BRCA遺伝子変異検査を受ける40歳以下の乳がん患者が年々増加 JAMA Oncol


  • [公開日]2016.06.24
  • [最終更新日]2017.11.27[情報更新] 2017/11/27

BRCA遺伝子と遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)

「がん」の原因には、環境要因(日常生活が影響するもの)と遺伝要因(生まれつきもったもの)があると言われおり、乳がん患者の中には、遺伝的に極めて乳がんにかかりやすい体質持っている人が存在する。
このような体質を持った方々は、「若くして乳がんを発症する傾向が強く」、「一度乳がんに罹患しても、もう片方の乳房に乳がんが発症したり」、また、「乳房温存療法で治療した方では、温存乳房内で再度乳がんが出現しる確率が高い」と言われている。

乳がんの場合、全体の5~10%が遺伝要因にて発症したものであると言われており、そのうち最も多いものが、生まれつきBRCA遺伝子というがん抑制遺伝子に変異(異常)がある場合に発がんする遺伝性乳がん・卵巣がんである。
*BRCA(ぶらか、ぶらっか、びーあーるしーえー)

わが国では、70歳までに乳がん及び卵巣がんにかる可能性が、BRCA変異陽性乳がんにおいて49%~57%(一般の方(9%)の5~6倍)、BRCA変異陽性卵巣がんにおいては40%(一般の方(1%)の40倍)となっている。
*日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン参照

乳がん患者の約5%がBRCA変異を有していると言われているが、若年で乳がんを発症したり、トリプルネガティブ乳がんである場合などは特にリスクが高いと言われている。

米国では、BRCA遺伝子変異検査を受ける40歳以下の乳がん患者が年々増加

米国では、BRCA遺伝子に変異がある乳がんのリスクについて関心が高まりつつあり、それを裏付ける調査結果が2016年のJAMA Oncol 誌(2巻6号730-736頁)にて報告された。

米国ダナ・ファーバーがん研究所のShoshana M.Rosenberg氏らが2006年10月10日から2014年12月31日に実施した前向きコホート研究の結果であり、Helping Ourselves,Helping Others:Young Women’s Breast Cancer Studyの一環で、乳がんと診断された40歳以下の女性患者897人を対象とする調査データを横断的に解析されている。

結果、40歳以下の乳がん患者が診断の1年後までにBRCA遺伝子変異検査を受けた割合は2006年からの8年間でおよそ20%上昇したというものである。

診断時平均年齢35.3歳の乳がん患者集団、検査実施率は87%

調査対象の897人中、乳がんと診断され1年後までにBRCA遺伝子変異検査を受けたのは87.0%(780人)で、受けた患者集団の平均年齢(35.3歳)は受けなかった患者集団(36.9歳)より有意に低かった(p<0.001)。検査を受けた患者の割合は年々増加し、2006年に乳がんと診断された39人中では76.9%(30人)、2007年の124人中では70.2%(87人)であったのに対し、2012年には96.6%(141/146人)、2013年には95.3%(123/129人)まで上昇した。

約3割が乳がん治療での遺伝的リスクを認識、BRCA変異陽性の86.4%が乳房切除術を選択

乳がんの治療に影響をおよぼす遺伝的リスクについて認識し、不安を抱いていたのは29.8%(248/831人)で、そのうちBRCA遺伝子変異陽性と判定されたのは88人、うち乳房切除術を行ったのは76人(86.4%)であった。認識・不安を抱きながらも陰性と判定された160人のうち乳房切除術を行ったのは82人(51.2%)で、乳房切除術の選択割合は陽性集団の方が陰性集団のより有意に高かった(p<0.001)。

検査受けなかった患者の約3割はカウンセリングなし

乳がん診断の1年後までにBRCA遺伝子変異検査を受けなかったのは117人である。そのうち31.6%(37人)は、変異陽性であることが治療におよぼす遺伝的リスクについて、医師や遺伝カウンセラーと話し合いの場を持っていなかった。36.8%(43人)は将来的には検査を受けようと考えていたと回答している。

調査結果の総括

「遺伝子変異検査を受ける患者が増えてきたのは好ましいこと。乳房切除術の選択にかかわる遺伝的リスクについての不安、あるいは適格性のある全身治療試験に影響をおよぼしかねない認識や不安があるとすれば、それを払拭することが重要で、すべての若い乳がん女性に対するがカウンセリングと遺伝子変異検査の普及に努めるべきである」これは、全米を代表するがんセンターが結成したガイドライン策定組織NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインにも示されている。

日本の現状及び課題点

アンジェリーナ・ジョリーさんの乳房および卵巣の予防的切除は記憶に新しいが、日本において遺伝性乳がん・卵巣がんについての認知度は低い。しかしながら、日本HBOCコンソーシアムなどが主導で啓発活動はなされている。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために(Ver.3)

しかしながら、BRCA遺伝子検査は保険適応外であるため、25~40万円程度負担しなければならない。一方、BRCA変異が認めれらた場合においても、それに対する治療が乳房および卵巣の予防的切除しか存在しない。

現在、BRCA変異乳がんにおいて、PARP阻害剤(オラパリブやべリパリブ等)が効果を示す可能性が示唆されており、臨床試験が実施。進行性のBRCA変異陽性乳がんに対してのオラパリブ(リムパーザ)を使用する臨床試験の登録が終了されており、結果待ちとなる。一方、切除可能なBRCA変異陽性乳がんに対して術後補助化学療法後にオラパリブ(リムパーザ)を維持療法として使用する臨床試験治験募集中となる(Clinicaltrials.gov参照)。

こういった薬剤の開発が期待される。

BRCA1 and BRCA2 Mutation Testing in Young Women With Breast Cancer(JAMA Oncol. 2016;2(6):730-736.)

記事:可知 健太

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