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多発性骨髄腫治療における4剤併用療法の現在地と「サークリサ皮下注」がもたらす臨床的意義 サノフィがメディアセミナーを開催

[公開日] 2026.09.04[最終更新日] 2026.09.04

サノフィ株式会社は8月28日、多発性骨髄腫治療に関するメディアセミナーを開催。日本赤十字社医療センター 骨髄腫アミロイドーシスセンター顧問の鈴木憲史先生と、湘南鎌倉総合病院 血液内科部長の佐藤淑先生が登壇し、4剤併用療法が多発性骨髄腫の標準治療(スタンダード・オブ・ケア)となる中、新たに登場した「サークリサ皮下注射製剤」の臨床的意義や、患者と医療従事者双方にもたらすメリット、さらに共同意思決定(SDM)の重要性について解説した。

「ファンクショナルキュア(機能的治癒)」を目指す多発性骨髄腫の治療

鈴木憲史 先生
日本赤十字社医療センター 鈴木憲史 先生(提供写真)
多発性骨髄腫は、血液細胞のひとつである形質細胞ががん化して骨髄腫細胞となり、骨髄内で異常増殖する血液がんの一種である。正常な免疫グロブリンの産生が低下するだけでなく、機能を持たない異常な「M蛋白」を大量に分泌することで、貧血、腎障害、骨病変(骨のもろさや痛み)、高カルシウム血症などの多彩な症状(CRAB症状)を引き起こす。 現在、多発性骨髄腫の治療で重要視されているのが、がん細胞を精密検査でも検出できないレベルに抑え込む「MRD(微小残存病変)陰性」の達成と維持である。鈴木先生によると、初期治療でMRD陰性を達成し、2年間維持できれば、休薬しても約7割の患者がその後5年以上再発せずに過ごせたという研究結果もあるという(K.Sato et al. EJHaem. 2026 Apr 6;7(2):e70281.)。 一方、がんが完全に体内からなくなった状態である「完治」を証明することは、容易ではない。そのため、鈴木先生は「ファンクショナルキュア(機能的治癒)」を目指すことが重要であると語る。機能的治癒とは、疾患をコントロールして再発を長期にわたり防ぎ、仕事や趣味、育児など、同年代の健康な人と変わらない日常生活を送れる状態を指す。 「治療のゴールは延命ではありません。ただ生きればよいというものではなく、患者さんが通常の生活を送れる『キュア』を目指す。それが『ファンクショナルキュア』です」(鈴木先生)

初発治療のスタンダード・オブ・ケア:4剤併用療法

かつて多発性骨髄腫の薬物療法は、プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、ステロイドの3剤を組み合わせた治療法(VRd療法など)が主流であった。しかし、近年の医学の進歩に伴い、これらの3剤に「抗CD38モノクローナル抗体薬」を上乗せした4剤併用療法(Isa-VRd療法など)が、造血幹細胞移植の適応・非適応を問わず、一次治療における新たな標準(スタンダード・オブ・ケア)として確立されている。 この4剤併用療法の主要なキードラッグのひとつが、がん細胞の表面に高発現しているCD38にピンポイントで結合し、直接的な細胞死誘導作用と間接的な免疫介在作用(ADCC活性など)の双方によって骨髄腫細胞を破壊する「サークリサ(一般名:イサツキシマブ)」である。 サークリサは、2020年の国内初承認以来、点滴静注製剤(IV)として多くの患者の治療に用いられてきた。そして2026年6月19日、新たに「皮下注射製剤」の製造販売承認を取得。同年8月27日に「サークリサ皮下注1400mg」が発売された。

皮下注射製剤がもたらす臨床的メリット

皮下注射製剤の登場により、臨床現場にもたらされる最大の進歩のひとつが「投与時間の大幅な短縮」である。 従来のサークリサ点滴静注製剤では、1回目の点滴に約200分(3時間20分)、3回目以降の維持期においても毎回約75分の点滴時間を要する(10mg/kgの場合)。[YK1.1]これに対し、新発売された皮下注射製剤では、投与経路を皮下への注射に変更することで、約6分での投与が可能となった。 さらに、皮下注射化は安全性、特に「インフュージョン・リアクション(投与関連反応:IR)」の発生率低下にも寄与する。抗体医薬品を点滴投与する際、薬剤が急激に血管内へ入ることで発熱、悪寒、発疹、呼吸困難などのアレルギー様症状(IR)が発現しやすく、特に1回目の投与時に注意が必要となる。 一方、皮下注射では薬剤が皮下組織から緩徐に体内に吸収されるため、IRの発生リスクが大幅に低減される。国際共同第3相試験(IRAKLIA試験)の結果によると、点滴投与群でのIR発生率が25.0%であったのに対し、皮下投与群では1.5%と、極めて低い水準に抑えられていることが実証された。

患者・医療従事者双方が得られる付加価値

皮下注の導入は、治療を受ける患者側と、治療を提供する医療者側の双方に付加価値をもたらす。 患者や家族は、外来での滞在時間が短縮されることで、就労を継続している患者や、家事・育児などを担う患者が、治療と日常生活をより円滑に両立させることが期待される。また、高齢の患者における通院時の付き添いや送迎を行う家族の身体的・時間的な負担の軽減にもつながる。 医療従事者は、外来化学療法室におけるベッドやチェアの占有時間が短縮されることで、化学療法室のベッド回転率が向上し、より多くの患者を受け入れることが可能となる。また、固定用量製剤であるため、薬剤部における無菌調製(ミキシング)の手間や調製ミス等のリスクも低減される。

「点滴」か「皮下注」か、共同意思決定(SDM)の重要性

佐藤淑先生
湘南鎌倉総合病院 佐藤淑 先生(提供写真)
皮下注射製剤には多くのメリットが存在する一方で、佐藤先生は「すべての患者さんを皮下注射に移行すればよいというわけではない」と指摘。その上で、従来の点滴と新規の皮下注射の外来導線の比較を示し、双方に異なる性質の強みがあると語る。 点滴では、病院での滞在時間は長くなるものの、点滴中に看護師や医師とコミュニケーションを図る時間が確保される。これにより、副作用の微細な変化や日常生活における不安、心理的な悩みなどを医療者に相談しやすい“ケア密度の高い外来”が期待できる。 一方、皮下注射では、先述の通り通院から帰宅までの滞在時間を最小限に抑えることができる。これにより仕事や社会生活との両立を最優先できる“タイパ(タイムパフォーマンス)重視のスマート外来”としての役割が期待される。 佐藤先生は、治療方針を決定するプロセスにおいて、医療者と患者が治療のメリット・デメリットを共有し、患者自身の価値観やライフスタイルに寄り添った選択を行う「Shared Decision Making(SDM:共同意思決定)」の重要性について強調。「いろいろな患者さんがいるなかで、皆さんの気持ちに寄り添いながら、1番よい薬の組み合わせで、深い奏効、よい生活を、という目標で治療を行うべき」と語った。 関連リンク: サノフィ株式会社 ウェブサイト
ニュース 多発性骨髄腫 SDM

茂木 孝裕

オンコロサイト・コンテンツ編集者。法政大学社会学部メディア社会学科卒業後、広告代理店、スポーツ新聞社などを経たのち、医療情報サイトで編集・ライター業務に約6年従事。2019年よりクリニカルトライアル(現3Hメディソリューション)/オンコロに参加。オンコロジー領域以外の医療情報も幅広く取材。

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