6月29日から7月1日に、第31回日本乳癌学会学術集会(JBCS 2023)が、パシフィコ横浜にて開催された。その中のシンポジウム8で「乳がん患者の就労支援2023~改めて考える、多職種の役割とは?」題し、高橋都先生(岩手医科大学 医学部)から発表があった。
冒頭に高橋先生は、乳がん患者さんの就労支援に関する医療機関以外での取り組みに言及。企業内の患者会や企業を超えた交流の活性化、疾患を持った社員との関わり方の研修導入など、病院の外でのコミュニティでどんなことができるのかという試行錯誤が始まっているという。
一方で、病院内では様々な事情や規模・個性があるために、活動には温度差があると高橋先生。そして、積極的に就労支援の取り組みが行われている病院では、他職種連携が持続的な活動として結実している印象だと話した。
がん種別の復職率を見ると、乳がんでは復職の立ち上がりは早いが、その後の継続が問題とのこと。高橋先生は、患者さんへのアドバイスで重要なことは、症状そのものではなく、症状が個々の患者さんの仕事にどう影響するかを聞き取ることだとした。
また産業医が考える職場での対応に役立つ主治医の行動は、主治医が患者さんに十分な説明をし、質問しやすい環境を作ること、というアンケート結果を示し、医師が本来の業務を超えて特別な就労支援をする必要はないことを強調した。
具体的には、治療スケジュールや副作用について分かりやすく説明し、その際に患者さんの就労の有無の確認と、決断を急がないよう相談窓口を紹介すること、そして何より質問しやすい雰囲気を作ること、それによって自然と就労の問題に対する患者さん自身の対応力が向上する、と高橋先生は説明した。
また高橋先生は、最近ではがん相談支援センターなどに社会保険労務士やハローワークなど多様な職種が絡んでくるようになり、就労継続支援や新規職探しなどそれぞれの役割を持っているため、まずは自分の施設にそれらの職種が入っているかを把握することが重要だという。まだまだ認知度は低いものの、厚生労働省からは「ハローワークとの連携による就職支援導入マニュアル」が出ていることも紹介した。
最後に、国内で活用できるリソースとして下記のものが紹介され、これを活用することが重要だと高橋先生。
-
CSRプロジェクト(Cancer Survivors Recruiting:がん患者の就労を考えるプロジェクト)
-
がんと仕事のQ&A
-
就職活動応援ガイド(初めて就職活動を行う小児期・AYA 期発症がん経験者向けガイド)
診断直後の“びっくり離職”だけでなく、復職後の“やっぱりだめだ離職”を予防するのも医療者であるとのこと。そして医療者自身が患者の就労を応援するものであると語った。
質疑では「分かりやすい説明」の具体的な内容が質問に上がり、治療のスケジュール、どんな副作用がどのタイミングで起きるかということが分かれば患者さん自身で仕事の計画を立てやすいと高橋先生は回答。また初回治療時には日記を書いている施設もあるとのこと、患者さん自身で治療中の体の状態で気がつくチャンスを作り、それが職場での対応につながる、と高橋先生も同取り組みを評価した。
■参考
第31回日本乳癌学会学術集会