6月2日から6日まで、米シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)が開催された。がん領域として最大の学術集会(学会)であるASCOでは、毎年多くの注目すべき研究結果が発表されている。今回は、「ASCO 2023 がん種別にみたポイント」シリーズと題し、乳がんの目玉となったデータとそのディスカッションポイントをまとめてみた。
進行乳がん
HR陽性HER2陰性進行乳がんにおいて、1次治療または2次治療としてのCDK4/6阻害薬の使用を比較:SONIA試験
【Abstract#LBA1000】
SONIA試験は、CDK4/6阻害薬を1次治療で使う場合と2次治療で使う場合を比較し、2次治療後の増悪・死亡までの期間や全生存期間(OS)に有意な差がないこと、更には1次治療から長く使うことで、毒性やコストコスト増加の懸念が高まることを示した試験。
試験開始時から現在までに、新規のCDK4/6阻害薬や併用療法など新しい療選択肢が増えてきているため、今回の結果が今の実臨床を変えるほどのインパクトはなさそうである。しかしながら、治療決定の際の患者さんへの情報提供において、薬剤の毒性やコストを最小限に抑えた治療の最適なタイミングなどを考え直すきっかけとなる重要な報告として注目を集めた演題であった。
HR陽性HER2陰性の進行乳がんにおいて、パルボシクリブ(製品名:イブランス)治療による増悪後の継続投与の見当:PALMIRA試験
【Abstract#1001】
PALMIRA試験は、CDK4/6阻害剤であるパルボシクリブによる1次治療後に進行が見られたHR陽性HER2陰性の進行乳がんにおいて、更に2次治療の内分泌療法と併せてパルボシクリブを継続投与することの意義を検証した試験。今回の発表により、パルボシクリブの継続投与は、内分泌療法単独療法に比べて無増悪生存期間(PFS)を改善しないことが明らかとなった。
一方、昨年のASCOで発表されたMAINTAIN試験の中では、大部分がパルボシクリブから別のCDK4/6阻害剤であるリボシクリブに切り替えることで有効性が示されている。
CDK4/6阻害剤の継続投与に関しては慎重な判断が必要であり、CDK4/6阻害剤耐性後の最適な治療の判断には、現在進行中の他の試験やバイオマーカー解析の結果が待たれる。
HR陽性HER2陰性進行乳がんに対するパルボシクリブとタモキシフェン併用療法の有効性検討:PATHWAY試験
【Abstract#LBA1068*】
国立がん研究センター中央病院の主導によりアジアで実施された第3相試験であり、HR陽性HER2陰性の閉経前および閉経後の進行乳がんを対象として、パルボシクリブとタモキシフェンの併用療法とタモキシフェン単独療法を比較した試験。
併用療法によって主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)が改善されただけでなく、全生存期間(OS)の延長も見られたことから、新しい治療選択肢として有望視される結果となった。
薬物療法非抵抗性IV期乳がんに対する原発巣切除の意義に関するランダム化比較試験:JCOG1017試験
【Abstract#523*】
JCOG1017試験は、薬物療法抵抗性ではないIV期乳がんを対象として、標準治療である薬物療法単独に対して原発巣切除の全生存期間(OS)における優越性を検証したランダム化比較試験。
結果としては、全体のOSに有意な差は認められない結果となったが、原発巣を切除することによって局所の制御が良好であったこと、また閉経前や転移個数が少ない症例など一部に対してはOS改善傾向も見られている。
今回の結果からは、原発巣切除は全てのIV期乳がんに推奨されるべきものではないが、どのような症例にメリットがあるのか、サブ解析の結果をもとに更なる解析の余地がありそうだ。
*日本からの2演題。いずれも「Best of ASCO(R)2023 in Japan」のプログラムとして、⽇本臨床腫瘍学会のBest of ASCO部会により選定されている。
早期乳がん
再発高リスクHR陽性HER2陰性乳がんに対する術後のリボシクリブ:NATALEE試験
【Abstract#LBA500】
NATALEE試験は、再発リスクの高いII/III期のHR陽性HER2陰性早期乳がんを対象に、術後内分泌療法へのCDK4/6阻害薬リボシクリブ上乗せの効果を検証したもの。
既にmonarchE試験により、リンパ節転移陽性の高リスク早期乳がんにおける術後内分泌療法へのCDK4/6阻害薬アベマシクリブ(製品名:ベージニオ)の追加の有効性が示されており、今回はリンパ節転移陰性症例を含んだより幅広い対象に対して効果が示されている。
日本ではリボシクリブ自体は使えないが、monarchE試験に引き続き、術後内分泌療法へのCDK4/6阻害薬が有効であることを示す頑健なエビデンスが出てきたと言える。
今回は、登録症例の大多数が術前化学療法の治療歴を持っているため、術後の化学療法は依然として必要であり、ADAPTcycle試験で現在検証中である。
HER2陽性乳がんにおけるPET検査を使った化学療法を使わない治療戦略の検討:PHERGain試験
【Abstract#LBA506】
ドセタキセル+カルボプラチン+トラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)+ペルツズマブ(製品名:パージェタ)併用療法に対して、トラスツズマブ+ペルツズマブ治療後にPET評価と術後の病理学的評価をし、奏効が得られなくなるまで化学療法を追加せずに治療。特に、PETで奏効が確認でき、かつ手術で病理学的完全奏効が得られた症例は、3年無浸潤疾患生存(iDFS)率が98.8%であった。
これまで化学療法がSOC(標準治療)と考えられてきた症例において、PET検査や術後の病理学的評価により予後が予測でき、化学療法による有害事象や経済毒性などを回避できる可能性が出てきたことは、非常に意義のある報告と考えられる。