【2020年】期待の新薬とオンコロジー領域の成長予測-エバリュエート社「Vantage 2020 Preview」より-


  • [公開日]2020.03.10
  • [最終更新日]2020.03.10

英市場調査会社のエバリュエート社は2019年末、2020年のバイオ医薬品市場の展望をまとめた「Vantage 2020 Preview」を発表した。今回は同報告書より、がん治療薬(抗がん剤)に関する項をピックアップし、サマリー形式でお伝えする。

※本記事はEvaluate社が作成したVantage 2020 Previewをオンコロが抜粋・翻訳したものです。内容および解釈については英語の原文を優先します。正確な内容についてはこちらの原文をお読みください。)

最も成長する薬剤はキイトルーダ

同報告によると、2020年に10億ドル以上の新規販売が見込める薬剤は8つある。うち4剤が抗がん剤だ。全世界において最も成長する(売り上げが伸びる)薬剤は、米メルクの免疫チェックポイント阻害薬キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)で、その額は32.9憶ドル。総売上高は139億ドルに達すると予想される。

ほか、がん治療薬としては、米セルジーンの免疫調節薬レブラミド(一般名:レナリドミド)が3位(成長額11.7憶ドル)、英アストラゼネカのEGFR阻害薬タグリッソ(一般名:オシメルチニブ)が7位(成長額10憶ドル)、アッヴィのBTK阻害薬イムブルビカ(一般名:イブルチニブ)が8位(成長額9.9憶ドル)と続く。

成長領域、特定の薬剤がけん引

上記のグラフは、2020年に市場を成長させる、あるいは鈍化させる薬剤の種類を表している。先の図に登場した薬剤を含む領域が複数あるが、それらの成長は特定の薬剤が促していることが分かる。

例えば、抗PD(L)-1抗体領域の新規販売は52憶ドルと予想されるが、その半数以上をキイトルーダ(32.9憶ドル)が占めている。また、免疫調節薬の領域は12憶ドルの成長と予想されるが、その大半はレブラミドの11.7憶ドルが占めている。

2020年上市予定の薬剤、全世界売り上げ予測トップ10

次の表は、2020年に米国で上市(発売)が期待される予定される薬剤の、2024年時点での全世界売り上げ予測トップ10だ。この中に抗がん剤は2つにとどまるが、1位は第一三共(日本国外ではアストラゼネカが販売)の抗体薬物複合体エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)だ。

HER2陽性進行乳がん患者を対象としたDestiny-Breast01試験において、多数の前治療歴を有する患者の61%が治療に反応したという結果は有望であり、アストラゼネカは1.4億ドルを前払いした。一方、副作用については注意が必要だ。肺合併症の発生率は、同剤を早期の治療に使用できるようになるかにかかわるため、市場予測に影響を与える可能性がある。

また、ブリストル・マイヤーズによるセルジーン買収の際にBeigene(ベイジン)がセルジーンから再獲得した抗PD-1抗体のtislelizumab(ティスレリズマブ)が中国で発売されることも注目だ。同製品は、2024年までに中国市場においてブロックバスターとなる見込みだが、他の地域での売り上げ見込みは大幅に低くなると考えられている。これは、この他の抗PD-1抗体に比べて、販売開始が非常に遅れるためだ。

注目の研究開発は「NKTR-214」「mRA-2752」「RG7828」

注目すべき研究開発のうち、オンコロジー領域では米NektarのBempegaldesleukin(NETR-214)と米モダーナのmRA-2752、スイス・ロシュのRG7828が紹介されている。

悪性黒色腫(メラノーマ)や腎細胞がんを対象に開発が進むNKTR-214は、その製造上の問題などの疑問があるが、投資家たちはこのプロジェクトへ巨額の出資を続けている。しかし、決定的なデータが2021年までに発表される可能性は低く、真価は依然として不明である。

同様に、再発難治性固形がん等を対象とするモダーナのmRA-2752についても多くの試験が第1相段階にある。これら試験の結果は2020年に発表が予定されており、より明確な結果が示されるだろう。

ロシュの二重特異性抗体RG7828(モスネツズマブ)は、非常に予後不良な非ホジキンリンパ腫患者において、印象的な割合で持続的な奏功を示し、その一部はCar-T療法後に再発した患者だった。

高く評価されている研究開発プロジェクトの上位10位のうち、オンコロジー領域は3つにとどまることも興味深い点だ。現在の抗がん剤開発は、よりニッチな領域を対象に行われている。さらに、次の免疫チェックポイント阻害薬開発の“波”が到来するには、期待よりも時間を要する可能性を表している。

追加承認に要するコスト、キイトルーダが突出

承認済み薬剤の開発ではオンコロジー領域の薬剤が目立つ。免疫チェックポイント阻害薬の開発者たちは、新たな適応症での承認取得と競争力維持のために、多額の投資を継続している。

ここでもキイトルーダが突出している。メルクは同剤の開発に数十億ドルを費やしたと推測されるが、商業的に成功している。おそらく、この分野でのライバル、たとえばアストラゼネカやロシュは、このレベルの支出の正当化にはまだ至らないだろう。

企業別の新規売上高予測、アストラゼネカがトップに

新規売上高が最も高額と予測されたのはアストラゼネカだ。同社の肺がん治療薬タグリッソとPARP阻害剤リムパーザは、非常に効果的な分子標的薬であることが証明されている。薬抗PD-L1抗体のイミフィンジは、競合に当たるキイトルーダとオプジーボに遅れをとっている可能性はあるが、同剤の売上は来年、約20億ドルに達すると予測され、商業的な失敗はないだろう。

■出典
エバリュエート Vantage 2020 Preview
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