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ASCO 2023-泌尿器がん-

[公開日] 2023.06.16[最終更新日] 2023.06.16

6月2日から6日まで、米シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)が開催された。がん領域として最大の学術集会(学会)であるASCOでは、毎年多くの注目すべき研究結果が発表されている。今回は、「ASCO 2023 がん種別にみたポイント」シリーズと題し、泌尿器がんの目玉となったデータとそのディスカッションポイントをまとめてみた。

尿路上皮がん

FGFR遺伝子変異陽性の進行尿路上皮がんに対するエルダフィチニブの有効性検討:THOR試験

Abstract#LBA4619 THOR試験は、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)遺伝子変異陽性の進行尿路上皮がんに対して、2次治療以降のFGFR阻害薬エルダフィチニブの有効性を、化学療法と比較した第3相試験。 進行尿路上皮がんに対するエルダフィチニブの効果を検証した初の第3相試験であり、化学療法と比較して、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)全て改善傾向が見られる結果であった。 一方で、今回対象となったFGFR変異症例は尿路上皮がんの10-20%ほどにとどまるため、対象症例拡大に向け、併用療法など更なる開発が求められる。また、治療歴を有する進行尿路上皮がんに既に効果が認められているサシツズマブ ゴビテカンやエンホルツマブベドチン(製品名:パドセブ)との使い分けについても今後検討課題となりそうだ。

筋層浸潤性膀胱がんの周術期治療の検討:GETUG/AFU V05 VESPER試験

Abstract#LBA4507 VESPER試験は、筋層浸潤性膀胱がんに対する周術期化学療法が確立されていないという背景に基づき、術前/術後におけるGC療法(ゲムシタビン+シスプラチン)またはdose-dense MVAC療法(dd-MVAC療法、メトトレキサート+ビンブラスチン+ドキソルビシン+シスプラチン)の有効性を検討した試験。既に術前dd-MVAC療法による3年のPFSに有意な改善が見られることは報告されていた。 今回は5年間の追跡後のOSのデータが報告され、術前のdd-MVAC療法が、長期の生存率を改善することが明らかとなった。 今回の結果は、実臨床での治療選択を変えるインパクトのある結果であると結論付けられている。また、周術期においてはICI治療など複数の試験が現在進行中とのこと。今後、更に有効な治療選択肢やその効果予測因子が明らかになることで、筋層浸潤性膀胱がんにおける周術期の治療が確立されていくことが期待される。

腎細胞がん

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)投与後の進行腎細胞がんに対するカボザンチニブ(製品名:カボメティクス)+アテゾリズマブ(製品名:テセントリク)併用の有効性検討:CONTACT-03試験

Abstract#LBA4500 CONTACT-03試験は、ICI治療後に進行が見られた腎がんにおいて、チロシンキナーゼ阻害剤であるカボザンチニブに抗PD‐L1抗体であるアテゾリズマブを追加することによる有効性・安全性を検討した多施設共同非盲検第3相試験。 アテゾリズマブを追加することによる有効性の改善は見られず、有害事象が増加する結果であった。 この結果を受け、ICIの再投与は現時点では推奨されないと結論付けられた一方で、今回使われたアテゾリズマブのような抗PD-L1抗体ではなく、抗PD-1抗体を使うことによる有効性の改善の可能性が言及された。 今回のASCOでは、腎細胞がんにおけるICI療法の長期追跡後のポジティブな結果が発表されており(CLEAR試験、KEYNOTE-426)、ICI治療が転移性腎細胞がんの1次治療として益々確立されている中で、ICI耐性後の治療戦略は今後も大きな課題であると思う。

前立腺がん

低腫瘍量転移性去勢感受性前立腺がんに対する前立腺照射の有効性検証:PEACE-1試験

Abstract#LBA5000 PEACE-1試験は、転移性去勢感受性前立腺がんに対し、標準治療(アンドロゲン除去療法(ADT)単独またはドセタキセル)、標準治療+前立腺照射(RT)、標準治療+アビラテロン(製品名:ザイティガ)、標準治療+RT+アビラテロンに1:1:1:1でランダムに割り付けられた試験であり、既にADT+ドセタキセル+アビラテロンの3剤併用によるOSとPFSの有意な延長が示されている。 今回は、低腫瘍量の集団におけるRTの影響の解析結果が発表され、RTによりPFSが改善するだけでなく、膀胱カテーテル、尿管ステント、経尿道的前立腺切除術を必要とするような原発性前立腺腫瘍による閉塞から生じる合併症を防ぐ可能性があることが示唆された。またRTの効果は、アビラテロンと併用することでより改善傾向が認められた。 今回の結果からは、RTによる生存期間の統計的有意な改善は見られなかったものの、腫瘍の進行と重篤な合併症予防につながったことについての評価は高く、低腫瘍量の転移性去勢感受性前立腺がんに対する標準治療が変わり得る注目の演題であった。

転移性去勢抵抗性前立腺がんに対するエンザルタミド(製品名:イクスタンジ)+タラゾパリブ併用療法の有効性・安全性検討:TALAPRO-2試験

Abstract#LBA4500 TALAPRO-2試験は、転移性去勢抵抗性前立腺がんの1次治療において、アンドロゲン受容体経路阻害剤であるエンザルタミドにPARP阻害剤であるタラゾパリブの追加することによる有効性を検証した試験。 今回相同組換え修復(HRR)遺伝子変異陽性症例に対する結果が報告され、タラゾパリブ追加によるPFSの有意な延長、およびOSの改善傾向が認められた。遺伝子変異別にみると、BRCA遺伝子変異を有する症例で最も高いタラゾパリブ追加の効果が見られた。 この結果を受けて、エンザルタミド+タラゾパリブはHRR遺伝子変異(特にBRCA変異)を有する転移性去勢抵抗性前立腺がんに対する1次治療として確立されると結論付けられたが、一方で去勢感受性前立腺がんや稀なHRR遺伝子変異を有する症例対しての効果の検証は、今後の課題となりそうだ。
ニュース 前立腺がん 泌尿器がん

浅野理沙

東京大学薬学部→東京大学大学院薬学系研究科(修士)→京都大学大学院医学研究科(博士)→ポスドクを経て、製薬企業のメディカルに転職。2022年7月からオンコロに参加。医科学博士。オンコロジーをメインに、取材・コンテンツ作成を担当。

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