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分子的残存病変(MRD)検査の実臨床応用に向けて:初のガイダンス発刊と今後の課題 ~第62回日本癌治療学会学術集会より~
[公開日] 2024.10.31[最終更新日] 2024.11.28
10月24日~26日、第62回日本癌治療学会学術集会が福岡コンベンションセンターで行われた。同学術集会では、日本における「切除可能固形がんにおけるMRD利用ガイダンス」の発刊に伴い、「MRDがもたらす切除可能固形がん周術期治療の近未来」と題したセッションが組まれ、今後の分子的残存病変(molecular residual disease: MRD)の利用に関するディスカッションが行われた。
MRDは、臨床的な再発初見よりも早い段階で認められる分子レベルでの再発と定義され、血液循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA: ctDNA)の検出によって測定される。術後の再発リスクや予後の予測マーカーとしての臨床的妥当性が複数報告されている一方で、大規模なランダム化試験が難しいことや予後改善につながるエビデンスが不足していることなどから、国内外ともにガイドラインへの明確な記載がなかった。
このような背景の中、2024年10月24日、日本において初となる『分子的残存病変(molecular residual disease: MRD)検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版』が公開された。MRDガイダンス作成ワーキンググループ委員長である小林信先生(国立がん研究センター東病院)は、MRD検査の有用性を患者に還元することを第一の目標とした、と語る。そのため、がん種によってはエビデンスが不足している部分が多々あるとし、同見解書と各がん種のガイドラインを併せて適切に解釈し、臨床利用してほしい、と呼び掛けた。
見解書の中では9つのCQ(Clinical Question)が取り上げられており、小林先生はセッションの中でいくつかのCQをピックアップして解説した。
まず「CQ1: 術後MRD検査には、どのようなアッセイが推奨されるか?」に関しては、“臨床的妥当性”が重要視される、と小林先生。具体的には、MRD検査の精度(感度・特異度)やMRD陽性症例と陰性症例の予後の比較、MRD陽性から最初までの期間などにより評価される。これらの観点から、従来の腫瘍マーカーや画像診断よりも高い妥当性があると判断されたものが推奨される。
続いて「CQ2: どのようながん種・ステージにおいてMRD検査が推奨されるか?」に関しては、MRD検査主目的が、①術後の再発リスク評価、および➁再発サーベイランス(再発の発見・治療による予後改善を目的とした術後の定期的な検査のこと)による再発の早期発見であることから、基本的には根治的切除ができた症例が対象となる。病期に関しては、再発リスク評価の観点からは、例えば大腸がんにおけるGALAXY試験において、病期に問わずMRD陽性例で有意に再発率が高いことが示されているため、根治切除全例でのMRD検査が強く推奨される。
一方、再発サーベイランスの観点からは、高コストな検査を繰り返し実施することのメリットと経済的負担とのバランスも考慮されるべきとされている。例えばGALAXY試験において、再発低リスクとされるctDNA陰性のI期大腸がんでは、術後2年無再発率が95%以上であり、術後の定期的なMRD検査が不要な症例もいると考えられる。
ただし、大腸がん以外のがん種におけるMRD検査の妥当性に関しては、まだまだ今後の研究が必要である。
また「CQ4: MRD検査はいつ行うことが勧められるか? 」に関しては、術後の再発リスク評価と術後治療介入の必要性の判断には、術後2−8週間が妥当とされている。小林先生によると、術直後は手術の侵襲性の影響でctDNAが高くなる傾向があり、正確な測定のためには術後2週目以降が適しているようだ。一方、再発サーベイランスの観点からは、がん種毎に必要な検査の頻度や期間に準ずる。例えば大腸がんのGALAXY試験では、MRD陰性から陽性に転ずる時期は約98%が術後2年以内に集中していることから、術後1-2年に期間を限定したMRD検査の実施が適していると考えられる。
最後に術後治療介入に関して、「CQ6: 術後MRD陽性の患者に対して、術後補助療法は推奨されるか?」および「CQ8: 術後MRD陰性の患者に対して、術後補助療法は推奨されるか? 」の2つのCQが紹介された。
まずMRD陽性症例に関しては、予後や術後介入の有効性は、大腸がんや肺がん、尿路上皮がんなど複数のがん種において示唆されていることから、術後の治療介入が推奨される。しかしながら、MRD陽性でありながら再発低リスクと判断された症例に対する積極的な術後治療介入に関しては、データが不足しているため、統一された見解がなく、今後の解析が必要になってくる。
一方、MRD陰性症例に関しては、尿路上皮がんや肺がんにおいては、MRD陰性症例に対する無治療・経過観察の可能性が示唆されるデータがある。そのため、MRD陰性症例においては、治療強度が低いレジメンや術後治療の省略も選択肢になり得るとされている。ただし、大腸がんのDYNAMIC試験において、MRD陰性であっても病理学的因子が不良の場合は予後が悪いことが示唆されているため、術後治療の省略の可能性を検討したVEGA試験の結果が待たれる。また膵臓がんにおけるDYNAMIC-Pancreas試験においても、MRD陽性・陰性にかかわらず無再発生存期間が不良であることが示されており、治療のde-escalation(効果を損なうことなく治療強度を下げ、過剰な治療を回避すること)の判断は適切ではないと判断された。したがって、このCQに関しても、がん種ごとの検討が必要になってくる。
最後に小林先生は、MRDに関しては依然としてデータが不十分な部分も多く、CQ解決につながる適した臨床試験の実施と、タイムリーなガイダンスのアップデートが必要であることを強調した。また、「患者団体からの意見なども取り入れて社会実装を目指したい」、と実臨床での利用に向けた意気込みを語った。
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