3月6日~8日、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2025)が神戸コンベンションセンターで開催された。「Oral Session 14:患者支援・サバイバーシップ」では、がん患者を取り巻く経済毒性の現状に関する二つの研究が報告された。
O14-2:本邦におけるがん患者の経済毒性に関連する社会経済的要因に関する前向き研究
横山和樹先生(国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科)
一つ目は、日本人がん患者において、経済毒性に関連する個々の社会経済的または経済的要因を探ることを目的とした前向き研究。解析対象は、国立がん研究センターおよび愛知県がんセンターにおいて、2023年10月から2024年5月までに化学療法を2ヵ月以上受けた18歳以上のがん患者203例であった。生活保護を受けている患者、臨床試験に参加している患者は除外された。
経済毒性は、0点から44点までの11の質問からなるCOST(Comprehensive Score for Financial Toxicity)を用いて評価された(得点が低いほど経済毒性が高い)。COSTに関連する因子を評価するために、多変量線形回帰分析が実施された。
対象症例の患者背景は、年齢中央値が62歳(範囲:23-83歳)、一般的ながん種が頭頸部(23%)、大腸直腸(12%)、肺(11%)であった。また分子標的薬治療中または治療歴がある症例が55.7%、免疫チェックポイント阻害剤については32.0%であった。最初の薬物療法から2年以上経過している症例が35.0%と最も多い一方で、半年未満の症例も23.6%を占めた。
多変量解析の結果、世帯年収が600~800万円であること(所得中間層)、世帯年収の70~100%の減少を経験したこと、および治療費捻出のための対策を実施した経験があることが、COSTスコアの低さと有意に関連しており、経済毒性の高さを示していた。具体的な治療費捻出の方法としては、貯金の大部分あるいは一部の使用で最多(47.8%)、次いで42.9%が個人的な楽しみ(旅行や映画など)の節約、26.1%が生活費の節約などであった。また、薬の減量や治療の変更・中断などを選択した症例も一定数存在した。
この結果から横山先生は、経済毒性を受けやすい集団が明らかとなり、臨床医が患者の経済毒性を認識する上で有用な情報である、とコメントした。
O14-3:地域レベルの社会経済的不利と非小細胞肺がん治療における免疫チェックポイント阻害薬投与率との関連
鈴木宏依先生(東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学)
二つ目は、日本におけるIV期非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に、患者の社会経済的地位(SES)と免疫療法の使用との関連を検討した初めての研究。解析には日本の全国入院患者データベース(Diagnosis Procedure Combination)が使われ、2016年4月から2022年3月までにIV期NSCLCで入院し、初回薬物療法を受けた18歳以上の全患者が解析対象となった。
SESは、地域の貧困の度合いの尺度である地理的剥奪指標(郵便番号で照合)を用いて測定し、四分位群に分類された(社会経済的に最も恵まれている~社会経済的に最も恵まれない)。主要アウトカムは、第一選択治療としての免疫療法の使用であった。
適格患者47,291人(平均年齢68.3歳、女性25%)を解析したところ、22,205人(47%)が免疫療法を受けており、交絡因子(年齢やBMI、合併症等)を調整した結果、社会的に恵まれない地域に分類された患者は、恵まれた地域の患者よりも免疫療法を受ける可能性が有意に低かった(p=0.011)。
鈴木先生は、国民皆保険制度が導入されている日本であっても、免疫療法へのアクセスには社会経済的な格差があり、社会構造的障壁に対処する介入が必要である、とコメントした。
上記二つの報告は、がん患者を取り巻く経済的な問題に、一つ目は個々のレベルで、二つ目は地域レベルでアプローチしたものであり、これらの課題の解決が、がん治療へのアクセスの改善に重要であることを示唆している。
関連リンク:
第22回日本臨床腫瘍学会学術集会