がんの遺伝子検査にはどんな種類がある?目的は?知っておきたいがんゲノム検査の基礎知識


  • [公開日]2022.12.12
  • [最終更新日]2023.08.07

がんの遺伝子検査にはさまざまな種類と検査の目的が

がん遺伝子検査(がんゲノム検査)と言っても、その検査方法や目的、精度などは様々です。この記事では特に、治療薬選定や治療方針の決定のために「がん発症後」に実施される検査に焦点を当てて解説します。

単一の遺伝子を調べるシングルプレックス検査

シングルプレックス検査(単一遺伝子検査)とは、治療薬が既に承認されている特定の遺伝子変異だけに絞った検査のことです。治療薬の適応判定(コンパニオン診断:CDx)が検査の目的です。つまり、ある薬が標的とする遺伝子変異を持っているかどうかを調べるための検査です。

各薬剤とそれに紐づくコンパニオン診断薬は数多くの種類があります。詳しい情報は下記の医薬品医療機器総合機構(PMDA)のページをご覧ください。

■関連リンク
医薬品医療機器総合機構 コンパニオン診断薬等の情報

複数の遺伝子変異を調べるマルチプレックス検査

シングルプレックス検査が単一の遺伝子を調べる検査であるのに対して、マルチプレックス検査はその名の通り、がんに関連した複数の遺伝子異常を一度に調べる検査です。

コンパニオン診断が目的の遺伝子検査は、これまでは多くが単一検査として実施されてきました。しかし、治療対象となる遺伝子変異の種類が増えてきたことから、マルチプレックスへの移行が始まっています。

例えば、「AmoyDx 肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」では、1回の測定で同時に複数の遺伝子変異を検出することが可能です。これまでEGFR、ALK、ROS1、BRAF、METの変異が検査できましたが、2022年11月にはKRASが加わり、6つの遺伝子を調べるコンパニオン診断として使用可能です。

また、次世代シークエンサー(NGS)の登場により、複数の遺伝子を高速で読み取れるようになり、マルチプレックス検査の重要性が高まっています。例えば、「オンコマイン Target Test マルチCDx システム」は、腫瘍検体由来のDNAから46の遺伝子を解析するとともに、腫瘍検体由来のRNAからALK、ROS1、RETなど21の融合遺伝子を解析することができます。これにより、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、RETのコンパニオン診断としての使用可能です。

CGP検査/がんパネル検査としてのマルチプレックス検査

マルチプレックス検査のもうひとつの使用目的は、がんゲノムプロファイリング検査CGP検査、パネル検査と表現されることもあります)です。コンパニオン診断は標準治療の判定に使われているのに対し、CGP検査は標準治療終了(見込み)後に実施され、承認薬の有無に関わらず、がんとの関連が知られている遺伝子変異を網羅的に調べることができます。検査結果に基づき、専門家による話し合いが行われ、臨床試験なども含めた治療選択が慎重に判断されます。なお、保険でのパネル検査は、お一人につき一回のみという制限があります。

現在保険償還されている次世代シークエンサーを用いたマルチプレックス検査システムは、下表にまとめています(2023年7月現在)。


緑:組織検体による検査、青:血漿検体による検査

この他にも、自由診療で受けることができるマルチプレックス検査は複数あります。
(MSK-IMPACT、Gurdant360、東大オンコパネル、OncoPrime、PlsSision、TruSight Oncology500等)

これからの遺伝子検査

血液で検査が可能な「リキッドバイオプシー」

遺伝子検査の解析対象は、基本的にはがん組織が必要ですが、組織生検というハードルがあります。そこで、より簡便かつ低侵襲である血漿検体(血液)を使ってできるリキッドバイオプシー(血液検査)も開発が進んでいます。

2023年7月に、「Guardant360 CDxシステム」によるがんゲノムプロファイリング検査の保険償還が開始され、日本で承認されているリキッドバイオプシーシステムを使ったマルチプレックス検査は2種類となりました(表参照)。
また、他にもMET遺伝子検査のための「ArcherMET」、EGFR遺伝子検査のための「コバスEGFR変異検出キット」や「OncoBEAM RAS CRCキット」など、リキッドバイオプシーシステムを使った遺伝子検査の開発が進んでいます。

コンパニオン診断の課題と「横断的コンパニオン診断」

現在、同じメカニズムかつ同じ遺伝子変異を標的とした薬剤がいくつも承認されています。その一方、それぞれの薬剤に対して適用となるコンパニオン診断が異なるケースがあり、問題となっています。

この解決に向け、現在「横断的コンパニオン診断」という考えが出てきています。これは、同一の標的に対する薬剤をグループとして、そのグループに対する包括的なコンパニオン診断の承認申請を認める、というものです。既に肺がんのいくつかのドライバー遺伝子検査やPD-L1検査で研究が進んでいるようです。

期待が寄せられる「がんの全ゲノム解析」

DNAの中で遺伝情報をコードしている部分(タンパク質に翻訳される部分)をエキソン(エクソンと呼ばれることも)と呼びます。このエキソン配列を網羅的に解析する全エクソーム解析という検査法があります。既に一部の施設では自由診療として導入されており、約2万の遺伝子を網羅的に調べることが可能です。

また近年の技術進歩により、ゲノム(遺伝子をはじめとする遺伝情報の総称)を一度に調べる「がんの全ゲノム解析」が可能になりました。そして「がんの全ゲノム解析」は、現在国が推進する「全ゲノム解析等実行計画」に基づいて、既に研究事業として実施されています。まだまだ研究段階の話ですが、一人ひとりの全ゲノム情報に基づいた“究極の個別化治療”が実現する日が来るかもしれません。

【参考リンク】
肺癌バイオマーカー検査の変遷と今後の展開 JJLC. 2022
医薬品横断的コンパニオン診断薬等に関するガイダンス等について
全ゲノム解析等実行計画の進捗について -厚生労働省
FoundationOneⓇ Liquid CDx がんゲノムプロファイル説明会資料
がんゲノム医療とがん遺伝子検査 -がん情報サービス

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