3月6日~8日、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2025)が神戸コンベンションセンターで開催された。「会長企画シンポジウム 6:がん遺伝子パネル検査は1次治療開始前に実施するべきか?」のセッションでは、先進医療Bで実施された2つの研究結果が報告された。
固形がん患者における初回治療時の包括的ゲノムプロファイル(CGP)検査の実現性と治療選択への有用性を評価する多施設共同前向き研究 (NCCH1908:UPFRONT試験)
水野 孝昭先生(国立がん研究センター中央病院 先端医療科/慶應大学腫瘍センター がんゲノム医療ユニット)
現在のCGP検査の適応は、「標準治療終了(見込み)」とされており、全身状態の悪化などの理由から、治療薬への到達機会を逃す症例もいる。また、昨今ではドライバー遺伝子以外の遺伝子異常(KRASやTP53など)を標的とした初回治療からの臨床試験も増えてきている。そのため、より早い段階でのCGP検査の重要性が高まっている。
このような背景から、固形がんを対象に、コンパニオン診断に“加えて”全身治療前にCGP検査を行うことの有用性を検討した試験(NCCH1908:UPFRONT試験)が実施された。既に2023年のJSMOにて中間解析の結果が報告されており、登録症例201例中192例(93%)が検査可能であったこと、また全体の57.3%にactionable(治療ターゲットとなりうる)な遺伝子変異(「
次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス」の基準に基づきエビデンスレベルD以上と定義)が見つかったことが発表されていた。
同試験の対象固形がんは、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、膵がん、胆道がん。水野先生によると、対照群として比較できる標準治療が確立されており、かつ試験実施期間である2年間で評価可能ながん種を選択しているという。主要評価項目は、遺伝子異常に対応する分子標的薬による治療を受けた患者割合(ただしコンパニオン診断に戻づく治療は除く)であった。
患者背景は、年齢中央値が62歳、初発進行がんが67.2%、再発症例が32.8%。がん種は膵がん(27.9%)と大腸がん(24.9%)が上位を占めており、この2がん種はコロナ禍の影響を受けずに比較的受診する傾向があったと水野先生はコメントした。
actionableな遺伝子変異が見つかった割合は、膵がんで67.9%、非小細胞肺がんで65.6%、胆道がんで62.5%、乳がんで46.2%、大腸がんで48.0%、胃がんで35.3%であった。またエビデンスレベル別では、約2割の症例でエビデンスレベルAの遺伝子異常が見つかった。また、がん種別の推奨治療の有無は、高いがん種(大腸がん、膵がん)で9割を近い症例に推奨治療が提案できた一方で、低いがん種(胃がん、乳がん)では4割程度であった。
分子標的薬治療の実施に至った症例は、全体で14例(7.3%)であったが、がん種によるばらつきが大きく、非小細胞肺がんでは18.8%と最も高く、胃がんや乳がんでは0%であった。
推奨治療に到達できなかった理由としては、57%が標準治療中の状態の悪化(死亡)であった。また32.8%は現在標準治療中であり、今後推奨治療を実施する可能性があるため、長期追跡結果が待たれるところだ。
以上の結果から水野先生は、初回の全身療法前のCGP検査は、必ずしも標準治療後の推奨治療到達率の改善にはつながらない可能性があるとし、有効な治療薬は標準治療に先んじて提案していく重要性がある、と結論付けた。
PSY6-2:先進医療B:標準治療前のがん遺伝子パネル検査の有用性を評価する多施設共同前向き研究FIRST-Dx studyの1年フォローアップ
松原淳一先生(京都大学医学部附属病院 腫瘍内科)
FIRST-Dx studyは、FoundationOne CDx(CGP検査のひとつ)を使った国内6施設における多施設共同前向き観察研究であり、標準治療開始前の進行固形がんに対するCGP検査の臨床的有用性を評価するもの。既に1年経過観察(期間中央値15.1ヶ月)の中間解析の結果は第62回日本癌治療学会学術集会でも報告されていた。
⇒詳細:https://oncolo.jp/news/jsco2024_cgp01
既報データでは、推奨治療ありとされた105例のエビデンス別の割合は、49例がエビデンスA(承認薬の推奨あり)であった。今回、既に推奨治療を受けた39例においてはエビデンスレベルAが77%を占めていたのに対し、まだ推奨治療実施に至っていない66症例においてはエビデンスレベルAが29%、残りはエビデンスレベルB以下、即ち適用外薬の推奨であることが報告された。これを受けて松原先生は、今後適用外薬にいかにアクセスするかということが、CGP検査を有効活用していく上で重要である、と話した。
今回発表された2つの試験のうち、一方のUPFRONT試験は「コンパニオン診断薬がない、またはコンパニオン診断薬による遺伝子検査陰性の症例」を対象に早期に治療薬を届けること、もう一方のFIRST-Dx studyは「コンパニオン診断による遺伝子検査陽性を含めた症例」を対象に、より早い段階で推奨治療を届けることを目的としており、両者は比較するのではなく補完しあうデータであることには注意が必要である。
ただし、いずれも標準治療開始前のCGP検査による治療選択肢の把握、また治験をはじめとする適用外治療へのアクセスの改善の重要性を示しており、今後議論されるべき課題である。
関連リンク:
第22回日本臨床腫瘍学会学術集会