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ESMO 2024:乳がん

[公開日] 2024.09.25[最終更新日] 2024.09.25

9月14日から17日まで、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)がスペイン・バルセロナで開催された。がん領域としてASCO(米国腫瘍学会)に続く最大規模の学術集会(学会)であるESMOでは、毎年多くの注目すべき研究結果が発表されている。今回は、「ESMO 2024 がん種別にみたポイント」シリーズと題し、乳がんの目玉となったデータとそのディスカッションポイントをまとめてみた。

早期乳がん

早期トリプルネガティブ乳がんにおける術前キイトルーダ+化学療法および術後キイトルーダ単剤療法:KEYNOTE-522試験【Abstract#LBA4】

KEYNOTE-522試験は、既に病理学的奏効と無イベント生存期間の有意な改善が示されていたが、今回の最終解析において初めて全生存期間の有意な延長が認められた(ハザード比0.66, 95%信頼区間:0.50-0.87)。同治療法は日本において既に承認されており、有用性がより確かなものになったと言えそうだ。 しかし、5年無再発生存率はキイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)群で81.2%である一方、プラセボ群でも72.2%という良好な値であり、免疫療法が不要な症例もあると考えられる。長期にわたる免疫療法の介入は、有害事象や経済毒性につながる懸念もある。現在海外では、術前療法により病理学的完全奏効が得られた症例を対象に、術後キイトルーダ介入と経過観察を比較するOptimICE-pCR試験が進行中であり、今後のデータをもとに適切な患者選択をしていくことが重要になってくるだろう。

進行乳がん

脳転移を有するHER2陽性転移性乳がんにおけるエンハーツ:DESTINYBreast-12試験【Abstract#LBA18】

DESTINYBreast-12試験の脳転移コホート(n=263)には、前治療により病勢が安定している脳転移(n=157)および未治療または治療により増悪が認められた活動性の脳転移(n=106)が登録された。 全身における12か月無増悪生存率は61.6%、中枢神経系の12か月無増悪生存率は58.9%(安定脳転移:57.8%, 活動性:60.1%)であり、エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)の脳に対する効果が明らかとなった。 現在脳転移に対しては、手術や放射線治療などの局所療法が標準治療として優先的に実施される。しかし今回の結果を受けて、一部の脳転移症例においては、今後全身療法であるエンハーツのみでコントロールしていくことが可能になるかもしれない。

トリプルネガティブ進行乳がんにおけるトルカプ+パクリタキセル:CAPItello-290試験【Abstract#LBA19】

切除不能または転移性トリプルネガティブ乳がんの一次治療として、AKT阻害剤トルカプ(一般名:カピバセルチブ)+パクリタキセル併用療法を検討した試験。日本からも数多くの施設が参加していたが、主要評価項目である全生存期間は、全体集団(ハザード比0.92, 95%信頼区間:0.78-1.08)およびトルカプへの感受性が期待される遺伝子(PIK3CA/AKT1/PTEN)異常を有する集団(ハザード比0.92, 95%信頼区間:0.78-1.08)、いずれにおいても有意な差が認められなかった。 今回の第3相試験の結果は、以前に海外で実施された第2相PAKT試験のポジティブな結果を再現できなかったことになる。無増悪生存期間に関しては、トルカプ併用群で改善傾向が認められていたことから、後治療などがその後の予後に影響した可能性もありそうだ。 トルカプは、PIK3CA/AKT1/PTEN遺伝子変異陽性のホルモン受容体陽性HER2陰性進行乳がんにおける内分泌療法後の治療として、日本でも既に承認を得ているが、トリプルネガティブ乳がんにおける使用は現時点では難しそうだ。

エンハーツ投与時のオランザピンによる嘔吐予防:ERICA/WJOG14320B試験【Abstract#1816O】

HER2陽性・低発現の進行乳がんにおいてエンハーツ単剤療法を受ける際、5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンにオランザピンを上乗せことで、遅発期と延長期の吐気・嘔吐・食欲不振を予防できることが、日本で実施されたランダム化第2相試験にて明らかとなった。 エンハーツによる催吐性は頻度の高い副作用の一つであるにもかかわらず、最適な制吐剤の検討はなされておらず、持続的な症状に応じた制吐療法の確立が求められていた。 今回の結果を受けて、オランザピンベースの3剤併用療法が、実臨床における有望な制吐剤であると考えられ、今後用法や投与期間、更には乳がん以外の複数のがん種における検討が必要になると思われる。

HER2発現の評価方法の検討:DESTINY-BREAST06試験【Abstract#LBA21】

今年のASCOにて報告されたDESTINY-BREAST06試験において、化学療法未治療かつHER2低発現または超低発現(膜染色を認めるIHC 0及び0<IHC<1+)の症例に対するエンハーツの有効性が明らかとなった。 今回同試験におけるHER2発現の評価についての詳細を解析した結果、エンハーツの効果が期待できる症例の判断は、検体の種類(検体の保存期間、採取法、採取部位など)に関わらず可能であることが示された。 特筆すべき点は、中央(central)判定と各地域の病院毎(local)の判定の一致率が78%であり、特にlocal判定でHER2スコア0と評価された症例の64%においては、central判定にてHER2低発現(24%)あるいはHER2超低発現(40%)と報告された。 今後、エンハーツの恩恵を受けることができる症例を取り残さないためにも、HER2スコア0と判定された場合には再検査などを検討し、HER2発現検査に対する認識を高めていくことの必要性が提案された。
ニュース 乳がん ESMO

浅野理沙

東京大学薬学部→東京大学大学院薬学系研究科(修士)→京都大学大学院医学研究科(博士)→ポスドクを経て、製薬企業のメディカルに転職。2022年7月からオンコロに参加。医科学博士。オンコロジーをメインに、取材・コンテンツ作成を担当。

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