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Jemperliの直腸がん克服の謎

[公開日] 2022.06.24[最終更新日] 2022.06.24

※本記事はEvaluate社の許可のもと、オンコロが翻訳したものです。内容および解釈については英語の原文を優先します。正確な内容については原文をお読みください。

 

Jemperliはバイオマーカーで定義された直腸がん患者のサブセットを効果的に治療できるかもしれないのに、なぜ製薬会社はもっと関心を示さないのであろうか。 エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)のDestiny-Breast04試験のリードアウトを除き、最近の米国臨床腫瘍学会(Asco)年次総会で最も話題になったのは、アカデミアが支援した直腸がんが対象のJemperli(一般名:ドスタルリマブ)の試験であった。多くの医師や一般紙は大いに盛り上がったが、Jemperliの製造元である英グラクソ・スミスクライン社(GSK)を含む製薬業界の反応は…事実上の沈黙であった。 この断絶にはいくつかの複雑な理由があるが、これまでに治療したすべての患者が持続的寛解に至ったというAscoで最も注目されたデータは、PD-(L)1阻害薬が実臨床を変える可能性を示唆している。しかし、Jemperliの使用をこのような適応にまで拡大することは、実際には商業的に不成功に終わる可能性がある。 ある意味、製薬会社は、企業のキャッチフレーズが主張するように、患者のために最善を尽くすものなのか、それとも利益を得ることが第一の目的なのか、ということが重要な問題なのである。GSK社はEvaluateのVantageチームに対し、「Ascoで発表されたデータは非常に心強いものであり、(Jemperliによる)治療によって生命を左右する手術を回避できる可能性があるため、局所進行直腸がんの患者にとって大きな意味を持つ」と述べた。 しかし、問題のJemperliの試験は、米メモリアルスローンケタリングがんセンター(MSKCC)が実施しており、6月5日に発表された最新の結果について、GSK社はプレスリリースさえ出していないという、まぎれもない事実が残っている。 驚異的なデータ 早期の直腸がん患者は通常、化学療法や放射線療法で治療され、その後、手術を受ける。MSKCCの研究は、これら現在の治療法の一部を遅らせたり、あるいは排除する上で、特にネオアジュバント療法(術前化学療法)でのミスマッチ修復欠損(MMRd)直腸がんにおけるJemperliの効果を探ろうとしたものであった。 そのデータは驚くべきものだった。MSKCCのAndrea Cercek博士は、時折涙をこらえながら、6ヶ月間のJemperliの投与を終えた14名の患者全員が完全奏効(CR)に至ったと、Ascoで語った。Ascoでのプレゼンテーションでは、Jemperliを「根治療法」と呼んでいるが、これには理由がある。手術、化学療法、放射線療法を必要とした患者は一人もいなかったのだ。 すべてのCRは中央値6.8カ月のフォローアップで進行中であり、2年以上継続している患者も4人いる。さらに4人の患者はまだ6ヶ月間の治療を終えていないが、全員が既に奏効を示しており、1人はCRであった。Cercek博士によれば、研究チームは全奏効率(ORR)25%を妥当性の基準としており、この帰無仮説はJemperliによって明らかに覆された。 Source: Dr Andrea Cercek & Asco. JemperliはMMRd固形がんの二次治療の適応で市販されており(※日本国内では未承認)、米ブリストル マイヤーズ・スクイブ社のオプジーボ(一般名:ニボルマブ)はMMRd大腸がんの二次治療に特化して承認されている。この領域で最も進んでいるPD-(L)1阻害薬は、米メルク社のキイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)であり、MMRd大腸がんの一次治療とMMRd腫瘍の二次治療の適応を有する。 しかし、MMRdに対するネオアジュバント療法としてのPD-(L)1免疫療法に、バイオファーマは関わっていないようである。米Evercore ISI社のアナリストは、MSKCCの試験の最適な比較対象は、オプジーボとヤーボイ(一般名:イピリムマブ)によるネオアジュバント療法を6週間実施したNiche試験であり、MMRd大腸がんで100%のORRを達成したと考えている。これは、オランダがん研究所が実施したものだ。 Clinicaltrials.govには、周術期の大腸がんに対する抗PD-(L)1抗体の研究がいくつか掲載されているが、すべてアカデミアが支援するものである。MSKCCと明らかに類似した試験が先月開始された。この試験は、MMRd大腸がんのネオアジュバント免疫療法として米Tracon社/中Alphamab社のenvafolimab(エンバフォリマブ)を検討するもので、中国・中山大学によって支援されている。 キイトルーダが一次治療であることを考えると、すべての企業の中でMMRd直腸がんのネオアジュバント療法に最も適しているのはGSK社ではなくメルク社であろう。しかし、GSK社と同様にメルク社もあいまいだ。(同社は)Vantageチームからの質問に、MSKCCの研究を認め、「常に評価しており、疾患の早期段階におけるキイトルーダの役割を検討している」としか回答しなかった。 興味は? 製薬会社が明らかに関心を示さない背景には、どんな理由があるのだろうか。明白な問題は、この市場がどの程度大きいかということである。Cercek博士によれば、直腸がんの5-10%がMMRdであり、これは全世界で4万~7万人の患者に相当するが、MSKCCはそのうちのわずか18人を登録するのに29カ月を要したという。 MSKCCのデータは、比較的短いフォローアップ期間、生存率の不足、そしてこの研究が重要な専門的知識を有する単一のセンターで実施されたという事実を考えると、依然として結論は出ていないのかもしれない。 おそらく最大の問題は、単一のコホートデータだけでは承認に不十分であり、他方で対照試験をデザインすることが困難であることだ。このような試験では、当然、対照群に化学療法や放射線療法、手術が行われることが予想されるが、PD-1を適応外で使用している医師によって混乱が生じる可能性がある。 この研究の討論者である米ダナ・ファーバーがん研究所のKimmie Ng博士は、Ascoで「これらの結果が発表された後、ネオアジュバント免疫療法のプロトコル外使用が起こると考えられる」と述べたが、この見解はそれでも適応外処方に対する保険償還がないことを無視したものであった。 GSK社は、このネオアジュバント療法の臨床試験を拡大するためにCercek博士と協力することを期待していると述べた。Ng博士は、この結果は臨床的に意義があり、科学的にも妥当であるとAscoで語った。一方、この結果が実臨床に変化をもたらすかどうかは、「まだ」であるという。 ■出典 The mystery of Jemperli’s rectal cancer breakthrough
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