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MRD(分子的残存病変)は臨床試験の主要評価項目になり得るか?:今分かっていること、今後の研究が必要なこと 第22回日本臨床腫瘍学会学術集会より
[公開日] 2025.04.21[最終更新日] 2025.04.21
3月6日~8日、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2025)が神戸コンベンションセンターで開催された。「シンポジウム30:MRD検査が切り拓く周術期試験デザインの近未来」のセッションにおいて、「MRD検査を用いた新しい臨床試験エンドポイントの展望」と題して坂東英明先生(国立がん研究センター 東病院)が発表した。
MRD(分子的残存病変)は、既に多発性骨髄腫において予後の代替評価項目となることが分かっている。例えば、治療によって画像上完全奏効(CR)が得られた症例では、より深い奏効が得られるほど(MRDレベルがベースラインの1/100000以下)、無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)が良好であるとの報告がある。
固形がんにおいては、がん種横断的にMRD検査の最新エビデンスを集めた「分子的残存病変(molecular residual disease: MRD)検査の適正臨床利用に関する見解書」が昨年の10月に出されている。坂東先生によると、大腸がんが最も研究の進んでいる領域であり、その他のがんでは中立的な書き方になっているものの、最新のトピックスがまとまっており、9つの臨床的疑問(CQ)に対する一定の見解が示された初めてのガイダンスとなっている。「推奨度や治療介入に対するMRDの有用性については、現在各領域で実施されている研究結果が出てくるごとに、今後どんどん記載が変わっていくと思います」(坂東先生)。
坂東先生は、講演のテーマである「臨床試験の代替主要評価項目としてのMRDの利用」について、2つの例を挙げた。
まずDYNAMIC試験(MRDの有無によるII期大腸がんの術後療法の検討)では、手術後の検査でMRDが陽性であった症例において、術後療法後にMRDが陰転化した症例ではその後の再発がほとんど認められなかった(35例中3例が再発)一方で、陰転化しなかった症例では大部分に再発が認められた(5例中4例が再発)。坂東先生は、症例数は少ないものの、MRDが強力な代替主要評価項目になり得ることを示唆しているのではないか、とコメントした。
またCIRCULATE-Japanの中のATLAS試験では、術後の標準療法後の検査でMRDが陽性であった症例において、FTD/TPIによる治療介入の有無を検討。無再発生存期間(DFS)は、FTD/TPI治療により改善傾向にあったものの、統計的な有意差はつかなかった(ハザード比=0.79、95%信頼区間=0.60-1.05)。ただし、IV期に限定した集団では、DFSの有意な改善が認められたため(ハザード比=0.53、95%信頼区間=0.32-0.87)、MRDとの関連等の詳細な解析が今年の米国癌学会(AACR)で発表予定とのことだ。
MRDをエンドポイントにする上での課題として、まず検査の感度の問題が挙げられる、と坂東先生。今後がん細胞のすべてのDNAを解析する(全ゲノム解析、Whole genome sequencing: WGS)ことで高感度の検査を可能にする「WGS-based MRD」などが可能になり、現在の検査でMRD陰性と判定された症例が陽性に変わる可能性があるという。今後数多くの研究データを見ていく際に、検査方法ごとの感度の違いによって、MRDの陽性・陰性の定義が変わる可能性がある点には注意が必要だ。
もうひとつの問題として、検査のタイミングがある、と坂東先生。従来の画像評価と比較して、MRDはダイナミックに変化することが予想され、検査のタイミングによって陽性・陰性が変化する可能性がある。実際、CIRCULATE-Japanの中の観察研究であるGALAXY試験では、いったんMRDが陰転化した症例でも、再び陽転化する症例がいること、それらの症例は最終的には大部分が再発することが示されている。つまり、DFSやOSと相関しているのは、MRDの陰転化が“持続すること”であり、検査のタイミングの検討が必要になる。
現在、CIRCULATE-IDEA国際コンソーシアム(各国のCIRCULATEプロジェクトで実施された試験の統合解析が検討されている)で、予後因子および代替主要評価項目としてのMRDの妥当性を評価することが計画されており、今後の結果が待たれるところである。
坂東先生は、MRDの研究にあたっては、検査法やタイミング、病期やその他の予後因子等、幅広い症例を解析に組み込み、頑健性の高いエビデンスを構築していくことが必要だとし、講演を締めくくった。
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