6月29日から7月1日に、第31回日本乳癌学会学術集会(JBCS 2023)が、パシフィコ横浜にて開催された。その中のシンポジウム8で「乳がんサバイバーにおける就労中の不健康状態(プレゼンティズム)に影響を及ぼす因子の検討」と題し、金森博愛先生(乳腺ケア泉州クリニック 乳腺科)から発表があった。
冒頭に金森先生は、乳がん患者さんは他がん種と比較すると若年であり、術後80%が復職する一方で、継続が困難であることから、復職から5年間でサバイバーの40%が転職・離職している現状を指摘。そして、その原因としては、医学的因子よりも就労中の心や体の不調(プレゼンティズム)が、長期就労の妨げとなっていることが報告されているという。しかしながら、その詳細な症状などはわかっていない現状があるため、就労支援を再考するために、プレゼンティズムに影響する因子の検討が行われた。
解析対象は、腺ケア泉州クリニックの患者さんの中で、術後5年までの就労中のサバイバー(65歳以上、再発患者さんは除外)109名。下記の項目が評価された。
- プレゼンティズム(主要評価項目):労働生産性アウトカム(WPAI)の質問紙を使い、50%以上をプレゼンティズムありと判定
- 患者特性、医学的因子、職場関連因子、身体的因子
- 治療による副作用:術後慢性痛やCIPN(抗がん剤による末梢神経障害)、ホルモン誘発性疼痛、上司リンパ浮腫の有病率
- 不安や抑うつなどの心理的因子
- ヘルスリテラシー
- 乳がん以外の既往歴
金森先生によると、プレゼンティズムありと判定された症例は、有意にQOL(生活の質)が低下していること、化学療法治療期間が長いこと、デスクワークの割合が少ないことなどが判明。また症状としては、術後痛やホルモン誘発性疼痛、四肢の機能障害や倦怠感、抑うつ症状が高いという結果であった。さらに詳細な解析によって、化学療法治療歴や抑うつ症状よりも、上肢機能障害や倦怠感などがプレゼンティズムに大きく影響していることが明らかとなった、と金森先生。その原因として、術後慢性痛、CIPN、ホルモン誘発性疼痛、職業性ストレスを挙げた。
以上の結果を受けて、金森先生の施設では、診察前の看護師によるプレゼンティズムの問診を実施。そして特定された症状が、がん治療の副作用によるものなのか、その他の要因によるものなのかを調べ、医師などと協働で介入していると言う。金森先生は、患者さんの就労支援には、心理的サポートだけでなく、看護師・医師・理学療法士など多職種によるケアが重要だとした。
がんサバイバーの仕事のハードルを下げるために職場環境を調整することには限界がある、と金森先生は言う。乳がん診療に携わる多くの医療従事者が積極的に介入し、個々のサバイバー自身を支える体制の構築が必要だと語り、講演を締めくくった。
■参考
第31回日本乳癌学会学術集会