患者団体に聞く! 一般社団法人がんチャレンジャー 花木祐介さんキャンサーロストに関する書籍出版 -「がん罹患後」をどう生きるか-


  • [公開日]2023.08.17
  • [最終更新日]2024.03.29

はじめに

この度、一般社団法人がんチャレンジャーの代表理事である花木さんの著書『キャンサーロスト:「がん罹患後」をどう生きるか』が出版されることとなりました。
そこで、花木さんに本について、そして一般社団法人がんチャレンジャーについてお話をお伺いしようと思います。

『キャンサーロスト:「がん罹患後」をどう生きるか』の出版について

濱崎:本のタイトルである「キャンサーロスト」という言葉についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

花木:キャンサーロストという言葉を作ったきっかけは、自分の経験が元となっています。
現在、罹患後5年が経っていますが、特に、最初の2~3年において、私のサラリーマンとしてのキャリアは行き詰まっていました。管理職になってもおかしくはない年齢なのに、なれていない。もちろん、実力などいろいろな要因があるのでしょうが、挑戦すらできないような状況になっていました。
自分にとっては機会すら得られないといった喪失感ですね。
——意気込みがあったのに、奪われてしまった。
このような気持ちをブログなどで書き出していたとき、ふとフレーズを思いつきまして。こういう無力感は「キャンサーロスト」って言えるのかも、とブログで書いたのがきっかけでした。

濱崎:本を出版しようと思ったきっかけはなんでしょうか?

花木:具体的な出来事ではないのですが、表面上では見えにくい、治療後の「キャンサーロスト」について、多くの方に知ってほしいという想いが、出版という形で実を結んだ感じですね。
この「キャンサーロスト」という言葉を広めていけば、このような思いを持つ人と出会えるかも。自分ひとりじゃないと互いに思えるかも。悩みを抱える罹患経験者の方の後押しになるかも。罹患経験者の方々の声を拾い続ければ、罹患経験者を支えるその周囲の方にとっても情報提供になるかも。——そう考えていたんです。
また、自分自身、新たな本を出版することにチャレンジしたいという気持ちも、行動を後押ししました。

濱崎:やはり出版までの道のりは険しかったのでしょうか?

花木:そうですね。自分自身の現状を打破するためのチャレンジとして始めた企画でもありましたが、結局2年もかかりました。
本の出版を考える中、キャンサーロストについて、アンケート調査に500名を超える方から回答をもらったり、6人の経験者へインタビューを実施したりしました。
なので、協力していただいた方に顔向けするためにも、半年くらい出版社に企画を出し続けていたのですが、なかなか結果が出ない日々が続き、正直、駄目かもしれないと諦めかけたこともありましたね……。最終的には、出版社につながりのある(社団法人の)支援者の方からいただいたご縁で出版することが叶いました。

濱崎:この本には、どのようなメッセージを込められたのでしょうか?

花木:がん罹患による喪失感を少しでも緩和するための精神安定剤になればという思いを込めました。
辛いけれど、近い経験をした人は他にもいて、自分だけではない。それを知ることで少しでも安心することができれば良いな、と。
がん罹患による喪失感を抱え続けている方の中には、新しいチャレンジに一歩踏み出せない人もたくさんいるはずです。そんな方々の一歩を踏み出す後押しにもなればと、この本を書きました。
ですが、決して皆さんにチャレンジしてほしいというわけではないんです。まだ頑張れる状況じゃない人を無理に鼓舞するのではなく、これから頑張ろうとしている人、頑張りたい人の後押しをしたり、寄り添ったりしたい。そんな気持ちです。

濱崎:どのような方にお勧めしたいですか?

花木:がんを経験された方だけでなく、ご家族や知人友人の方にも読んでいただきたいです。
罹患経験者の胸の内って、こういう風になっているかも、というのを分かってほしい。また、がん罹患経験者と関わる仕事をしている医療従事者にもぜひ読んでいただけたらと思っています。

「一般社団法人がんチャレンジャー」について

濱崎:では次に花木さんが運営されている団体「一般社団法人がんチャレンジャー」についてお伺いしようと思います。「がんチャレンジャー」という名前の由来について教えてください。

花木:病気そのものや病気を抱えてもなお自分の人生に立ち向かう人を応援したい、という意味を込めています。
罹患しても、掲げていた目標に向かって頑張ることって、やれないことはないかもしれないですが、病気というのはハンデを抱える中で、これまでよりやりやすくなるということはなかなか難しいのではないでしょうか。
どうしても夢をつかみにくくなりますが、それでも諦めない人を応援したい。そのためには、まず自分自身で体現しないと、ということで自分自身も含めての「がんチャレンジャー」ですね。
人のことをただ応援するのではなく、背中でも語っていけたらと思っています。

濱崎:「がんチャレンジャー」の概要をお聞きしてもよろしいでしょうか。

花木:2019年11月に立ち上げました。web上での活動や、全国に冊子を展開する取り組みの都合上、活動エリアの制限はないです。
会も、がん種も問わず、自由参加の形態です。1万人以上のがん経験者が利用されています。

濱崎:どのような方が会に参加されていますか?

花木:寄り添い方ハンドブック(※1)を中心に活動しているので、当事者の周りにいる医療従事者、知人友人、職場の方が多いように思います。がん経験者も3~4割はいます。
※1:寄り添い方ハンドブックに関するオンコロの記事はコチラから。

濱崎:活動のテーマは?

花木:大きく分けて、「寄り添い方」と「キャンサーロスト」です。ただそれぞれ別々なものではなく、キャンサーロストは、がん罹患経験者に寄り添う上でも知っておいていただきたいという思いから普及を続けています。

濱崎:どのような活動をされていますか?

花木:罹患経験者同士の交流会というよりは、冊子の作成などを通してがん経験者との付き合い方の啓発活動や、セミナーや勉強会の実施を行うほうが多いですね。
最近は、キャンサーロストに関する勉強会を行うことも多いです。キャンサーロストを抱えている方との関わり方や、失敗談など、そういったものを当事者や関係者同士で共有しあい、互いに悩みを言い、アドバイスや情報提供をしてもらったりしています。
勉強会に参加することで、関係者はがん罹患経験者との、そしてがん罹患経験者自身も他の罹患経験者との付き合い方を学んでいただけると思っています。そして、話し合いを通して、参加者が主体的に周りの人との関わり方を変えていくような、そんな場になっていたらいいな、とも思いますね。

濱崎:立ち上げのきっかけを教えてください。

花木:私自身の話になりますが、ヘルスケア企業へ転職し、管理職を目指し仕事に励んでいた最中にがんに罹患してしまいました。38歳の時でした。
9か月の休職を経て、復職できたのですが……。会社側の気遣いもあったと思いますが、負荷の少ない仕事が続いたり、体の安全確保のためにも残業禁止があったりと、業務に対して自分の力が存分に発揮できるような環境ではありませんでした。
サラリーマンとして出世したい、家族を持つ立場としてもっとお金を稼がないといけない、という気持ちがありましたが、うまくいかず、モヤモヤした思いを感じていたんです。自分にはもっと社会貢献ができる力があるはずなのに、なかなかチャレンジする機会がもらないという中で、そういうフィールドが欲しいという想いがありましたね。
そのため、がんの経験を活かし、自身が活躍できる場を外に作ろうと思い、勤務先に掛け合って、がんチャレンジャーという社団法人を立ち上げることに至りました。

濱崎:当時、キャンサーペアレンツの西口さんの存在はご存じでしたか?

花木:西口さんがご自身の平日勤務の傍ら社団法人を立ち上げた、という面でも、西口さんは私のロールモデルとなっています。企業に属しながら、法人を立ち上げるというのが不可能ではないということを西口さんから教わりました。
実は、法人を立ち上げる前に西口さんに相談をしていまして。「楽ではないけど不可能ではない」と言われました。
西口さんから刺激を受けて今に至っているので、西口さんの思いを少しでも引き継げたら、と思っています。 花木さんと西口さん


濱崎:では最後に、罹患経験者の方々へのメッセージをお願いします。

花木:本の中でも書きましたが、罹患経験者の方は、健康への自信や、掲げていた夢など、さまざまなものを失ってきた方が多いと思います。
くよくよしてはいけない、年数が経ったら立ち直らなければいけない、と自身を鼓舞している人もいると思います。しかし、そんなに簡単に克服できるものではないですよね。
実際にキャンサーロストを完全に乗り越えた方は、我々が実施したアンケートの結果によると3割もいないことが分かっています。
その他7割の方は乗り越えられていない現状がある。だからこそ、決して無理をしないでほしい。そんな状況でも、懸命に生きている、生きようとしているわけで、自分だけでも自分を認めてほしい。
そういうメッセージを伝えたいですね。

最後にまとめとなりますが、キャンサーロストは、がんを経験した誰もが抱いて当然の気持ちです。
皆さんからは、私はがんを乗り越え成功しているように見えるかもしれませんが、私も今なおキャンサーロストを抱える罹患経験者の一人です。
私が今日に至るまで、どのような状況に対して、どのような気持ちで歩んできたのか、本には赤裸々に書いたつもりです。決して成功体験のお話ではなく、この本を読んでいただくことで、キャンサーロストを完全に克服できないのは自分だけではないんだ、と思ってもらいたいです。
そしてこの本が、「がんによって大事なものを失った。けど、もう一度頑張ってみたい」と思われ、次の一歩を踏み出すための支えや、背中を押してくれるようなものを必要とする方の元に届き、寄り添えたらうれしいですね。

『キャンサーロスト:「がん罹患後」をどう生きるか』の紹介

花木さんが出版された書籍については以下をご確認ください(外部サイトに移行します。)

『キャンサーロスト:「がん罹患後」をどう生きるか』
著者:花木 祐介さん (一般社団法人がんチャレンジャー理事長)

書籍の写真
×

会員登録 ログイン