「がん」の原因には、環境要因(日常生活が影響するもの)と遺伝要因(生まれつきもったもの)があると言われている。卵巣がんや乳がん患者さんの中には、遺伝的に極めてがんにかかりやすい体質を持っている人が存在する。

このような体質を持った方々は、「若くして卵巣がんや乳がんを発症する傾向が強く」、「一度乳がんに罹患しても、もう片方の乳房に乳がんが発症したり」、また、「乳房温存療法で治療した方では、温存乳房内で再度乳がんが出現しうる確率が高い」と言われる。

卵巣がん患者や乳がん患者の5~10%が遺伝要因にて発症したものであると言われており、そのうち最も多いものが遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)となる。

遺伝性乳がん・卵巣がんは、遺伝要因がはっきりしているがんの1つ。BRCA(ぶらっか、ぶらか、びーあーるしーえー)と呼ばれる遺伝子変異があると、乳がんと卵巣がんに罹患するリスクが高いことがわかっている。

70歳までに乳がん及び卵巣がんにかかる可能性
・BRCA変異陽性乳がん:49%~57%(一般の方(9%)の5~6倍)
・BRCA変異陽性卵巣がん:18%~40%(一般の方(1%)の18~40倍)

乳がん患者の約5%がBRCA変異を有していると言われており、以下の特徴がある。

・若年で乳がんを発症する。
トリプルネガティブ乳がんである。
・両方の乳房にがんを発症する。
・片側の乳房に複数の乳がんを発症する。
・乳がんと卵巣がんの両方を発症する。
・男性で乳がんを発症する。
・家族内に乳がん、卵巣がん、すい臓がんおよび前立腺がんの方がいる。

※参照元『遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために(Ver.3)』(2015年11月修正)

アメリカの大女優アンジョリーナ・ジョリーが乳房や卵巣を摘出したのは、BRCA1遺伝子に変異がみつかり、乳がんや卵巣がんの発症を防ぐ目的で摘出したことは記憶に新しい。このような予防療法は欧米では既に実施され始めている。

BRCA遺伝子変異検査を受ける40歳以下の乳がん患者が年々増加 JAMA Oncol(オンコロニュース2016.06.24)

しかしながら、日本において、現在、BRCA遺伝子検査を保険診療にて受けることはできない。一部の医療機関にて、自費で受けることは可能であるが、約20万円程度の費用負担となる。よって、まずはHBOCの可能性が高いか否かをカウンセリングする必要がある。なお、BRCA遺伝子検査は、全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン策定組織NCCN(National Comprehensive Cancer Network)という団体のガイドラインを主軸に基づいて実施されることが多い。

なお、BRCA遺伝子変異が見つかるとことは、その子孫にも遺伝することを意味しており(子供であれば1/2の確率で遺伝する)、慎重に検査を受けるか決定することが望まれる。

(文・可知 健太)

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