目次
- 1 周術期
1-1
1-2
1-3
- 2 進行期
2-1
2-2
2-3
2-4
6月2日から6日まで、米シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023) が開催された。がん領域として最大の学術集会(学会)であるASCOでは、毎年多くの注目すべき研究結果が発表されている。今回は、「ASCO 2023 がん種別にみたポイント」シリーズと題し、肺がんの目玉となったデータとそのディスカッションポイントをまとめてみた。
周術期
今、肺がんで最も開発が行われている周術期のデータの中から、まずは実臨床に直結する2つを紹介する。
術後のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんに対するオシメルチニブ(製品名:タグリッソ):ADAURA試験
【Abstract #LBA3】
ADAURA試験は、腫瘍を完全切除した早期(IB、IIおよびIIIA期*)上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性非小細胞肺がんを対象に、術後のオシメルチニブによる有意な無病生存期間(DFS)の延長効果が示された試験。日本でも2022年8月に、EGFR変異陽性肺がんの術後補助療法としてオシメルチニブの適応が拡大された。
今回は全生存期間(OS)のデータが初めて発表され、病期や術後補助化学療法の投与歴の有無に関わらず、オシメルチニブによるOSの有意な改善効果が認められた。術後補助療法としてのEGFR-TKIがOS延長効果を示した初のデータであり、ASCOで最も注目すべき演題が集まるセッションの一演題に選ばれている。
一方で、対象群はオシメルチニブを用いた後治療への移行率が低く(43%)、再発後の適切なタイミングでオシメルチニブに切り替えれば、対象群のOSの成績がもっと良くなる(=試験群とのOSの差が小さくなる)可能性もある。
術後再発前の全例にオシメルチニブを使うべきなのか、薬価の負担や安全性など含めたリスクの面も含めて慎重に考えていくことも大切になってくるだろう。
*日本ではIB期は承認対象外
術前の非小細胞肺がんに対するニボルマブ(製品名:オプジーボ)+化学療法:CheckMate-816試験
【Abstract #8521】
Checkmate-816試験は、切除可能な非小細胞肺がんを対象に、術前のニボルマブ+化学療法による有意な無イベント生存期間(EFS)および病理学的完全奏効(pCR)の改善が示された試験。日本でも2023年3月に、術前補助療法としてのニボルマブ+化学療法が承認されている。
今回は探索的解析として、術後治療後の手術実施の有無による成績の違いが報告された。
術前治療後の早期病態進行(PD)により手術ができなかった症例は、II期よりもIII期に多く、死亡または遠隔転移までの期間(TTDM)を数値的には改善する傾向が見れらたと結論付けてはいるものの、全体成績と比較すると予後不良であった。
術前療法の恩恵を受ける症例をどう選択するか、高リスク症例に対する最適な治療はなにか(術前治療、先行手術、全身療法など)、使える治療選択肢が増える中で、個々に合った治療を考えていくことが必要になるかもしれない。
続いて、現在開発が進んでいるものとして、術前と術後両方に免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を使う治療について紹介する。
術前・術後の非小細胞肺がんに対するペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)追加治療:KEYNOTE-671試験
【Abstract #LBA100】
KEYNOTE-671試験は、早期(II期、IIIA期、IIIB期(N2))非小細胞肺がんに対して、術前にペムブロリズマブ+化学療法、術後にペムブロリズマブ単剤を投与することによる効果を、術前の化学療法のと比較した試験。
今回の発表の中で、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)の有意な改善、およびOSの改善傾向が示された。
既に術前ICIおよび術後ICI治療がそれぞれ承認されている中で、術前と術後の両方に治療介入する選択肢の位置づけはどうなるのか。
発表者のWakelee氏は、「個々の患者が治癒を達成するために必要なものは何か、必要以上に患者さんに対して治療介入することなく、治癒を実現する方法は何かを解明できるようになりたい」と述べている。
進行期
リアルワールドにおける高齢の進行非小細胞肺がんに対するICI単剤とICI+化学療法併用の比較:NEJ057試験
【Abstract #9012】
NEJ057試験は、75歳以上の未治療進行非小細胞肺がんにおけるICI+化学療法の有効性と安全性を検討した多機関共同後ろ向き観察研究である。
傾向スコア・マッチング(バイアスを小さくするために用いられる手法)により背景因子のばらつきを調整した結果、PD-L1≧50%、1%≦PD-L1<50%いずれの症例に関しても、無増悪生存期間(PFS)・OSともに化学療法上乗せのメリットは見られていない。
現在、特にPD-L1高発現を除いては、ICIに化学療法を併用する治療が推奨されているが、今回対象となった75歳以上の症例に関しては、ICI単剤療法でより安全に十分な効果が期待できることが示唆された(これは米国食品医薬品局(FDA)の解析結果とも一致している)。
ICIにおいても様々な併用療法の開発が進む中、有害事象などのバランスを考え、実臨床におけるICI単剤の意義を再考する必要もありそうだ。
EGFR-TKI耐性後のペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)+化学療法:KEYNOTE-789試験
【Abstract #LBA9000】
KEYNOTE-789試験は、EGFR-TKI治療により病勢進行が見られた症例に対し、ペムブロリズマブと化学療法(白金系抗がん剤+ペメトレキセド)の併用療法を検討した試験であり、化学療法のみの治療と比較して統計学的に有意なOSの延長が認められないことが発表された。
EGFR-TKIに耐性となった腫瘍は非常に手ごわく、ICI単剤や化学療法との併用では、他の試験でもなかなか良好な成績が得られていないのが現状である。
その他にも、新しい併用療法や分子標的薬、抗体薬物複合体(ADC)などの治験が、腫瘍微小環境の解析と共に進んできているため、EGFR-TKI耐性後の治療選択に関しては、今後の開発に期待が持たれる。
進行非小細胞肺がんにおけるニボルマブ(製品名:オプジーボ)+イピリムマブ(製品名:ヤーボイ)+化学療法:CheckMate-9LA試験
【Abstract #LBA9023】
Checkmate-9LA試験は、進行非小細胞肺がんに対する1次治療として、抗PD-1抗体ニボルマブ+低用量抗CTLA-4抗体イピリムマブ+化学療法の短期間併用療法の効果を検証した試験。
今回の発表では、最短観察期間47.9カ月(観察期間中央値54.5カ月)の結果示され、観察期間4年以上経っても、化学療法と比較して高い全生存率を保っていることが明らかとなった。今回のデータを受けて、特にこのレジメンを使う対象として、特にはPD-L1陰性症例、扁平上皮がんを挙げている。
進行非小細胞肺がんにおけるニボルマブ+イピリムマブの6カ月投与と継続投与の比較:IFCT-1701 DICIPLE試験
【Abstract #9068】
DICIPLE試験は、進行または許容できない毒性が現れるまで、ニボルマブ+イピリムマブ最大6カ月後、病勢コントロールが得られた症例に関して、投与継続群と経過観察群の効果を比較した海外の試験。
実施国のICIレジメンの承認の遅れに伴って募集が途中で止まったことから、今回は参考値としてのデータではあるが、6カ月後に投与を中断した経過観察群において、無増悪生存期間(PFS)及びOSは継続群と同等かそれ以上の成績が示唆されている。
実臨床においても、有害事象とのバランスを考え、適切な投与継続期間を再検討するきっかけとなり得る興味深いデータであった。