患者提案型医師主導治験であるKISEKI trial(WJOG12819)、奏効割合29.1%を示す第63回日本肺癌学会学術集会より


  • [公開日]2022.12.03
  • [最終更新日]2022.12.08

12月1日から3日に、第63回日本肺癌学会学術集会(JLSC 2022)が、福岡国際会議場にて開催された。
その中で、国内初の患者提案型の治験として注目されていたKISEKI trialの結果が、武田真幸先生(奈良県立医科大学がんゲノム・腫瘍内科教授)によって発表された。

EGFR変異陽性NSCLCの初回治療においては、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)であるタグリッソ(一般名:オシメルチニブ)が第一選択薬であるにも関わらず、第1・2世代EGFR-TKI治療後では、T790M陽性例を除いてタグリッソの適応は無い。

そこでKISEKI trialでは、第1・2世代EGFR-TKI治療後、脳転移単独増悪(T790M変異陰性/不明)もしくは第1・2世代EGFR-TKI治療およびプラチナ治療後Systemic PD(T790M変異陰性)を示したEGFR変異陽性非小細胞肺がん患者に対するタグリッソの適用拡大を目的とした第Ⅱ相試験が実施された。

コホート1は現在症例登録中であり、今回の発表ではコホート2の結果が報告された。同コホートの対象は20歳以上で、EGFR-TKI感受性変異(G719X、エクソン19欠失、L858R、L861Qを含む)を初回EGFR-TKI治療前に確認、ECOG PSは0~2であり、第1・2世代EGFR-TKI治療およびプラチナ治療後にPDを確認、第1・2世代EGFR-TKIがPD後に採取した腫瘍から、感受性変異陽性かつT790M陰性を確認した患者であった。

同試験には治験実施施設として日本国内15施設が参加し、2020年8月から2021年2月までに予定症例である55例を集積した。主要評価項目である奏効割合は29.1%(95%信頼区間:17.6-42.9)を示し、設定された期待奏効割合である25%を達成。奏効の内訳は完全奏効(CR)=0(0.00%)、部分奏効(PR)=16(29.1%)、安定SD)=16(29.1%)、PD=18(32.7%)、評価不能(NE)=5(9.1%)であった。

副次的目的である病勢コントロール率は58.2%(95%信頼区間:44.1-71.3)、無増悪生存期間PFS)の中央値は4.07か月(95%信頼区間:2.10-4.30か月)、全生存期間の中央値は13.73か月(95%信頼区間:8.51-未到達)をそれぞれ示した。

一方の安全性は、既存の臨床試験で確認されている有害事象と変わらず、治療関連死亡(TRAE)も確認されなかったという。

今回の解析により、第1・2世代EGFR-TKI治療およびプラチナ治療後に進行したT790M陰性EGFR陽性NSCLCに対するオシメルチニブの有効性が示された。この結果について武田氏は、タグリッソが第1・2世代のEGFR-TKIよりも強いEGFRキナーゼ活性を持つことや、腫瘍の不均一性の問題により組織生検時にT790M陽性クローンが含まれていた可能性を考察した。また、現時点では、第1・2世代EGFR-TKI後に更にプラチナ製剤の治療歴が必須であること、オシメルチニブの適正を判断するためには組織生検が必要になることなどの制限があることにも言及した。

質疑応答の中では、前治療の化学療法からオシメルチニブ実施までの期間が長いため、EGFR-TKIに対する感受性が回復している可能性も指摘された。また、前治療のEGFR-TKIの効果が高い症例ほど次のオシメルチニブの効果も高いという報告があるため、今回の試験でも今後解析を検討するとのことであった。

本試験は、PMDAとの治験相談を済ませて始めた治験となるため、この成功は適応拡大・添付文書改定につながる可能性もあるとコメントがあった。

また武田真幸先生は、「承認薬の適用のない患者さんを対象にした試験であったため、まずは試験が無事終了できたこと、そしてポジティブな結果に終われたことを嬉しく思う。患者さんの声を聞き、ニーズのあるところに新しい治療を届ける努力は今後も続けていきたい」と語った。

またワンステップ代表の長谷川一男氏は、「とにかくまずは結果の発表まで漕ぎ着けて嬉しい気持ちが一番であり、サポートして下さった方々をはじめ多くの人に今回の発表を知ってほしい。実際にKISEKI試験に救われているという患者さんからのメッセージなどをいただき、意味のある試験だったのだと実感できている。今はまだ治験の段階だが、ここから保険適用の流れに乗り、実臨床に届けたいと感じる。そしてこの治験の成功が、肺がんの標準治療にまで影響し得る大きな意味を持つと感じており、今後も患者のニーズから生まれる治験が後に続いていくことを願いたい」と語った。

■参考
第63回日本肺癌学会学術集会

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