4月28~30日に第63回日本呼吸器学会学術集会が、東京国際フォーラムにて開催された。今回は現地を主体とした開催形式であり、当日多くの参加者が現地に集まった。
会期2日目に、会長特別企画3として「肺がんにおけるデータベース研究の最前線」と題した講演・ディスカッションが行われた。
C-CATデータの利活用の現状と肺がん学会の取り組み
宿谷威仁先生(順天堂大学 呼吸器内科)によると、C-CAR登録累計数は、2023年2月28日時点で50,032人であり、そのうちエキスパートパネル総数は30,822例、提示された治療薬を実際に投与された患者さんは2,888人であるという。そのうち肺がんに関しては、男性1,662人、女性988人が登録されており、データの利活用に対する同意割合が99.7%となっている。
データの利活用に関しては、2023年2月9日時点で47課題(うち企業から5課題)が承認されている。実際に宿谷先生が所属する施設においても、データの利活用により「実臨床における胸腺上皮性腫瘍のゲノムプロファイリング」と「非翔細胞肺がんにおける遺伝的祖先ごとの遺伝子以上の違い」の2つの研究を実施したことが紹介された。
しかしながら、C-CATの利活用は完全なものではなく、同じ病気でも登録されている表記が施設ごとに異なること、患者背景や治療歴などの詳細情報の入力にばらつきがあるため臨床情報の比較が難しいことなどの課題もある、と宿谷先生。
そこで肺がん学会は、ドライバー遺伝子検査の実態調査とデータベース構築に取り組んでいるという。宿谷先生によると、同 プロジェクトは、将来の研究への活用や、企業との情報共有による遺伝子検査の普及や治療薬の適正使用の推進が目的とのこと。実際に使われているのは、現在実臨床で頻繁に使われているコンパニオン診断のひとつ、オンコマインDxのデータであり、遺伝子検査結果や検査施設に加え、性別や年齢、検査IDや検体採取日及び検査実施日などが収集されている。ただし、企業への提供はそのうちの一部(遺伝子検査結果や検査施設・エリア、検査実施日)に制限しているようだ。
この取り組みのタイムラインは、現在関係企業との契約まで完了し、夏頃から実際のデータ集積が開始されるようだ。既に70を超える施設からの協力が得られているとのこと。また、倫理面での課題も多いため、弁護士と共に患者説明同意書や契約書を作成していく予定だと言う。
最後に宿谷先生は、「日本における胸部悪性腫瘍の診断・治療の改善につながるデータベース作り・研究を進めていきたい」と意気込みを強調し、講演を締めくくった。
座長の高山先生からは、C–CATデータは標準治療が終わった症例というバイアスがかかる一方で、肺がん学会の取り組みは、実臨床をベースにしたデータになるとの利点に言及した。
肺がんの大規模リアルワールドデータ創出システムを構築
藤本大智先生(和歌山県立医科大学病院 腫瘍内科)は、日々の実臨床データがあるにもかかわらず、学術的な利用価値という観点では不十分だという課題を挙げた。また、医療者の負担を抑え、データの質が担保でき、かつ利活用が可能なデータの収集基盤が必要である、と強調した。
現在、AI(人工知能)による肺がんの予後予測モデル構築に向けた多施設レジストリ研究として、REAL-WIND(WJOG15121L)という基盤形成のためのパイロット試験が進行中であるという。IV期肺がん症例 16施設約7,000例を目標に昨年から始まっており、データ収集まで完了しているようだ。
詳細は、電子カルテと連動したアプリケーション「CyberOncology」を作り、採血データなどの自動抽出や有害事象の自動等級付けなどの機能によって、負担が少なく質の高いデータベース構築が実現しているそうだ。
藤本先生は、AIによって個々の患者さんの背景因子が予後にどの程度寄与しているかということまで算定することが重要であり、インフォームドコンセント(IC)の個別化にもつながる、とコメント。また、今回の収集基盤によって大規模なリアルワールドデータの収集が可能であることが示され、更なるシステム構築によりリアルワールドデータの利活用が加速するだろうとし、講演を締めくくった。
■参考
第63回日本呼吸器学会学術集会
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