胆道がんの患者調査から見えてきたこと-アストラゼネカ社-


  • [公開日]2023.02.10
  • [最終更新日]2023.02.10

2月7日、アストラゼネカ株式会社は「胆道がん承認取得/患者調査セミナー」を開催。神奈川県立がんセンター総長の古瀬純司先生、同センター患者支援センター相談支援担当の得みさえ科長が登壇した。なお、本セミナーは、アストラゼネカ社が実施した患者調査の結果に基づくものである。

胆道がん発見の経緯は“たまたま”が6割近く

講演の冒頭、古瀬先生自身の専門である肝臓・胆道・膵臓がんは、予後が非常に悪い難治性のがんであることを説明。特に胆道がんは、発生部位によっては早期に症状が出にくいため、腹痛などの違和感が続く場合には、胆道がんも念頭に置いた検査を積極的に受けることが重要であるとのことであった。

続いて、アストラゼネカ社が2022年11月1日~30日に実施した患者調査の結果が発表された。これは、胆道がん患者さんの、診断から治療過程での経験・治療に伴う生活の変化を明らかにすることを目的として、日本全国のがん患者さん203名を対象に行われたものである。

1、受診から診断前まで
がん発見の経緯は、患者さんの約3割が積極的に受診していた一方で、他の病気の治療や健康診断でたまたま発見された患者さんが6割近くであった。また、自覚症状が出て一か月以上経ってから受診するケースも約4割に上り、その理由として、「重大な病気だと思わなかった、生活に支障がない程度だった、自然に治まった」などの回答が多く見られた。これを受けて古瀬先生は、症状を繰り返すようであれば注意が必要、症状を軽視せずになるべく早く受診をしてほしいとコメントした。

2、がんの確定診断後
胆道がんと診断された時点で、7~8割の患者さんは、胆道がんについてほとんど、あるいは全く知らなかったと回答しており、胆道がんは認知度が低い疾患であると古瀬先生。また、セカンドオピニオンや治療法・治療費に関すること、仕事と両立、周囲の人への伝え方などに関しても、今後更に専門家のサポートが必要な項目であるとのことであった。

特にセカンドオピニオンに関しては、存在を知りながら実際には受けていない患者さんが6割である一方、セカンドオピニオンを受けた患者さんの75%は受けてよかったと回答。「患者さんには、どこかのタイミングで一度セカンドオピニオンを受けることの重要性を知ってほしい、そしてセカンドオピニオンを受け入れる医療機関側はタイムリーに対応できる体制作りを進めていかなければならない」と古瀬先生は語った。

3、治療
患者さんの約7割ががんの摘出手術を受けていた。これは、アンケートに回答できた症例=ある程度元気な患者さんというバイアスがかかっている可能性はあるものの、胆道がんでは手術が唯一根治を目指せる治療法であることを反映した結果であるとのこと。また、手術後に8割以上の患者さんが化学療法を受けていた。

4、周囲の人との関わり、日常生活
古瀬先生は、がんであることを周囲に知らせるときのハードルとして、ここでも胆道がんの認知不足を強調。また、がんになったことによる困りごとは、診療上の悩みだけでなく、体の変化、仕事や趣味、人間関係、心理的不安など多岐にわたっており、がんの専門病院が相談役になることの必要性についてコメントした。

最後に古瀬先生は、胆道がんについての知識を広めていくためにも、胆道がんに関する正確な情報発信が必要である、と述べて講演を締めくくった。

ゲノム医療を受けるタイミングを探ることも重要に


(神奈川県立がんセンター総長 古瀬純司先生)

胆道がんの5年生存率が低い理由のひとつに早期診断が難しいことがあげられる。古瀬先生によると、がんの発生場所によっては早期の黄疸がでにくいこともあるが、尿や便の色の異常が自覚症状としては最も気付きやすい。また、胃痛や腹痛などの違和感が続く場合には、胃カメラだけで安心せずに、胆道の異常を疑うことも重要であるとのことであった。

古瀬先生は、胆道がんならではの難しさとして、がんの治療に加え、胆汁をスムーズに流すための処置が必要であることを挙げた。これは、胆道がんによって胆管が塞がり胆汁の流れが滞ると、腸内細菌が溜まって感染(胆管炎)が起きてしまうことによるものである。

また予後不良な胆道がんでも、診断直後に急増悪することは稀なので、最初の1~2週間は、治療を急ぐよりもまず、診断から治療選択肢までをしっかりと検討し、納得して治療を進めることの重要性を強調した。

得氏は、がん相談支援センターの活用が浸透していない点を課題として挙げた。がん専門病院である自施設(神奈川県立がんセンター)でも、6500件/年の相談のうち胆道がんは70件程度であり、更にそのうちの1/4は、がん治療に特化した他の専門部署を通して相談にくるとのこと。設備が整っていない一般の病院では、相談窓口の存在すら知らない可能性もあると述べた。

がん相談支援センターは、がんに関する相談は全て受けており、患者さんが治療しながら自分らしく生きていくサポートに取り組んでいる。一般市民が誰でも活用可能であるため、ぜひ活用してほしいと得氏は語った。

続いてセカンドオピニオンの利用が限定的である点が話題となった。古瀬先生は、治療開発が進む一方で、医療の均てん化がまだ不十分であるため、最新の治療選択肢や正確な情報を知るためにもセカンドオピニオンが必要であると語った。

また胆道がんは、がんゲノムプロファイリング検査によって、薬剤につながる遺伝子変異が見つかる可能性が他のがん種と比較して高いとのこと。セカンドオピニオンを通して、ゲノム医療を受けるタイミングを探っていくことも重要である、と古瀬先生は述べた。

主治医との関係性が良いほど、セカンドオピニオンを切り出しにくいという相談もあるが、患者さんが納得して治療に臨むことは患者さんの権利である。将来的な治療選択肢を増やす意味でもセカンドオピニオンは受けてほしい、と得氏も強調した。

胆道がんの認知の低さによる課題も

得氏によると、胆道がんの患者さんは、がんという不安に加えて、知らない病気と向き合う不安を抱えているとのこと。情報の取り方や疾患理解、医師とのコミュニケーションなどもサポートしていきたいと語った。

古瀬先生は、「インターネットから得られる情報には疑問を感じるものも多い。間違った情報の排除、正しく質の高い情報の発信は、医師や医療スタッフ、メディアの重要な責務である」と強く語った。

最後に患者さんへのメッセージとして、「がん治療は総合力である」と古瀬先生。患者さんと医師はもちろん、その他の医療スタッフや家族や知人、地域、国、メディア、製薬起業の全てが協力しあっていく必要があるとコメントした。

得氏は、がん相談支援センターでは科学的なエビデンスがある情報提供に加え、同じ体験をした患者さん同士の交流の場などの情報も共有できるとし、改めて相談支援センターの活用の重要性を語った。

また、質疑応答では、オンラインによるセカンドオピニオンが話題に挙がった。システム構築やそこに関わる医師の日程確保が難しいと得氏。一方、コロナ禍でオンラインの活用が進んできた流れがあるため、セカンドオピニオンを地方にまで普及させるためにも、オンライン化は必ず検討すべき課題である、と古瀬先生はコメントした。

参考:
アストラゼネカ株式会社 プレスリリース

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