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「気持ちのつらさガイドライン」から読み解く、がん患者の精神的な苦痛に対する最適なアプローチ ~第65回日本肺癌学会学術集会より~
[公開日] 2024.12.04[最終更新日] 2024.11.28

10月31日~11月2日、第65回日本肺癌学会学術集会がパシフィコ横浜で行われた。同学術集会のセッション「がん緩和・支持療法&サイコオンコロジー UPtoDATE」の中で、「気持ちのつらさガイドライン」に関して藤澤大介先生(慶應義塾大学医学部)が発表した。
がん患者の精神心理的苦痛の緩和をテーマとした「がん患者における気持ちのつらさガイドライン 2024年版」が、日本サイコオンコロジー学会と日本がんサポーティブケア学会から先日(2024年9月30日)発刊された。
がん患者やそのご家族の精神面のケアに関しては、既に「せん妄ガイドライン」、「コミュニケーションガイドライン」、「遺族ケアガイドライン」の3つのガイドラインが出版されており、今回は第4弾となる。
同ガイドラインが対象としている心身の辛い状況は、臨床的には「うつ病」や「不安障害」のことを指すが、偏見が少なく受け入れられやすいという観点から、国際的に「気持ちのつらさ(Psychological distress)」という用語が使われる。過不足ない治療のためには、臨床的介入の必要性を判断するための重症度合を見極めが重要だ。
がん患者の気持ちのつらさは、QOL(生活の質)の低下だけでなく、痛みの感度の上昇、がん治療のアドヒアランスの低下、またそれに伴う予後の増悪や自殺リスクの増加など、様々な影響を及ぼすことが知られている。「重要なことは、これらがすべて予防・治療可能であるということで、これらを見落としたくないという想いがあります」(藤澤先生)
気持ちのつらさに対する診療アルゴリズムは2段階から成る。まずは、全医療従事者による支持・支援的なコミュニケーションが大原則、と藤澤先生。気持ちのつらさの可能性に気づき、患者が何を望んでいるのかを特定し対応していく中で、気持ちのつらさの存在を評価していく。そして、臨床的介入が必要なレベルであると判断されて場合には、次のステップとして、個々の症状に特化した専門的な介入が行われる。
同ガイドライン作成にあたり、具体的な介入として「薬物療法」、「心理療法」、「多職種連携(協働的ケア、早期からの緩和ケア)」、「介護者への介入」、「ピアサポート」、「がん再発恐怖への心理療法」が検討され、藤澤先生は講演の中で、特に以下の4つについて説明した。
唯一強い推奨となった介入は、「協働的ケア」であった。これは、プライマリケア提供者(海外では、トレーニングを受けた看護師等)と精神心理専門家が積極的協力体制を作り、定期評価とプロトコルに基づくケアを提供するものである。国際的に有用性を示すエビデンスがあるものの、日本においてはほとんど浸透していないのではないか、と藤澤先生。認定看護師の在籍や緩和ケアチームの機能が充実しているがん診療拠点病院がハブとなり、系統的な介入の実現をめざしていくことを提案し、日本における体制づくりの必要性を強調した。
「薬物療法(抗不安薬、抗うつ薬)」に関しては、がん患者に特化した有用性を示す報告が少ないことから、弱い推奨となった。薬物療法に関しては、がん患者において有害事象が強く出やすい可能性を考慮しながら治療選択肢として検討することを提案する、という位置づけとして理解してほしい、と藤澤先生はコメントした。
「早期からの緩和ケア」に関しては、既にQOLや生存期間の改善に有効であるとの報告があり、米国臨床腫瘍学会(ASCO)や欧州臨床腫瘍学会(ESMO)において強く推奨されている背景から、今回検討事項に挙げられた。しかしながら、系統的レビューを実施したところ、抑うつや不安の改善を示す直接的な報告が少ないこと、また今回対象としている「一定程度のうつや不安を有する症例」に対象を絞った研究がないことから、同ガイドラインにおいては単独では推奨しないという判断となった。ただしこれは、QOLや症状緩和目的の早期緩和ケア介入の有用性を否定するものではない、と藤澤先生。「あくまで“気持ちのつらさだけ”を目的とした場合には、早期緩和ケア単独で十分はと考えず、プラスアルファの介入を検討いただきたい、というのがお伝えしたいメッセージです」(藤澤先生)
最後に「ピアサポート」については、現時点では一定程度のうつや不安を有する症例に対して、うつや不安症状を改善する明確な報告がないことから、単独では推奨しないと判断された。しかしながら、気持ちのつらさは、うつや不安だけではないため、その他の様々な症状に対するピアサポートの有用性は十分に考えられる、と藤澤先生は補足した。今後は、ピアサポートの実施形態の最適化や、その他の治療介入との組み合わせを探っていくことが重要になりそうだ。
最後に藤澤先生は、「気持ちのつらさには、全ての医療従事者が行う対応と、より専門的な介入がある」と再度強調。すべての医療従事者が大事なプレーヤーとして対応しながら、エビデンスを踏まえたより専門的介入との協働が重要であるとし、講演を締めた。
ディスカッションでは、医療現場におけるリソース不足が課題として挙げられた。藤澤先生は、最初の気持ちのつらさの評価と初期対応をデジタルによって自動化するなど、システム導入に向けた工夫が今後の検討課題であり、これから成功事例を集めていきたい、と述べた。
また、うつや不安などの精神症状に対する治療を受けることへの患者の抵抗感も話題となった。ここに関して藤澤先生は、精神的な介入に関して、うつを治すための治療と考えるのではなく、体調をよくする手段やがん治療を前向きに進めていくための支えの一環として捉えてほしい、とコメントした。
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