無作為に2群に分けて比較した心理教育介入研究では、夫婦でがん治療前にがん・生殖医療に関して、生殖心理カウンセラーによる対面式の心理サポートを2回受けた「O!PEACEセラピー群」で、非介入群に比べて妻のPTSD心的外傷後ストレス障害)症状が明らかに低下したという。


聖マリアンナ医科大学 産婦人科学教授
鈴木直氏

 鈴木直氏は、「がん診断から治療開始までの外来で、2回心理カウセリングができると、がん患者さんの精神的健康、夫婦関係の良好化につながります。妊孕性温存が全てではなく、こうした心理的サポートを行うことで、目の前のがんを乗り越える心理支援ができるのではないかと考えています」と語った。現在は、若年成人未婚女性が妊孕性温存についてしっかり考え、意思決定をしていくための心理支援の必要性を検証する臨床試験を実施すると共に、精子凍結保存を行った若年男性がん患者が、パートナーとどのようにコミュニケ―ションするかなど心理教育的な動画の作成も行っているという。

 妊孕性温存療法を受けるかどうか、がんと告知され不安と闘っているときに、短期間に考えなければいけないことも多いため、鈴木氏は、治療前の意思決定支援と治療開始後、長期間に渡る心理社会的ケアの重要性を強調した。日本がん・生殖医療学会と日本生殖心理学会は、そうした心理社会的ケアを行う人材育成として「がん・生殖医療専門心理士」の養成も進めている。

携帯アプリで長期フォローアップと健康管理後押し

 小児・AYA世代のがん患者は、治療や病気による晩期合併症が生じることがあり、長期フォローアップ体制の整備も重要だ。国立成育医療研究センター・小児がんセンター長の松本公一氏は、同センター内に小児がん経験者の情報を蓄積するデータベースとしての長期フォローアップセンターを整備する計画を説明した。晩期合併症を早い段階で発見するとともに、治療から時間が経った小児がん経験者も含めて晩期合併症などの情報を蓄積し、本邦での実態把握と情報提供を行うことを目指している。


国立成育医療研究センター 小児がんセンター長
松本公一氏

 小児がん経験者の自己啓発と健康管理を目指した携帯アプリの開発も進行中だ。また、大阪国際がんセンターと聖路加国際病院では、小児がん経験者を対象にした循環器ドック、人間ドックを実施している。松本氏は、「小児科医がずっと診るのではなく、最終的には成人診療科でフォローアップできるように情報共有していく体制作りが重要です。小児がん経験者対象の人間ドックに対しては、国や自治体の補助で、少ない自己負担で定期的に受診できるような仕組みが作れないかと考えています」と話した。


(2016(平成28)年7月6日 第58回がん対策推進協議会資料より)

 小児がん体験者も含めたAYA世代のがん患者の治療開発、支援、課題解決に向けた研究や取り組みは少しずつ進んでいる。本来は自立心が強くなる世代だが、治療、学業や仕事、恋愛・結婚、将来などに対する不安や心配事は抱え込まず、身近な医療者に相談するようにしたい。

(取材・文/医療ライター・福島安紀)

関連リンク
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