ノボキュア株式会社は4月23日、「進行期肺がん治療における新たな選択肢」と題したメディアラウンドテーブルを開催。近畿大学医学部内科学腫瘍内科主任教授の林秀敏先生、ノボキュア株式会社代表取締役の小谷秀仁氏が登壇した。
肺がんは全がん種の中で最も死亡数が多く、罹患数も上位に位置する予後不良な疾患である。肺がんは大きく非小細胞肺がん(NSCLC)と小細胞肺がん(SCLC)に分類され、非小細胞肺がんは全体の約85%を占める。ステージ4(進行期)肺がんの5年生存率はかつて1割程度であったが、近年の分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場により3〜4割に改善するケースもある。しかし、依然として厳しい状況であることに変わりはない。
非小細胞肺がんの治療方針は、ドライバー遺伝子変異の有無により大きく分かれ、変異がない患者は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が治療選択肢となる。しかし、ICIが有効な患者は対象の2割程度にとどまることが大きな課題となっている。さらに、一次治療が効かなくなった後の二次治療(ドセタキセルなど)においては、生存期間の中央値が1年に満たず、治療成績の向上が急務であると林先生は指摘した。
このような背景の中、2025年9月に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の治療法として新たに承認され、2026年3月1日に保険収載されたのがノボキュア社のTTフィールド療法である。TTフィールドは、薬ではなく「電場」を利用した新しいモダリティ(治療手段)である。患者の体にアレイと呼ばれるパッドを前胸部や背部などに4枚貼り付け、その間に交流電場を形成する。小谷氏によると、アレイ内のセラミックディスクは絶縁体であるため電流が体に流れることはなく、痛みを感じることはないという。
小谷秀仁氏(提供写真)
一方で、電場は電荷を帯びた物質(タンパク質など)に強力な影響を及ぼす。肺がんの治療においては、1秒間に15万回プラスとマイナスが入れ替わることで、細胞分裂(有糸分裂)時に必要なチューブリンの重合を妨げ、激しく分裂するがん細胞をアポトーシス(細胞死)に至らせるのが直接的な作用である。
さらに重要な点として、林先生は間接的な作用である「免疫原性細胞死(ICD)」を挙げた。がん細胞が電場によって破壊される過程で、腫瘍免疫を惹起する分子(HMGB1やカルレティキュリンなど)が放出され、ニボルマブなどのICIがより効きやすい環境が作られるという。
実際に、承認の根拠となった第3相LUNAR試験では、二次治療においてドセタキセルまたはICIにTTフィールドを併用した結果、有効性の向上が確認された。特にICI併用群においては生存率が大きく改善し、全体でも1年生存率が標準治療の42%から53%へと改善したことが示されている。林先生は「単体での著効は期待しづらく、基本的には併用する薬剤の効果を強めるのが最大の作用と聞いている」と説明した。TTフィールドの主な副作用は、アレイを肌に長期間貼付することによる皮膚炎、皮膚掻痒症、発疹などであり、ステロイド外用薬や保湿といったスキンケアなどで対応可能であるという。
林秀敏先生(提供写真)
TTフィールドによって細胞分裂を効果的に阻害するためには、1日18時間以上の装着が推奨されている。TTフィールドの機器本体の重さは1.3kgほどでリチウムイオンバッテリーを内蔵しており、外出時も使用することが可能である。ノボキュア社は、患者が自宅や外出先でも安心して治療を継続できるよう、24時間365日対応のコールセンターを設置しており、アレイの温度記録や毎月の装着時間レポートを医療従事者に提供するなど、サポート体制を整えているという。
TTフィールドは、すでに日本国内において膠芽腫(脳腫瘍の一種)で承認・保険収載されており、米国では悪性胸膜中皮腫でも使用されている。また、膵臓がんを対象とした試験でも生存期間を改善する良好なデータが出ているという。林先生は、非小細胞肺がんの一次治療にTTフィールドを上乗せする臨床試験も進行中であると言及し、「これまでの薬ではなく機械でがんを治療するという新しいモダリティは、腫瘍内科医にとってエポックメイキングな出来事であり、非常に期待している」と語った。
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