ベーリンガー社のがん領域における重大な発表が近づくEvaluate Vantage(2021.03.26)より


  • [公開日]2021.04.09
  • [最終更新日]2021.04.09

※本記事はEvaluate社の許可のもと、オンコロが翻訳したものです。内容および解釈については英語の原文を優先します。正確な内容については原文をお読みください。

 

同社はついにオンコロジー領域のキープレーヤーになるかもしれない。

独ベーリンガーインゲルハイム社は、何年もの間、オンコロジー領域における実力者になろうとしてきた。これまでのところその野望は達成されていないが、2021年には状況が変わり始めると期待している。

ベーリンガー社の大きな焦点は、Kras阻害薬のポートフォリオであり、同社イノベーションユニットのグローバルヘッドであるMichel Pairet氏は、次の米国癌学会(AACR)年次総会でその戦略を発表すると、Evaluate Vantageに語っている。しかし、ベーリンガー社は最近のスイスNBE-Therapeutics社買収を通じた抗体薬物複合体への投資をはじめ、T細胞誘導抗体、がんワクチンにも投資している。

Krasがやってくる

ベーリンガー社のKrasを標的としたプロジェクトの内、最も先行しているのは、第1相試験中のSOS1阻害薬「BI 1701963」だ。SOS1は、Krasを「オフ」の状態から「オン」の状態に変えるヘルパータンパク質であるため、これを阻害することで酵素そのものを阻害するよりも簡単にKrasを阻害できる可能性がある。

Pairet氏は、SOS1阻害薬は選択的Kras変異阻害薬とも相乗的に作用する可能性があると考えており、ベーリンガー社はBI1701963の併用療法の試験を実施する予定だ。まず、昨年締結した提携に基づき、米Mirati Therapeutics社のKras G12C選択的阻害薬「MRTX849」との併用、その後、自社の他のKras標的化合物との併用についても検討する予定だ。

AACR年次総会では、これらベーリンガー社の追加プロジェクトの詳細が明らかになると見込まれるが、これまでのところ、Pairet氏は次のように述べている。「私たちは、Krasサイクルの最も関連性の高いすべてのコンポーネントに対応するための幅広いポートフォリオを有している」

その1つ、前臨床段階のG12C阻害薬「BI 1823911」については、先日、今年のAACR年次総会のアブストラクトタイトルが発表されたことで明らかになった(AACR 2021 preview – the early themes emerge, March 22, 2021)。

ベーリンガー社は、G12D阻害薬の開発にも取り組んでいるが、これはより早期段階にあり、プロジェクトにはまだ開発コードもつけられていない。

Krasのプロジェクトを組み合わせるだけでなく、ベーリンガー社はSOS1阻害薬について、インドのLupin社からライセンス供与されたMek阻害薬「LNP3794」とともに試験を実施することも計画している。

実際にSOS1のプロジェクトでは、もう1つのMek阻害薬であるノバルティス社のメキニスト(一般名:トラメチニブ)との組み合わせで、Kras変異のある固形がんを対象とした第1相試験がすでに実施されており、今年中に初期データが得られる予定だ。

1つのベンチマークとして、先行しているKras阻害薬である米アムジェン社のソトラシブとMirati社のMRTX849は、非小細胞肺がんの全奏効率(ORR)でそれぞれ37%と45%を示している。これまでにKras阻害薬が有効だったのは大腸がんだけであり、他のがん種で兆候が表れれば、ベーリンガー社にとってはボーナスとなる。

ADCが再び流行

Kras以外にも、最近のNBE社の買収に見られるように、ベーリンガー社では抗体薬物複合体(ADC)に再び注力している(Ror1 delivers its second takeout in five weeks, December 10, 2020)。

この契約は最大で12億ユーロ(15億ドル)に相当する可能性があり、ベーリンガー社はNBE社のリードプロジェクトである抗Ror1抗体であるADC「NBE-002」を入手することができる。しかし、それと同様に重要なことは、ベーリンガー社が独自のADC技術を有することになるということだ。

ベーリンガー社は以前、ADCに対する優先度を下げ、T細胞誘導抗体に注力しており、DLL3xCD3バイスペシフィック抗体が第1相試験中だ。しかし、その裏ではADCの研究を続けていた。Pairet氏は「なぜなら、初期のADCよりもはるかに高い特異性をもつ次世代のADCを見逃したくなかったからだ」と語る。

NBE社に対する早期投資の後、ベーリンガー社はこの小規模企業の技術が「特異性に関してベストインクラス」になる可能性があるという結論に達したと、同氏は付け加えている。ただし、この賭けは前臨床データに基づくものであり、それを証明するにはまだ時間がかかる。

Pairet氏が強調するもう1つの分野はがんワクチンであり、2018年の腫瘍溶解性ウイルスを開発する企業であるオーストリアのViratherapeutics社、続いて2019年のAmal Therapeutics社と、ベーリンガー社はここ数年いくつかの買収を実行している。

Amal社が開発したATP128単剤及びベーリンガー社のPD-1阻害薬BI 754091との併用で実施されている第1/2相試験は今年中に終了する予定であり、ベーリンガー社の投資が賢明であったかどうかの手がかりはすぐに得られるかもしれない。

一方、Viratherapeutics社で生まれたプロジェクトは未だ臨床段階には至っていないが、今年中には実現するだろう。

しかし、もはやmRNAがんワクチンを開発する余地はない。ベーリンガー社は、2014年の独Curevac社との契約により、この経路を評価していたが、Pairet氏によると、現在は優先順位が下がっているとのことだ。

■出典
Boehringer’s big cancer reveal draws near

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