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腫瘍免疫学の今までとこれから~高まる免疫療法への期待~

10月20~22日に第60回日本癌治療学会学術集会(JSCO 2022)が、神戸コンベンションセンターにて開催された。現地を主体としたハイブリッド形式であったが、当日多くの参加者が現地に集まった。その中から、「知っておきたい腫瘍免疫学のイロハから最新治療まで」と題した玉田 耕治 氏(山口大学 大学院医学系研究科 免疫学講座)の講演を紹介したい。

がん免疫療法は、現代のがん治療では避けて通れない治療である一方、未解明な点も多い。

長い免疫研究の歴史は、サイトカイン療法や養子免疫療法など非特異的免疫療法から始まった。その後、がん抗原を認識する腫瘍特異的なT細胞の重要性が分かり、特異的な免疫療法としてがんワクチン療法なども開発されたが、なかなか治療に結びつかない時代が続いた。玉田先生自身、その時代に免疫の研究をしていたが、なかなか成果が出ず学会会場でも小さな部屋で発表していたそうだ。

大きく事態が一変したのは、2000年代、免疫チェックポイント阻害剤の開発が一気に進み、免疫療法は一躍がん治療の主役となった。

がんに対する免疫応答の大きな流れは、T細胞への抗原提示細胞を介したがん抗原の提示(フェーズ1)→腫瘍特異的T細胞が腫瘍局所へ移動(フェーズ2)→T細胞による腫瘍の攻撃(フェーズ3)となっている。

さらに細分化すると、以下のサイクルに分けられる。

① がん細胞から放出されたがん抗原が樹状細胞などの抗原提示細胞に取り込まれる
② 樹状細胞がリンパ節へ移動し、T細胞に光源を提示する
③ 抗原提示を受けたT細胞が活性化する
④ 活性化T細胞が血管を通って腫瘍局所へ移動する活性化T細胞が血管内皮を介して腫瘍に浸潤する
⑤ がん細胞が活性化T細胞により認識される
⑥ がん細胞が攻撃される、という7つのステップの繰り返しであり、“がん免疫サイクル“として浸透している

がん細胞はさまざまな方法で上記サイクルを障害し、免疫から逃れようとする。がん細胞上のPD-L1分子が代表例であり、T細胞に抑制シグナルを伝達することでT細胞からの攻撃を逃れている。このPD~L1によるがん細胞の免疫逃避を阻害し、再びT細胞の攻撃を受けるようにすることが、抗PD-1/PD-L1抗体薬の役割である。

以上のことから、がん細胞上のPD-L1は、抗PD~1/PD-L1抗体薬のバイオマーカーになり得るが、そこには課題もある。まず、PD-1分子を介した免疫調節機構は、がん細胞以外の正常組織でも使われているため、予期せぬ副作用が発現し得る。またPD-L1の発現が動的であることが正確な測定を難しくしている。玉田先生は、リキッドバイオプシーによる経時的な測定や、PD-L1以外の複数のバイオマーカーをマルチに解析することなどが理想である、と将来像を語った。

そして最後に、遺伝子改変T細胞移入療法が紹介された。腫瘍得意的なT細胞を患者の体内から取り出すことは難しいが、末梢血の(腫瘍非特異的な)T細胞は大量に採取可能である。そこで、腫瘍局所に特異的なT細胞がもともと存在しない患者のT細胞を取り出し、腫瘍特異的なT細胞に改変後体内に戻し、強制的に免疫反応が起きる環境を作るという考えである。

例えば、CAR(Chimeric Antigen Receptor)の遺伝子導入によりがんに対する反応性を高めたT細胞を患者に投与するCAR-T細胞療法、現在は血液がんにのみで承認されている。現在、玉田先生は、患者自身の免疫をコントロールする分子を導入したCAR-T細胞の開発が進めており、「がん細胞に対する攻撃に留まらない新しいCAR-T療法の誕生により、適応範囲を血液がんだけでなく、固形がんへの拡大が期待できる」と語った。

これからの免疫療法においては、さまざまな治療法との組み合わせによる「複合化」と、バイオマーカーによる治療選択や患者自身の細胞を使ったCAR-T細胞療法などによる「個別化」の2つが重要になってくるとのこと。治療効果だけでなく、副作用や医療費も加味した患者にとって最適な治療開発を実現するために、臨床現場の医師と基礎研究者が連携を取ることの重要である、と玉田氏は講演を締めくくった。

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