ESMO 2024:その他のがんがん種別にみたポイント


  • [公開日]2024.10.02
  • [最終更新日]2024.09.30

9月14日から17日まで、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)がスペイン・バルセロナで開催された。がん領域としてASCO(米国腫瘍学会)に続く最大規模の学術集会(学会)であるESMOでは、毎年多くの注目すべき研究結果が発表されている。今回は、「ESMO 2024 がん種別にみたポイント」シリーズと題し、肺がん、膀胱がんなどの目玉となったデータとそのディスカッションポイントをまとめてみた。

周術期肺がん

切除可能非小細胞肺がんにおける術後療法としてのイミフィンジ:CCTG BR.31試験【Abstract#LBA48】

完全切除後の非小細胞肺がんに対するイミフィンジ(一般名:デュルバルマブ)とプラセボの比較において、主要評価項目であるPD-L1≧25%での無病生存期間は、有意な差を示さなかった(ハザード比0.935, 95%信頼区間:0.706-1.247)。

日本における術後の免疫療法としては、IMpower010試験の結果をもとに、術後テセントリク(一般名:アテゾリズマブ)が既に承認されているが、一方で術前(+術後)療法としての免疫療法のデータも出てきており、既に承認されている治療法もある。日本の肺がん治療における周術期薬物療法は、長らく術後の化学療法が主流とされてきた背景もあるが、免疫療法の普及とともに治療方針がどうなっていくのか、今後の動きに着目したい。

進行期肺がん

キイトルーダにおける標準用量と低用量の比較【Abstract#1258MO】

IV期非小細胞肺がんに対するキイトルーダの用量に関して、標準療法群として6週間ごとに400 mg、3週間ごとに150 mgまたは200 mg 、低用量群として標準療法群として6週間ごとに300mg、3週間ごとに100mgが設定された。

1年全生存率は、標準用量群で56.6%(95%CI:48.3%−66.4%)、低用量群で53.4%(95%CI:45.1%−63.3%)、 OS中央値は、標準用量群で15.9か月 (95% CI: 11.8 – 23.2)、低用量群で13.1か月 (95% CI: 10.3 – 15.4) で有意差はなかった。

今回の有効性の差は、同研究の継続基準を満たしたことから、今後の更なる解析が期待される。
薬剤の適切な減量は、有害事象や経済毒性の回避の観点からも非常に重要であるため、同研究成果が適切に実臨床に反映されていってほしい。

腎細胞がん

治療歴のある腎細胞がんにおけるベルズチファンとアフィニトールの比較:LITESPARK-005試験の最終解析【Abstract#LBA74】

LITESPARK-005試験は、PD-1/PD-L1阻害剤やチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の治療歴を有する進行淡明細胞型腎細胞がんにおいて、HIF-2α阻害剤ベルズチファンとmTOR阻害剤アフィニトール(一般名:エベロリムス)を比較した第3相試験。既に主要評価項目の一つである無増悪生存期間(ハザード比0.75, 95%信頼区間:0.63-0.90)と、副次評価項目である全奏効率(21.9% vs 3.5%, p<0.00001)にて、ベルズチファンの優位性が認められており、日本でも既に承認申請中である。

今回の最終解析の結果、無増悪生存期間の改善傾向は維持されていたが(ハザード比0.75, 95%信頼区間:0.63-0.88)、もう一つの主要評価項目である全生存期間には、統計的有意差が認められないことが示された(ハザード比0.92, 95%信頼区間:0.77-1.10)。同試験に登録された半数以上の症例でなんらかの後治療を受けていたため、今後その詳細が明らかになることで、全生存期間の差についての考察も可能になるだろう。ただし、同試験はDual Primary Endpoints(二つの主要評価項目のうちいずれか一方が達成されれば良い)として評価項目を設定していたため、無増悪生存期間の有意な改善結果を受けて、ポジティブ試験と判断された。

既に免疫療法やTKIの治療歴があり、次の治療選択肢が少ない症例を対象としているため、ベルズチファンが新たな治療選択肢として期待できそうだ。

膀胱がん

筋層浸潤性膀胱がんにおける術前療法としての術前イミフィンジ+化学療法併用療法および術後イミフィンジ単剤療法:NIAGARA試験【Abstract#LBA5】

根治的膀胱摘除術前の術前イミフィンジ(一般名:デュルバルマブ)+化学療法および術後イミフィンジは、術前化学療法単剤と比較して、無イベント生存期間(ハザード比0.69, 95%信頼区間:0.56-0.86)および全生存期間(ハザード比0.75, 95%信頼区間:0.59-0.93)いずれも有意な改善を示した。また、術前イミフィンジ追加により手術の遅延や中止に影響は見られなかった。

同試験は、膀胱がんにおける周術期免疫療法として生存期間延長を示した初の試験であり、実臨床を変え得る試験として注目を集めた。ただし、術後の免疫療法を検討したCheckMate 274試験の結果や、現在進行中の周術期における免疫療法(KEYNOTE-866)や免疫療法と抗体薬物複合体パドセブ(一般名:エンホルツマブ ベドチン)との併用療法(KEYNOTE-905/EV-303、KEYNOTE-B15/EV-304、VOLGA)の結果を踏まえ、どのような症例に術前と術後の両方の免疫療法介入が必要か、あるいは不要なのか、今後の議論が必要になってくると思われる。

2回目の経尿道的膀胱腫瘍切除術後にT0を認めた高リスク膀胱がんにおける無治療経過観察とBCG膀胱内注入療法の比較:JCOG1019試験【Abstract#1963O】

JCOG1019試験は日本で実施された第3相試験であり、初回の経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)によりHigh grade T1(高異型度)と診断され、二回目のTURBTで組織学的に腫瘍を認めなかった(T0)膀胱がんを対象として、BCG膀胱内注入療法の必要性が検討された。

主要評価項目であるTis、Ta膀胱内再発例を除いた無再発生存期間において、無治療経過観察群のBCG膀胱内注入療法に対する非劣性が示され(ハザード比0.69, 90%信頼区間:0.44-1.08)、全生存期間についても有意な差は認められなかった。

同結果を持ってBCG膀胱内注入療法が不要と判断するには時期尚早ではあるかもしれないが、2回目のTURBT後に残存腫瘍のない高リスク膀胱がんにおいて、無治療経過観察がひとつの治療選択肢となることが支持される結果である。今後のより詳細な解析によって、バイオマーカーなどの判断基準の探索が進み、過不足ない治療選択が実現されることに期待したい。

子宮頸がん

高リスクの局所進行性子宮頸がんにおけるキイトルーダ+同時化学放射線療法:KEYNOTE-A18/ENGOT-cx11試験【Abstract#709O】

高リスクの局所進行性子宮頸がんに対して、現在の標準治療である同時化学放射線療法単独と、キイトルーダ上乗せとを比較した試験。既にキイトルーダ上乗せにより無増悪生存期間を改善することは報告されていたが、全生存期間についての結果は今回が初めて。2回目の中間解析において、両群ともに全生存期間の中央値には到達していなかったが、36か月生存率に有意な差が認められた(ハザード比0.67, 95%信頼区間:0.50-0.90)。

ただし、同治療法においてはキイトルーダを2年継続する必要があるため、毒性や経済的な負担などのリスクと有効性によるメリットのバランスを考える必要がありそうだ。今後の長期追跡により、個々の症例におけるキイトルーダ上乗せの必要性を判断する基準が分かってくることに期待したい。

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