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患者が主役の治療選択を目指して:簡便な意思決定ガイドツール開発への取り組み ~日本放射線腫瘍学会第37回学術大会より~
[公開日] 2024.12.03[最終更新日] 2024.12.03
11月21日~23日、日本放射線腫瘍学会第37回学術大会がパシフィコ横浜で行われた。学会3日目、「ワークショップ6:SDMの推進」のセッションにて、武田篤也先生( 慶應義塾大学医学部 放射線科 教授) が「スマホで行える『早期非小細胞肺癌患者に対する治療選択支援ツール』」というタイトルの講演を行った。
早期肺がんの標準治療においては、手術による腫瘍の切除が世界的な標準療法となっており、近年、手術は低侵襲化の方向に開発が進んでいる。一方の体幹部定位放射線療法(SBRT)は、切除不能な場合の治療法として広く認識されている。しかし欧米におけるリアルワールドではSBRTを選択する患者が意外と多い。
日本においては、早期肺がんに対するSBRTの実施は10%にとどまっており、その多くは診療ガイドラインどおりの手術不適応症例である。この理由として武田先生は、「根治するには切除が必要」、「放射線療法は緩和的治療」、「放射線による副作用がこわい」といった放射線療法に対するネガティブなイメージがあること、また「主治医の提案に逆らえない」などの日本人特有の気質が影響していることを挙げた。「日本人の保守的気質を念頭においたシェアード・ディシジョンメイキング(SDM)が必要です」(武田先生)。
そしてもうひとつ、日本における放射線療法の実施が低い理由として、ヘルスリテラシーの低さの関与を武田先生は指摘。日本人が、健康に関する情報を入手・理解・評価・活用することが苦手であること、ヘルスリテラシーの点数がEUやアジアの各国よりも低いことなど、過去の報告を根拠に挙げた。「ヘルスリテラシーが高いオランダでは、早期肺がん患者の半数以上が放射線療法(主にSBRT)を選択しており、これは手術を上回る数字です」(武田先生)。
医師と患者では見えている景色が違う、と武田先生は言う。がん診療という森全体を俯瞰している医師に対して、患者は森の中をさまよっているようなもの。そこで武田先生らは、患者の道案内をすることで治療状況を把握する手助けをし、SDMの実現に役立てたいという想いから、スマートフォン(スマホ)を使った意思決定ガイドを開発した。
一般に意思決定ガイドとは、「これから選ぼうとする治療方法や検査方法について、選択肢が紹介されており、それらのメリットとデメリットを中立の立場でわかりやすく解説していること、患者が選択肢の特徴、選んだ結果に対する自分自身の考え(価値観)を吟味するのを助けてくれること」を目的としている。今回、スマホで見られる簡便な意思決定ガイドを作成するにあたっては、高い質を担保するために、意思決定ガイドの国際基準であるIPDASi(version 4.0)の日本語版の項目を参考に質が評価された。
まず、高知大学の講義受講4年生108人と慶応放射線診断医24人のカンファレンスにて、今回作成した意思決定ガイドの効果について検証が行われた。その結果、SBRTを知っているのは、大学4年生では3人に1人にとどまること、大部分の回答者が「手術を受けてスッキリすること」や「リンパ節転移の有無を知ること」を望んでいること、一方で、手術に伴う入院や静養により、生活の不安や仕事への影響を懸念する回答も一定数認められた。また大部分の回答者が、「可能な治療法の中から選べる説明を希望」と回答し、SDMによる治療決定を望んでいることが示唆された。意思決定ガイドの質問への回答前後において、治療法の選択に対する考えの変化を調べた結果、「分からない」と答えた回答者の割合が減り、約3割がSBRTを選択する、と回答した。
現在は、作成した意思決定ガイドを使い、早期非小細胞肺がんにおける意思決定ガイドの有用性を検証する前向き試験を実施中である。
最後に武田先生は、SDM普及に向けた取り組みとして、ドイツの例を紹介。国の助成金を受け、病院の全臨床部門において、統合的なSDMプログラムの設計・実践・評価が行われた。具体的な取り組みとしては、医師とコメディカルのトレーニング、患者のモチベーションの向上、意思決定ガイドの開発などであった。その結果、参加した22科のうち18科でプログラムの完全実施に成功。またSDMプログラムが大手保険会社から償還され、国の標準治療とするよう積極的な勧告を受ける結果となった(BMJ Evidence-Based Medicine 2024;29:87-95)。
日本においては、「がん診療拠点病院等の整備に関する指針」の中で、「患者とともに考えながら方針を決定すること」、「標準治療として複数の診療科が関与する選択肢がある場合に、その知見のある診療科の受診ができる体制を確保すること」と記されているが、武田先生は、実際にこの体制が整っている施設は少ないのではないか、と話す。
このような日本において、実臨床で使いやすい意思決定ガイドツールを作ることで、患者が主役であることの気付きを促すこと、治療選択肢を提示すること、簡便に必要項目を学習・検討すること、主治医への質問の手がかりになることを目指したい、と武田先生は語り、講演を締めた。
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