2026年9月24日、医学誌「Nature Medicine」にて、抗HER2療法等の前治療歴を有するHER2過剰発現の進行・再発胃がんおよび食道胃接合部腺がん(IV期相当)患者127例を対象に、CD47-SIRPαシグナル阻害薬エボルパセプト+ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)+サイラムザ(一般名:ラムシルマブ)+パクリタキセル(evo+TRP群)の有効性と安全性を検証した
国際多施設共同無作為化第2相臨床試験(ASPEN-06試験)の成績が報告された。
試験デザイン
対象
前治療歴のあるHER2過剰発現の進行・再発胃がんまたは食道胃接合部腺がん
レジメン(治療法)
試験群:エボルパセプト+ハーセプチン+サイラムザ+パクリタキセル(n=63)
対照群:ハーセプチン+サイラムザ+パクリタキセル(n=64)
評価項目
主要評価項目:治験医師判定による客観的奏効率(ORR)
副次評価項目:独立中央判定(BICR)によるORR、奏効期間(DoR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性
結果
有効性
主解析の全体集団において、試験群の奏効率は40.3%に対して対照群では26.6%、また前治療後に新規に生検でHER2陽性が確認された集団では、試験群の奏効率は54.8%に対して対照群で23.1%であり、試験群で高い抗腫瘍効果を示した。ただし、従来の標準治療に基づく事前規定された改善率(30%)を統計的に上回る結果は得られなかった。
無増悪生存期間(PFS)中央値は、全体集団で7.5ヵ月に対して対照群で7.4ヵ月、新規生検HER2陽性集団で9.0ヵ月に対して7.4ヵ月であった。また奏効期間(DoR)中央値は、全体集団および新規生検HER2陽性集団のいずれにおいても、試験群で15.7ヵ月に対して対照群で7.6ヵ月であり、奏効の持続期間が延長する傾向が認められた。全生存期間(OS)は解析時点で未成熟であり両群間に明らかな差は認められていない。
長期追跡後において、新規生検またはctDNAでHER2遺伝子増幅を認める「HER2保持症例」において、試験群のORRは48.9%に対し対照群では25.0%、DoRの中央値は15.7ヵ月に対して9.1ヵ月、PFSのハザード比は0.72であった。
HER2保持症例のうち、がん細胞膜上にCD47強陽性(IHC 3+)細胞が5%以上認められる「CD47高発現症例」において、試験群のORRは63.6%に対して対照群では23.1%、DoRの中央値は25.5ヵ月に対して8.4ヵ月、PFSの中央値は19.5ヵ月に対して7.0ヵ月に達し、PFSのハザード比は0.38と、試験群で高い効果が認められた。
一方で、CD47低発現群ではORRは36.4%に対して30.0%、PFSのハザード比は1.48であり、試験群の有効性は示されなかった。また、HER2保持が確認されなかった症例においても、CD47発現にかかわらず有効性は認められなかった。
安全性
試験群では好中球減少や貧血などの血液毒性、下痢がやや多く認められたものの、発熱性好中球減少の頻度は低く、重篤な新規安全性シグナルは認められなかった。また、有害事象によるエボルパセプトの中止は7.9%であり、全体として安全性プロファイルは管理可能で、既知の各薬剤の安全性とおおむね一致していた。
結論
本研究により、HER2陽性進行胃・食道接合部腺がんに対するCD47阻害療法の有効性を示すとともに、今後の患者選択におけるHER2保持およびCD47発現のバイオマーカーとしての評価の重要性を示唆する可能性が示された。
標準治療の変化に伴い、第3相試験の実施は見送られたが、CD47阻害剤の治療戦略が支持される今回の結果をもとに、HER2以外の腫瘍抗原を標的とする抗体製剤との併用など、今後様々ながん種や治療開発への応用が期待される。
参照元:
Evorpacept plus trastuzumab, ramucirumab and paclitaxel in HER2-positive gastric cancer: a randomized phase 2 trial(Nat Med 2026 doi: 10.1038/s41591-026-04700-3)
国立がん研究センター 研究トピックス