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世界標準の転移・再発GIST薬物療法を受けるには

[公開日] 2021.04.12[最終更新日] 2021.04.12

目次

GIST(ジスト/消化管間質腫瘍)は、胃や大腸、小腸などの消化管の筋肉の粘膜下に発生する肉腫で、10万人当たり1~2人に発生する希少がんの一つです。現在、手術ができない転移・再発GISTに対する標準治療薬は3剤ありますが、患者団体の後押しもあって、新規治療薬の開発が注目を集めています。手術ができない、転移・再発GISTの標準治療と新たな治療薬の可能性について、国立がん研究センター東病院副院長で先端医療科長(先端医療開発センター新薬臨床開発分野長)の土井俊彦先生に聞きました。

最初にイマチニブ投与が日本の標準治療

――まずは、手術ができないGISTの標準治療について教えてください。 土井先生:日本では、KITとPDGFRaという細胞増殖を促すタンパク(遺伝子)を標的にしたチロシンキナーゼ阻害薬、イマチニブ(商品名・グリベック)を最初に投与するのが標準治療です。イマチニブが効かなくなったら、セカンドラインとしてスニチニブ(商品名・スーテント)、サードラインとしてレゴラフェニブ(商品名・スチバーガ)を投与します。

 ただ、KIT遺伝子のエクソン13という部分などに変異があるか、KITとPDGFRaタンパクが発現していないGISTには、イマチニブが効きにくいことが分かっています。そのため、米国などでは、いきなりイマチニブを投与するのではなく、最初に、次世代シークエンサー(NGS)を用いた「がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)」、いわゆるゲノム医療を行い、その結果を元にがんのタイプに合わせた薬を選択するのが標準治療です。

(「GIST診療ガイドライン2014年4月改訂[第3版]」(日本癌治療学会、日本胃癌学会、GIST研究会編)を参考に作成)

本来は薬物療法開始前にがん遺伝子パネル検査実施すべき

――日本では、薬物治療開始前に、NGSを用いた「がん遺伝子パネル検査」はできないのでしょうか。 土井先生:日本では、GISTも含めた固形がんの患者さんが保険診療でNGSを用いた、がん遺伝子パネル検査が受けられるのは標準治療が終わった後です。実際には、標準治療前か治療中に、保険診療ではなく、先進医療や自費診療で、がん遺伝子パネル検査を受けるGISTの患者さんもいます。

 イマチニブには副作用もありますから、効果がないと分かっている患者さんには投与すべきではありません。本当は、GISTのように治療薬の数が限られる希少がんの患者さんには、米国と同じように薬物療法を受ける最初の段階で、がん遺伝子パネル検査を受けて最適な治療を受けられるようにすべきだと思います。

HSP90阻害薬ピミテスピブが4つ目の選択肢になる可能性も

――サードラインのレゴラフェニブも効かなくなった場合には、どのような治療をするのですか。 土井先生:日本では、治験に参加してもらうか、もう一度、イマチニブかスニチニブの投与を検討します。つい最近、国立がん研究センター東病院と同中央病院を含め、GISTの治療に力を入れる腫瘍内科医がいる日本の6病院で行われた第3相試験で、イマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブが効かなくなった患者さんに対するピミテスピブ(TAS-116)という薬の有効性が示されました。この薬が薬事承認され保険適用になれば、レゴラフェニブが効かなくなった患者さんの新たな選択肢になると期待されます。

 ピミテスピブは、がん細胞の表面に発現して腫瘍の維持や増大を助けているHSP(ヒートショックプロテイン)90というタンパクを標的にした新しいタイプのがん治療薬です。イマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブの治療歴がある20歳以上のGISTの患者さん81人を対象にした第3相臨床試験では、ピミテスピブ投与群が、プラセボ投与群より有意に無増悪生存期間が長いとの結果でした。

 希少がんの場合、患者数の多いがんに比べて治療薬が限られることから、第2相臨床試験の結果によって薬が承認されることもあるのですが、ピミテスピブに関しては認められませんでした。ピミテスピブを開発した大鵬薬品工業では、第2相臨床試験が終わった段階でGISTの治療薬としての開発を断念することも検討したようですが、患者支援団体のNPO法人GISTERSなどの要望を受けて第3相臨床試験を実施しました。患者支援団体の後押しもあって、通常は2年以上かかる被験者の募集が1年ちょっとで目標数に達したことで、新薬の開発コストの軽減にもつながったのではないかと考えています。

――ピミテスピブを薬事承認前に使うことはできますか。 土井先生:通常は、薬事承認前の薬を使うことはできませんが、希少疾患や非常に有効性の高い薬に関しては、以前、当時の医師主導治験(主として安全性を見る試験)を使って、承認申請中の薬を製薬企業が無償提供した例があります。薬事承認を待っている間に、病気が進行して薬物療法が受けられない状態になってしまう患者さんもいますので、承認申請後、無償提供を実施してほしいと思います。

米国で承認済のリプレチニブ、アバプリチニブ、パゾパニブを使うには

――他にもGISTの新薬の候補はありますか。 土井先生:米国では、レゴラフェニブが効かなくなっても、さらに、リプレチニブ、アバプリチニブ、パゾパニブ(商品名・ヴォトリエント)という3つの薬が使えますが、日本では未承認です。パゾパニブは軟部肉腫と切除不能・再発腎細胞がんの治療薬として用いられている薬です。リプレチニブ、アバプリチニブに関しては、日本に拠点のない米国のベンチャー企業が開発した薬だということもあって、日本で使えるようにするための治験を開始する目途も立っていません。

 近年は、グローバルな国際治験に日本も参加することで、がんの治療薬についてはドラッグ・ラグの解消が進み、米国や欧州とあまり時間差なく新薬が承認されるようになってきていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響もあって、特に、有効性の高い薬の開発は、米国内だけで治験を進めてFDA(米国食品医薬品局)が承認してしまう流れになっています。日本は海外に比べると薬価が安いため、製薬企業がグローバル治験を進める場合でも、同じアジアの中では利益の大きい中国や韓国で治験を進めることも増えています。そのため、ドラッグ・ラグがまた広がるのではないかと危惧しています。

――日本人のGIST患者さんが、リプレチニブ、アバプリチニブ、パゾパニブの投与を受ける方法はありますか。 土井先生:リプレチニブ、アバプリチニブ、パゾパニブが何とか日本でも使えるようにならないかと考え、いくつかの製薬企業に協力を求めているところです。また、今はコロナ禍で難しいかもしれないですが、米国でリプレチニブの投与を受けたい患者さんを診てもらえないか、ハーバード大学医学部教授でダナ・ファーバーがん研究所肉腫・骨腫瘍学センター長のジョージ・デミトリ先生と連絡を取っています。米国の患者さんからも、日本で開発されたHSP90阻害薬のピミテスピブで治療したいという問い合わせが来ているので、日米の医師が連携してGISTの患者さんを診る仕組みを構築できないかと考えているところです。 ――米国でリプレチニブの投与を受ける場合には、どのくらいの費用がかかりますか。 土井先生:渡航費の他に、1カ月分の薬代だけで300万~400万円かかります。日本は皆保険で、さらに自己負担を軽減する高額療養費制度があるので、高価な分子標的薬などを使っても、患者さんの負担は少ないですが、がんの治療にはかなりの費用がかかっていることも知っていただければと思います。

GISTの正確な診断、適切な薬物療法を普及する体制作り必要

――GIST診療ガイドラインでは、スニチニブやレゴラフェニブが効かなくなったときの選択肢に臨床試験が入っています。GISTの患者さんを対象にした臨床試験を探すにはどうしたらよいのですか。 土井先生:情報源の一つとして、国立がん研究センターがん情報サービスに「がんの臨床試験を探す」(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/search/search1-1.html)という一般の方向けのサイトがあります。ただ、新しい薬の開発を目的にした最新の治験の情報は非公開であることも多く、このサイトには掲載されていない可能性があります。担当医が治験の情報を知っていればよいのですが、実際には治験の情報を求めて、遠方から、当院のセカンドオピニオン外来を受診するGISTの患者さんも少なくないのが実情です。ただ、標準治療が終わってから治験を探すと、病気が進行して薬物療法が受けられない状態になってしまう患者さんもいます。

 また、そういった形でセカンドオピニオンを受診されるGISTの患者さんの半分くらいは、適切な標準治療が受けられていないということも問題です。標準治療が適切になされていなかった患者さんには、少し工夫すれば、イマチニブ、スニチニブ、あるいはレゴラフェニブが効くことがあり、その患者さんの担当医と連絡を取って、標準治療薬の投与を継続してもらいます。なかには、GISTという病理検査の結果が間違っていることもあります。

――GISTの正確な診断と適切な治療を広げるために、オンライン診療や医師同士のオンラインの連携はできないのでしょうか。 土井先生:新型コロナウイルス感染拡大の影響で、オンライン診療の活用が広がりましたが、がんの治療薬の変更の指示などはオンラインではできないことになっています。今後は、病理検査、薬物療法も含めて、医師同士がオンラインで連携してコンサルテーションしたら診療報酬をつけるなど、患者さんが正確な病理診断と適切な薬物療法を受けるための仕組みづくり進める必要があると考えています。

新たな抗体薬の治験も進行中

――ところで、GISTには、免疫チェックポイント阻害薬は効かないのでしょうか。 土井先生:ニボルマブ(商品名・オプジーボ)など免疫チェックポイント阻害薬を用いた臨床試験も行われましたが、残念ながら、GISTに対する効果は認められていません。ただ、例えばKIT遺伝子を標的にするような免疫細胞療法が開発できれば、GISTに効く可能性があるのではないでしょうか。GISTに過剰発現しているタンパクの一種であるGPR20を標的に、抗がん剤を搭載した新たな抗体薬の開発も進んでいます。

 今後も、転移・再発のあるGISTの患者さんの薬物療法の選択肢を一つでも増やせるように研究を進めたいです。GISTで標準治療が終わったと言われてもあきらめずに治験に参加するなど、病気になる前と同じ生活が続けられるようにてしていただければと思います。

(取材・構成/医療ライター・福島安紀) 関連リンク国立がん研究センター東病院 先端医療科オンコロ「GIST(消化管間質腫瘍)とは」
特集 GIST 消化管間質腫瘍

医療ライター 福島 安紀

ふくしま・あき:社会福祉士。立教大学法学部卒。医療系出版社、サンデー毎日専属記者を経てフリーランスに。医療・介護問題を中心に取材・執筆活動を行う。著書に「がん、脳卒中、心臓病 三大病死亡 衝撃の地域格差」(中央公論新社、共著)、「病院がまるごとやさしくわかる本」(秀和システム)、「病気でムダなお金を使わない本」(WAVE出版)など。

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