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患者団体に聞く! 卵巣がんの会スマイリー 片木美穂さん Part2

[公開日] 2023.09.22[最終更新日] 2023.09.22

目次

こちらの記事は、『患者団体に聞く! 卵巣がんの会スマイリー 片木美穂さん -紆余曲折しながら、全力疾走-』のPart2となっております。
前編はこちらからご覧いただけます。

薬剤の選択肢が増えたら患者さんの悩みも増えた

川上:前回は、患者会としてのスマイリーが立ち上がった目的であるドラッグラグの解消を求めての壮絶な活動について伺いましたが、目的がほぼ達成されて、スマイリーの活動は終わったのでしょうか?

片木:前回お話したように2011年頃までは、ドラッグラグ解消のために奔走しました。ドラックラグを解消したら患者さんが幸せになり、自分の役目も終わると思っていましたが、違いました。使える薬剤の選択肢が増えると、その選択に患者さんが悩み、選択した後も「これでよかったのか」と、悩みは尽きません。薬が増えるごとに相談もどんどん増えていきました。
そこで、いままでドラッグラグ解消のために国を動かすことに向けてきたエネルギーを、患者支援に注力することにして、霞ヶ関からは徐々に退き、2011年から、患者さんが卵巣がんのことを学べるフォーラムやおしゃべり会を開催しました。患者さんのなかには、自分の病気や治療について、あまり知識のない方もいましたし、怪しげな民間療法や代替療法に傾倒している方もいましたので、勉強会も多く開催するようにしました。身寄りのない患者さんが、1人で受診するのが心細いときは、診察に同行することもありました。

相談には意思決定のための材料を提供

川上:多くの患者さんと交流し、状況を知るほどに、患者さんへの直接支援の必要性を実感することになったのですね。相談は多く寄せられるのですか?

片木:はい。電話とメールで受けていて、以前は年間500〜600件、今は1,300件ほどの相談に対応しています。電話では、長い相談だと8時間を超えることもありました。2018年に体調を崩してしまったこともあり、今は夜間や土日は対応しないようにしています。相談の8割はメールで、2日以内に返信するようにしており、1件のメールのお返事に平均して1時間くらい時間を使っていると思います。

川上:年間1,300件も……。相談の対応の際に気をつけていることはありますか?

片木:相談は、治療の意思決定に関わるものが多いのですが、私の考えを押し付けるのではなく、判断の材料になるような情報を提供するようにしています。ガイドラインに載っている内容や、時には英語で書かれた論文をそのまま送り、主治医に見せて説明してもらって一緒に考えるよう促します。例えば、再発患者さんは、再発箇所を手術で切除することを望む方が多く、そこに関しては“DESKTOPⅢ”や“SOC-1”という臨床研究論文が参考になります。先生と相談するための材料を提供するに留め、自分ならどうするか、などの個人的意見は言わないようにしています。相談者と私は生きてきた時間も価値観も違うので、その人自身が納得のいく選択ができるように、と思って対応しています。

しんどいことも……

川上:それだけの件数に、ひとつひとつ丁寧に対応していくのは、大変な労力でしょうね。

片木:過去の相談は全て匿名の形でデータベース化しており、相談件数は数多くありますが似通っているものも多く、同様な悩みに対しては過去の対応事例を活かしています。先ほどお話した再発後の手術や化学療法の悩みに関してはこの論文を提示、と、すぐに対応することができるんです。

川上:ご自身のメンタル面を守るのも大変そうですが、大丈夫ですか?

片木:正直、しんどいこともたくさんありました。相談者の期待していない回答をすると怒られることもあり、最初は正面から怒りを受け止め、自分が悪かったのか、と落ち込んだり、逆に「なんで私が怒られなくちゃいけないの?」と、相談者に対して悪い感情を持ってしまうこともありました。でも、患者さんは辛い状況で行き場のない怒りを、「私」でなく「私の横にあるゴミ箱」に投げているんだ、と思うようになってからは、少し楽になりました。

川上:ドラッグラグの解消に向けて活動していたときも、仲間が亡くなると自分を責めていた、と仰っていましたね。活動を続けていくためには、片木さんがつぶれてしまわないことも大事ですね。

片木:実は2018年頃に体調を崩してしまいました。障害を持った息子の就職サポートをしなくてはならない時期も重なり、活動の継続が難しいと判断して、2019年3月末に会員が200人以上いたスマイリーを一度解散したんです。その後、息子が無事就職し、また卵巣がんの患者さんたちから「できる限りでいいから患者支援を継続して欲しい」という要望があり、現在は会員を持たず患者支援活動を再開しています。

診察室で起こる問題を解決したい

川上:現在、活動を再開したスマイリーが、いま注力していることについて教えてください。

片木:いまも患者さんへの相談支援は継続しています。薬の承認は得られたけれど、それで卵巣がんの予後が劇的に良くなる訳でもなく、患者さんには納得のいく治療を受けてほしい、というのが根底にある思いです。データベース化している相談を振り返ると、例えば自分のがんの組織型がわからない、なども含めて医師と話せていれば私に相談せずとも済んだものが8割ほどありました。多くの悩みや問題が、診察室で医師ときちんとコミュニケーションが取れていないことに起因していることを痛感しています。
2018年に世界卵巣がん連合が世界の患者さんに実施したアンケートの結果でも、医療現場で尊厳を大切にされた、と思う患者さんの割合が、日本は著しく低かった現実もあります。

川上:日本では、お医者さんにお任せ、というタイプの患者さんもまだ多くいらっしゃいますよね。また、医師も忙しそうにしていると遠慮してしまったり。諸外国に比べて、診察室での医師と患者の関係はまだ改善の余地がありそうですね。

片木:去年スマイリーが160名の患者さんを対象に実施したWebアンケートでは、約55%が診察室で思いを告げられない経験をしており、全体の20%が普段からコミュニケーションがうまく取れていない、と回答しました。理由として「主治医が忙しそう」、「話を聞いてもらえなかった」、「自分が言語化できない」、「質問していいか分からない」、と複数にチェックを入れている傾向もありました。言語化できないなど、患者さん側の理由の場合には自分がサポートできますが、医師側や医療環境の問題にも働きかけていく必要があるかもしれません。患者さんと医師がよく話し合い、ともに意思決定をしていく「シェアード・ディシジョン・メイキング」が根付くよう願っています。

オンコロにメッセージ

川上:1人でも多くの患者さんが納得のいく医療を受けることができるように、スマイリーの活動はまだまだ続くんですね。さいごに、オンコロにメッセージがあればお願いします。

片木:毎年、卵巣がんをテーマにWebセミナーをしてくださるのは、本当に有り難いです。今年、家族が肺がんで亡くなりましたが、オンコロが配信している肺がんの動画はとても参考になりました。また、私がいくら言っても代替療法に傾倒してしまう患者さんが、オンコロの番組(笠井信輔の「こんなの聞いてもいいですか?:ゲスト勝俣範之先生」)を視聴して、標準治療の重要性をすっと理解してくれたこともあります。患者さんたちには、きちんと科学的根拠のある治療を選択してほしいと願っています。そのためには治験や臨床試験についての理解はとても大事なので、これからもオンコロは頼りにしています。


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