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共同意思決定(SDM)の本来の意味とは?:患者中心の医療が目指すべき方向性を考える ~日本放射線腫瘍学会第37回学術大会より~
[公開日] 2024.12.02[最終更新日] 2024.12.02

11月21日~23日、日本放射線腫瘍学会第37回学術大会がパシフィコ横浜で行われた。学会1日目、今回の大会テーマにちなんだ「Patient-guided radiotherapy:至誠を尽くした放射線治療の真の質とは」という大会テーマセッションが開催された。その中で塩山善之先生(九州国際重粒子線がん治療センター センター長)は、「患者中心の医療を実現するためのEBMとNBM、そしてSDM」というタイトルで、真に求められる患者中心のがん医療とは何か、医療者に求められるものは何か?という疑問に関して、講演テーマであるEBM(Evidence-Based Medicine)、NBM(Narrative-Based Medicine)という観点から見解を発表した。
冒頭にEBMについて、単なる科学的根拠に基づく医療という意味だけではない、と塩山先生。本来のEBMは、「科学的エビデンス」「患者の希望・価値観」「医療者の経験・知識・技能」に加えて最近では「患者の臨床的状況(年例、性別、併存症)・環境(家族、生活、社会、医療制度など)」を加えた4つの要素を総合的に評価し、目の前の患者さんにとって最善の医療は何か、ということを患者さんとのコミュニケーションによって実現することである、と説明した。そして、このEBM実現に不可欠なアプローチとしてSDM(共同意思決定)がある。「“SDMのないEBMはエビデンスによる圧制・押しつけに転ずる(Hoffmann et al. JAMA 2914より)”、という言葉を私たち医療者は常に心に留めておく必要があります」と強調した。
また、SDMの概念の普及に伴い、インフォームド・コンセント(IC)の言葉の意味も変化している、と塩山先生。もともとは、医師からの一方的な推奨治療の説明に対して患者の“同意する”いうアクションによってICが成立すると考えられてきたが、今はSDMに則って、医療従事者と患者がエビデンスの限界と価値観の多様性を認め合い、双方向に対話を繰り返すことによって一緒に最善の治療を決定していくことこそがICであると考えられている。
SDMの重要性に関して、塩山先生は意思決定の4タイプを紹介。生命のリスクと医療における確実性の2軸によって分類された意思決定の4タイプのモデルにおいて、医療における確実性が低い部分(=最良の治療選択肢が一択ではなく複数ある場合など)かつ特に生命リスクが高い場合に、医療者と患者との対話による治療決定が重要とされており、がん治療の大部分が該当するとした。
EBMと並んでもうひとつの重要な概念として、NBM(=物語と対話に基づく医療)がある。NBMの概念は、科学的エビデンスが全てではなく、患者さん自身が人生の物語の主体として尊重され、病気をその物語の一部として捉えて治療決定をする考え方である。塩山先生は、EBMは科学的エビデンスに、一方のNBMは患者の希望や価値観に重点を置いているという違いはあるものの、相反するものではなく、いずれもSDMに不可欠なアプローチである、とした。「EBMもNBMも患者中心の医療のために重要な車の両輪であり、個々の患者さんによってそのバランスが異なりますが、両方の統合的な実践が大切です」と述べた。
現在の肺がん診療ガイドラインを例にとると、I-II期の手術困難または手術可能であるが希望しない早期の非小細胞肺がん患者さんに関しては、根治的放射線治療を行うよう推奨が明確に記載されているが、IIB-III期については、手術と根治的放射線治療のどちらを選択すべきか判断が難しい境界領域の患者さんも多く、明確な基準がないのが現状である。ここに関して塩山先生は、特に高齢者や合併症がある場合では判断が難しく、EBMとNBMのバランスをとりながら個々の患者さんに適した治療の模索が重要になってくる部分だ、と指摘した。
また塩山先生は、オリゴ転移を有するIV期肺がんに関して、局所治療の意義が定まっていなかった頃に自身が担当した症例を紹介。薬物療法(化学療法)が標準療法であった当時、セカンドオピニオン目的で塩山先生を受診。どうしても根治の可能性を探りたいという患者さんの希望を考慮し、化学療法後に重粒子線治療(→アジュバント化学療法)を実施した結果、治療後10年無再発を実現。仕事や日常生活だけでなく、患者さんの夢であった息子とのキャッチボールも可能になるまでに回復したという。「患者さんの人生のシナリオ作りの一部に関わることができたのではないかと感じ、医師としてとてもうれしい経験でした」と塩山先生。なお、現在のガイドラインでは、オリゴ転移に対する局所治療追加の意義が記載されている。
最後にSDMに関して塩山先生は、説明・情報共有、共感・相互理解、信頼・安心獲得を経て合意形成に至るプロセスであることを再度強調し、その実現のためには他職種・他科チームでの医療の実践、キャンサーボードによる議論、セカンドオピニオンが重要だとした。そして放射線治療が選択肢にある以上、放射線治療医の診察が重要である、というSDMにおける放射線治療の在り方にも言及した。
「臨床能力とはエビデンス能力とナラティブ能力のバランスの調和をとり、その両方を実践し、患者さんと真摯に向き合い誠意を持って医療提供をすることである」と塩山先生。これが本学術集会のテーマである“Patient-guided radiotherapy“につながるのではないかと語り、発表を締めた。
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