アストラゼネカ株式会社は8月4日、免疫チェックポイント阻害薬イミフィンジ(一般名:デュルバルマブ(遺伝子組換え))の胃がん領域における適応拡大をテーマとしたメディアセミナーを開催した。同セミナーでは、山梨大学医学部外科学講座第1教室 教授で日本胃癌学会 理事長の市川大輔先生が登壇し、2026年6月に新たに承認された胃がんに対する術前からの免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療法について、臨床試験の結果を踏まえて解説を行った。
胃がんは、依然として本邦で罹患数の多いがんであり、リスク要因としては、ヘリコバクター・ピロリ菌感染や食塩・高塩分食品の摂取、喫煙などが挙げられる。
日本では、欧米と比べて検診の普及などにより早期に発見されることが多く、手術技術も向上してきた。こうした背景から、まず手術を行い、その後、必要に応じて抗がん剤治療を行うという治療戦略が発展してきた。
その一方で、市川先生は、この「手術先行+術後補助化学療法」という治療戦略だけでは限界があると語る。胃切除後は食事量が減少するなどして栄養状態が悪化しやすく、そこに術後補助化学療法による有害事象が重なることで、予定された抗がん剤治療を継続できない、あるいは開始できない患者が一定数存在するという。
市川大輔先生(提供写真)
このような中、術前化学療法のメリットに注目が集まっている。胃が残っており体力が保たれている手術前の段階で強力な薬物療法を行うことで、薬物療法を高い割合で導入・継続できるほか、全身に潜んでいる可能性のある目に見えない微小転移(マイクロ転移)にも早い段階からアプローチできるなど、さまざまなメリットがあるという。
中でも現在注目されているものが、手術前から免疫チェックポイント阻害薬である「イミフィンジ」を用いる新しい治療戦略である。市川先生は、その効果が期待される理由について、化学療法によってがん細胞が直接破壊されるだけでなく、壊れたがん細胞から放出された腫瘍抗原を患者自身の免疫細胞が認識することで、がんに対する免疫反応が強まると説明。さらにイミフィンジを併用することで、免疫反応のブレーキを解除し、がん細胞に対する攻撃力を高めるメカニズムについて解説した。
また、手術前は原発巣が体内に残っているため、がん細胞の目印となる腫瘍抗原が豊富に存在する。この段階で免疫チェックポイント阻害薬を投与することで、がん特異的T細胞を活性化させ、全身に散らばった目に見えない微小転移をも早い段階で標的にして駆逐できる可能性があるという。
こうしたコンセプトのもと、切除可能なcStageII~IVA期の胃がんまたは食道胃接合部腺がんを対象に実施されたのが、国際共同第3相試験「MATTERHORN(マッターホルン)試験」である。同試験では、手術前後のFLOT療法にイミフィンジを併用するD-FLOT群と、プラセボを併用する群を比較し、イミフィンジの上乗せによる良好な治療効果が示された。
具体的には、D-FLOT群は主な副次評価項目である病理学的完全奏効(pCR)率が19.2%に達し、プラセボ+FLOT群の7.2%と比較して約3倍に向上するという極めて高い効果が示された。主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)は、イミフィンジを上乗せすることでイベント(治験割付から腫瘍の増悪もしくは死亡前の期間)の発生リスクを統計学的に有意に29%低減した(ハザード比0.71)。さらに、主な副次評価項目である全生存期間(OS)においても統計学的に有意な予後の改善(延命効果)を示した(ハザード比0.78)。
特に日本人サブグループ解析においては、EFSのハザード比が0.32、OSのハザード比が0.35と、良好な治療成績が報告された。また、日本では手術前の強力な治療の後、100%の患者が予定通り手術へと移行できたことが紹介された。
主な有害事象としては、血液毒性(好中球減少症など)や下痢、悪心などが認められたという。市川先生は、特に日本人集団で発現頻度が高かった発熱性好中球減少症(FN)への対策として、G-CSF製剤を予防的に適切に投与することや、下痢が生じた際には、抗がん剤によるものか、免疫介在性有害事象(imAE)による大腸炎かを迅速に鑑別し、適切に管理することが、安全な治療完遂に極めて重要だと解説した。
市川先生は、これまで日本では手術先行が胃がんに対する標準治療の原則だったことに改めて言及した上で、術前から免疫チェックポイント阻害薬を上乗せする周術期治療の登場は、日本の胃がん治療において新たな標準治療の選択肢を示し、極めて大きな意義を持つと述べた。
一方で、治療を安全に完遂するには、FNやimAEなどの有害事象を適切に管理することが重要であり、医師、看護師、薬剤師、栄養士などによる多職種チームでのサポートが不可欠だと指摘。今回の新たな治療法について、「術前・手術・術後を一体として最適化する時代」へと胃がん治療を大きく進歩させる、極めて画期的な出来事だと期待を示し、講演を締めくくった。
関連リンク:
アストラゼネカ株式会社 プレスリリース