ASCO 2023-消化器がん(肝胆膵含む)-がん種別にみたポイント


  • [公開日]2023.06.15
  • [最終更新日]2023.06.21

6月2日から6日まで、米シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)が開催された。がん領域として最大の学術集会(学会)であるASCOでは、毎年多くの注目すべき研究結果が発表されている。今回は、「ASCO 2023 がん種別にみたポイント」シリーズと題し、消化器がんの目玉となったデータとそのディスカッションポイントをまとめてみた。

大腸がん(直腸・結腸がん)

局所進行直腸がんに対する術前FOLFOX単独療法の可能性検証:PROSPECT試験

Abstract#LBA2

PROSPECT試験は、局所進行直腸がんにおける術前治療として、一般的な化学療法であるFOLFOX療法で効果が得られた場合には骨盤への放射線照射を行わずに手術に進み、効果が十分でない場合にのみ化学放射線療法を追加する試験。

今回の発表されたデータは、術前の標準治療とされてきた全例に対する化学放射線療法と同等の無増悪生存期間が期待できる結果であり、ASCOで最も注目される演題が集まるセッションの一つに選ばれている。

この試験には高リスク群が含まれていないこと、またFOLFOXで十分効果が得られずに放射線治療が必要な症例も一定数いることなど、いくつかの限界はあるものの、不必要な放射線照射を避けることで腸機能や妊孕性を温存できる安全な治療選択肢として重要になってくると思う。

発表者のDeb Schrag氏も、「患者さんには選択肢があり、非常に高い治癒率を達成するための方法は1つではない」と臨床的意義を語っている。

HER2陽性転移性大腸がんに対するトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd. 製品名:エンハーツ)の用量検討:DESTINY-CRC02試験

Abstract#3501

T-DXdは、既にDESTINY-CRC01試験(NCT03384940)において、6.4mg/kgを3週間ごとに投与するスケジュールで有効性が報告されているが、毒性が強いことが課題であった。

今回の報告では、より低用量の5.4mg/kgと6.4mg/kgの用量が比較され、低用量でも少なくとも同等の活性があり、毒性プロファイルが改善されることが示唆され、今後5.4mg/kgが対象集団におけるT-DXdの最適な用量であることを示すデータとして結論付けられた。

更に、RAS遺伝子変異陽性例にもある程度効果を示したこと、HER2を標的とした他の薬剤による治療歴の有無に関わらず効果が認められたことも注目される。

転移性大腸がんにおけるcfDNAによるNeoRASの追跡:SCRUM-Japan GOZILA試験

Abstract#3506

日本の大規模スクリーニングプラットフォーム(SCRUM-Japan GOZILA)の一環として、RAS変異陽性症例に対して初回治療後に次世代シーケンサーを用いたCell-free DNA(cfDNA)検査を実施し、NeoRAS(RAS変異型の転移性大腸がんが治療介入によりRAS野生型へ変化する現象)が見られる症例とRAS変異症例の特徴を評価している。

結果としては、KRASエクソン2変異以外のKRAS遺伝子変異、また肝転移・リンパ節転移が、NeoRASの発症に関連する因子として見いだされた。また、RAS変異型の大腸がんでは効果が乏しいEGFR阻害剤が、NeoRAS症例には有効である可能性も同時に示唆される結果となった。

今後、RAS変異型に対し、治療中のcfDNAの追跡や結果に基づく治療選択が重要になってくるかもしれない。

すい臓がん

進行・再発膵がんの初回治療におけるNALIRIFOX療法の優越性検証:NAPOLI-3試験

Abstract#4006

NAPOLI-3試験は、進行・再発膵がんの初回治療において、ナノリポソーム型イリノテカン(製品名:オニバイド)+5FU/ロイコボリン(LV)+オキサリプラチン併用(NALIRIFOX)療法とゲムシタビン+パクリタキセル(Gem/nabPTX)療法を比較した第3相試験。

既に今年1月のASCO-GI 2023において、NALIRIFOX療法による全生存期間と無増悪生存期間の有意な延長が発表されており、 今回はより長期追跡期間でのNALIRIFOX療法の優越性が示されている。しかしながら、FOLFIRINOX(イリノテカン+5FU/ロイコボリン(LV)+オキサリプラチン)療法との比較データがないこと、ナノリポソーム型イリノテカンが高価であることなど課題も残る。

日本においては、JCOG1611試験の中でFOLFIRINOX療法とGem/nabPTX療法の比較が行われている段階である。今後さらに日本でのエビデンスが作られ、それぞれの治療の有効性や毒性プロファイル、薬価など総合的に判断し、それぞれの患者さんに適した選択ができるようになることが期待される。

胆道がん

HER2陽性進行・再発胆道がんに対するtucatinib+トラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)併用療法の有効性検証:SGNTUC-019試験

Abstract#4007

SGNTUC-019試験は、国際共同第2相バスケット試験であり、今回は治療歴のあるHER2陽性進行・再発胆道がんに対するトラスツズマブ+HER2選択的チロシンキナーゼ阻害薬tucatinib(ツカチニブ)の併用の有効性・安全性のデータが発表された。

良好な有効性が認められただけでなく、トラスツヅマブデルクステカン(製品名:エンハーツ)で懸念されていた肺臓炎のような致死的な有害事象も見られなかったことから、実臨床への導入に向けて期待の持てるデータであったと解釈できる。今回対象となった治療歴のある症例に対し、化学療法以外の治療選択肢が増える可能性を示したことでも意義があると言える。

ディスカッションの中では、二重特異的抗体やCAR-T療法など、HER2陽性の胆道がんに対するさまざまな開発が進んでいることが紹介されており、いち早い臨床応用が期待される。

胃がん

切除可能な胃がんに対する術後療法におけるニボルマブ(製品名:オプジーボ)の上乗せ効果検証:ATTRACTION-5試験

Abstract#4000

ATTRACTION-5試験は、術後の予後が悪い病理学的分類III期を対象として術後化学療法へのニボルマブの上乗せ効果を検証したランダム化第3相試験であり、日本、 韓国、 台湾、 中国のアジアで実施された。

進行期胃がんに対する効果は既に認められている免疫療法であるが、今回の術後療法においては、プラセボと比較して無再発生存期間の改善は認められない結果となった。

ただし、術前から免疫療法を加える試験に関しては、いくつか効果が認められており(DANTE試験、MATTERHORN試験など)、現在も周術期における免疫療法の複数の試験が進行中であるため、それらの結果を見ながら、胃がんにおける術前・術後の免疫療法の位置づけや最適な治療薬が選択されていくことになるだろう。

肝細胞がん

肝細胞がんに対する術後のアテゾリズマブ(製品名:テセントリク)+ベバシズマブ(製品名:アバスチン)療法の有効性検証:IMbrave050試験

Abstract#4002

IMbrave050試験は、早期肝細胞がんに対する術後のアテゾリズマブベバシズマブ併用療法を、従来の標準治療である経過観察と比較した試験。

術後療法を実施することにより、無再発生存率を有意に改善することが今年の米国がん学会(AACR)で発表されており、今回のASCOではさらに患者報告アウトカム(PRO)のデータが報告された。その結果、GHS/QoL、身体機能、役割機能、感情機能、社会機能のいずれにおいても、術後治療介入による有意な悪化は見られなかった。

IMbrave050試験は、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法が、これまで治療法のなかった再発高リスク群に対する術後療法とし実臨床に導入される可能性を示すデータであるが、一方で、生存期間の延長の有無、有害事象や経済毒性とのバランスなど、今後さらに長期的に結果を追跡していくことが重要だと思われる。

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