治療の進歩によって仕事を続けるための支援も必須に
肺がんの治療の進歩により長生きが可能となったことは、高い治療費や副作用の負担も長期にわたることを意味するとし、仕事を続けていくための支援も必須だと池田先生。また、個々の状況に合わせた支援の実現には、医療機関と企業と支援センターによるトライアングル型の支援による個別化が必要だ。「びっくり離職の予防はもちろんですが、治療に伴い変化する状況のタイムリーな情報をキャッチし、フォローを継続する必要があります」(池田先生) しかしながら、就労支援の必要性を感じていながらも、日々の忙しさが原因で、実際には患者さんとの仕事の話を避ける医師が多いこと、その結果ハブとなる相談支援センターなどに繋がらないことが、就労支援の律速となっている現状がある。 医師だけをあてにしないで、と池田先生。看護師や薬剤師には、患者さんに対する生活や仕事に関する声かけや他職種への情報共有を、また患者さんの生活を間近で見ている医療ソーシャルワーカー(MSW)や支援センターには成功事例の共有による医師のモチベーションアップのきっかけ作りを呼びかけた。また、スタッフが入れ替わっても持続可能な体制になるよう、院内フローの作成の重要性を強調した。 さらに、患者さん自身でできることも多い、と池田先生は話す。支援の流れを患者さんが早い段階で理解し、自身で職場の相談場所の状況把握や書類の受け渡しなどができるような体制作りの大切さにも言及した。 最後に、産業医に対しては「患者さんの一番の味方でいて欲しい」とし、そのためには産業医における最新のがんの知識のアップデートが必要であることを強調した。池田先生が経験した実際の例として、進行肺がんの社員に対し、仕事を続けることが難しいと考える産業医がいたことを紹介。これは今の時代には非常に稀な例だとしつつも、産業医が最新のがん治療に触れる機会があまりない現状を指摘。最近の取り組みとして、愛知県がんセンターを中心に設立された「がん就労を考える会」に言及し、同様の取り組みを全国に広げるべく、産業衛生学会と肺癌学会のコラボ企画などを今後の課題として挙げた。 治療によって患者さんに長生きしてもらうことだけが医師の役割ではなく、これからは患者さんが長生きすることの意義を一緒に考えることも医師の責任だと思う、と池田先生。「仕事の話など、治療以外の話題の持つインパクトの大きさに気づいてもらえるような活動をしていきたいと思います。医師だけの力では不可能なので、患者さんにより近い立場の看護師・薬剤師さんやソーシャルワーカーの方にも積極的に声をあげていただきたいです」(池田先生)がん治療中の就労支援はどこまで進んだか?:患者・医師アンケート2023の結果から