患者団体に聞く! 一般社団法人キャンサーペアレンツ 高橋智子さん『お互いさま』の社会の実現をみんなでつくる -患者同士のつながりの場をこれからも-


  • [公開日]2023.09.29
  • [最終更新日]2023.09.29

こどもをもつがん患者同士でつながり、仲間になれる場所

濱崎:今回の『患者団体に聞く!』シリーズでは、一般社団法人キャンサーペアレンツの高橋智子さんと、小田村美歌さんのお二人にお話をお伺いしました。
では早速ですが、キャンサーペアレンツとはどのようなところでしょうか?

高橋:キャンサーペアレンツはこどもをもつがん患者の方が、同じ境遇の方を探してつながり、交流することができるコミュニティサイトです。
ご登録いただくと、日々の想いを日記として綴ることもできます。
「つながりは、生きる力になる」
「みんなでつくるキャンサーペアレンツ」
この想いのもと、日々活動をしています。

キャンサーペアレンツのSNS

途切れない投稿、あたたかな気持ちの連鎖

濱崎:がん患者さん同士のコミュニティサイトの運営は投稿が途切れてしまうなど継続が難しいとよく聞きます。何か工夫などをされているのでしょうか?

高橋:2016年4月にキャンサーペアレンツがスタートして、7年以上たちましたが、これまでに投稿が途切れたことはなかったと思います。
継続ができているのはなぜなのか、「これをしているから」「このルールがあるから」といった明確な答えがあるというより、キャンサーペアレンツのサイトを使ってくださる会員の皆さまおひとりおひとりの想いの積み重ねが、今のキャンサーペアレンツへとつながっているように感じています。

投稿者に対して投稿をしてくれて「ありがとう」という気持ちを伝える「ありがとうボタン」を設けることで、喜怒哀楽のどのような内容の投稿に対しても気持ちの受け止めが伝わり、「ここ(キャンサーペアレンツ)だから言える」という安心感につながっているのかもしれません。
また、キャンサーペアレンツの登録年数やサイトの使用頻度を問わず、投稿しやすいきっかけづくりとして、「ひとりごと」という投稿カテゴリーを新たに設けるなど、気持ちを伝えたいときに気兼ねなく伝えられる場所となれるよう心がけています。

濱崎:利用者の気持ちに寄り添った工夫をされているのですね。

高橋:キャンサーペアレンツは、働き世代・子育て世代ということもあり、自分を取り巻く環境は自分自身のことだけではなく、「家庭」「地域」「学校」「職場」等多岐に渡り、自分自身を受け止め、向き合うことにも葛藤を覚えたり、悩みや不安があってもその気持ちを話せる相手や場所が身近にはなかったりすることも多いかと思います。
そんなとき、「どんな私も私のままでいい」「今の私がいい」そう思える場所があることが、心強さの1つになっていくかもしれません。また、ひとりひとり状況は違って当たり前だからこそ、そこに正解を求めるのではなく、話すこと・伝えあったりすることで、自分にとっての選択肢がみつかるきっかけの1つに、キャンサーペアレンツもなっていけたらと思っています。

西口さんの旅立ちについて

濱崎:キャンサーペアレンツ創設者の西口さんが2020年の5月にお亡くなりになりました。運営にあたり、いろいろなご苦労があったのではないでしょうか?

高橋:2016年にキャンサーペアレンツが誕生してから、当然のことながらキャンサーペアレンツの軸は西口さんでした。「みんなでつくるキャンサーペアレンツ」と発信しながらも、それは西口さんと一緒に「みんなでつくるキャンサーペアレンツ」をつくっていく、そんな感覚でした。
西口さんの旅立ち後、軸が空洞になったかのようで、彼が担ってきた軸を埋めなければいけない、埋めなければ先に進めないのではないか。キャンサーペアレンツとして何があるべき姿なのか、見えなくなったこともありました。

濱崎:大変お辛い想いをされたのですね。そこからどのように歩んでいったのですか?

高橋:西口さんは西口さんであって、誰も彼になることはできません。空洞を無理に埋めるのではなく、そのままの姿として受け止め、西口さんの想いと一緒にそこから始まる一歩を生み出していけたら……キャンサーペアレンツ会員の皆さまやキャンサーペアレンツを応援してくださる皆さまとのコミュニケーションを重ねるうちに、少しずつそう思えるようになっていったのです。
西口さんの想い、彼が発信し続けた言葉は彼から生まれたものだから、相手の心に響き、生きた言葉になっていきます。大切なのは、その言葉を広めることではなく、その言葉を受けて、自分がどのように考え、感じ、どのように動いていくか。
西口さんの旅立ち後も彼が生み出してくれた1つ1つのつながりがあるからこそ、「西口さんと一緒につくる『みんなでつくるキャンサーペアレンツ』」から「みんなでつくるキャンサーペアレンツ」へ変わってきている今があることに、本当に感謝しています。

外部との連携を行うことで調査や研究による情報発信も実施

濱崎:コミュニティサイトという側面だけでなく、調査や研究への協力もされていますよね?

高橋:会員の方に協力いただき、様々なテーマでの調査や研究に関わっています。
国立がん研究センター東病院の「オンラインピア・サポートの利用と孤独感」に関する研究や「コロナ禍での精神的健康と日常生活の変化と不安」に関する研究に携わるなど、医療者や他団体、企業と連携してアンケート調査の実施をしています。

濱崎:そのような取り組みの背景には、どのような想いがあるのでしょうか。

高橋:連携することで必要なところに必要な情報を届け、環境整備や支援体制の充実へとつないでいけるようにしていきたいと考えています。
キャンサーペアレンツが社会の何かを変えるということは簡単なことではないですが……。
皆さまが届けてくださる「声」が、社会へ働きかけるきっかけとなり、がんと向かいながらも生きていきやすい社会へとつながっていけたらと思っています。

「ママのバレッタ」から始まったえほんプロジェクト、そして新たなチャレンジへ

濱崎:小田村さんにお伺いしたいのですが、えほんプロジェクトとはどのようなものですか?

小田村:えほんプロジェクトは、親の立場でありながらがん罹患者である経験を生かし、絵本の制作、活用など、絵本を介することで、こどもたちとがんについてのオープンなコミュニケーションの促進につながればという想いで立ち上げました。がんになっても子育てしやすい、生きやすい社会になってほしいという想いで活動しております。

濱崎:素敵な取り組みですね。絵本は出版されたのですか?

小田村:2017年の春に有志メンバーで立ち上げ、紆余曲折ありながらも2018年12月に『ママのバレッタ』という絵本を出版しました。
※「ママのバレッタ」についてのオンコロの記事はコチラから
その後、プロジェクトメンバーの旅立ちやコロナの影響など、様々なことが起こり、プロジェクトの活動はままならない状況が続いていました。
ですが、2023年6月から新たなチャレンジとして大阪阿倍野区にある「ほんむすび」さんに、えほんプロジェクトの本棚を開設いたしました。
私たちがお勧めしたいと思う絵本が、この本棚には並んでいます。
この活動から再出発し、またいろいろな取り組みをしていけたらよいなと思っています。


「ほんむすび」さんのHPはコチラから
「えほんプロジェクト」のInstagramはコチラから

「お互いさま」の社会の実現に向けて

濱崎:最後にキャンサーペアレンツの今後のことも含めて一言お願いします。

高橋:がんの種類も治療状況も生活環境も何もかもが様々なキャンサーペアレンツ。
共通していることは、「がん」と「こども」です。
出会ったときからお互いに「キャンサーペアレンツ」ですが、お互いにそれぞれの生き方や感じ方があります。
「ひとりじゃない」と感じられることは、安心感やつながりの力へとつながっていきます。
「私の場合はこうでしたよ」という関係性は、ほどよい距離感へとつながっていきます。
「想い」に良いも悪いも、正解も不正解もありませんし、「不安」や「悩み」に大きいも小さいもありません。
キャンサーペアレンツでは、「伝えてくれてありがとう」の言葉が日々飛び交っています。
2016年に誕生してから今に至るまでの1つ1つのつながり、ひとりひとりの想いがつながり続けて今のキャンサーペアレンツがあります。
「支えられる」「支えてあげる」の関係性ではなく、「みんなでつくる『お互いさま』の社会」。
ひとりひとり、自分のできることを少しずつ取り組むことで、自然と生まれる「お互いさま」。
キャンサーペアレンツもそうした「お互いさま」の社会に向けて、きっかけの1つとなっていけたらと思っています。

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