4月28~30日に第63回日本呼吸器学会学術集会が、東京国際フォーラムにて開催された。今回は現地を主体とした開催形式であり、当日多くの参加者が現地に集まった。
会期1日目に腫瘍部会からの報告として、「YEAR in REVEW: 肺癌薬物治療の進歩」と題して髙山 浩一先生(京都府立医科大学内科学呼吸器内科分野)から発表があった。
大きな変化を遂げた術前術後補助療法
まず、この1年の最も大きな出来事として、術前・術後補助療法の変化が挙げられた。
IMpower010試験ではアテゾリズマブ(製品名:テセントリク)の、またADAURA試験ではEGFR変異患者に対するオシメルチニブ(製品名:タグリッソ)の術後補助療法による無病生存期間(DFS)延長が明らかになり、いずれの薬剤も術後補助療法に対して昨年(2022年)に適応が追加された。
タグリッソに関しては、術後再発を遅らせていることが生存期間の延長にどこまで寄与するのかという議論に答えが出ておらず、昨年末に改訂された肺癌診療ガイドラインでは、「推奨度決定不能」と位置付けられている。ただし、今年に入りアストラゼネカ社から、術後のタグリッソ服用によって全生存期間(OS)にも有意差がついたとのプレスリリースが出され、今年の米国がん治療学会議(ASCO)で実際のデータが発表されるようである。その結果次第では、ガイドラインの表記や実臨床での位置づけが変わってくる可能性があるという。
またテセントリクに関しては、免疫チェックポイント阻害剤特有の有害事象(irAE)が懸念されており、術後に長期の生存が期待できるからこそ、晩期的な毒性に関するフォローアップを続けることが重要であると高山先生はコメントした。
一方、CheckMate816試験では、ニボルマブ(製品名:オプジーボ)+プラチナ併用術前補助療法により無イベント生存率(EFS)の延長が示され、今年3月に適応拡大となっている。
こうした経緯から、手術ができる患者に対して、術前と術後のどちらに治療をするべきか(あるいは必要ないか)を判断するための基準を巡って、現在議論が行われている。
更に今後、術前と術後の両方に薬物療法を実施する試験の結果も出てくるため、「実臨床における周術期の薬物治療の使い分けは益々混沌としてくるだろう」、と高山先生は懸念を示した。
進行期肺がんでは新たな分子標的薬も
進行期肺がんに対しては、いくつかの分子標的薬の開発が進んでいる。まず昨年1月に承認されたKRAS G12C変異に対するソトラシブ(製品名:ルマケラス)は、承認の根拠となったCodeBreaK 100試験に引き続き、第3相試験であるCodeBreak200試験でも無増悪生存期間(PFS)の有意な延長を示した。
また、EGFRエクソン20挿入変異に対して、上皮成長因子受容体(EGFR)とMET受容体に対する二重特異性抗体であるアミバンタマブが有効性を示し、海外では既に承認されている。先日開催された欧州肺がん学会議(European Lung Cancer Congress 2023)においても有望な結果が発表されており、今後も注目すべき薬剤のようだ。
抗体薬物複合体ではHER2変異陽性肺がんに対してトラスツズマブ デルクステカン(製品名:エンハーツ)が高い奏効率を示し、承認が待たれるところである。
最後に複合免疫療法においては、デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)およびトレメリムマブ(製品名:イジュド)が、化学療法との併用療法で転移性非小細胞肺がんの治療薬として承認された。実臨床では、既に免疫チェックポイント阻害剤を使った類似の治療が実施されているため、それぞれの治療が適した患者像を検討していくことが重要だ、と高山先生はコメントした。
検査も進歩、予後改善にさらなる期待
遺伝子検査に関しては、肺がん コンパクトパネル Dx マルチコンパニオン診断システムが紹介された。同システムは、解析対象の遺伝子数を薬剤に紐づく特定の遺伝子セットに絞ることで、高い感度を達成している。そのため、わずかな細胞診検体でも解析可能であり、組織検査が難しい場合でも検査のチャンスが得られる点で朗報のようだ。
以上のように、新たな治療薬や検査方法の登場によって、進行期、周術期ともに今後も更なる生命予後の改善が期待されるとして、高山先生は講演を締め括った。
■参考
第63回日本呼吸器学会学術集会
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