アムジェン株式会社は4月20日、小細胞肺がんに関するメディアセミナーを開催した。同セミナーでは、関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座 主任教授の倉田宝保先生と、NPO法人肺がん患者の会 ワンステップ 理事長の長谷川一男さんが登壇し、小細胞肺がん治療の歴史から最新の治療法、そして患者を取り巻く環境の変化について講演を行った。
約20年、2次治療の新薬が登場しなかった小細胞肺がん
肺がん全体の約10〜15%を占める小細胞肺がんは、進行が早く、早期から転移しやすいのが特徴である。喫煙との関連が深く、発見された時点で既に転移しているケースが約8割を占めるという。
小細胞肺がんの治療は、がんが片方の肺にとどまっている「限局型」と、それを超えて広がった「進展型」の2つに大別して行われる。限局型では化学療法と放射線治療の併用が可能だが、進展型では化学療法による治療が基本となる。
倉田先生は小細胞肺がんの治療開発の歴史について触れ、「2002年にアムルビシンが承認されて以来、(化学療法後に増悪した小細胞肺がんを対象とした)新規薬剤は約20年間にわたり登場せず、開発が停滞していた」と説明した。
倉田宝保先生(提供写真)
近年、非小細胞肺がんの治療成績を向上させた免疫チェックポイント阻害剤が、小細胞肺がんの初回治療でも用いられるようになっている。しかし、小細胞肺がんは腫瘍の周囲に免疫細胞(リンパ球)が少ない「コールドな腫瘍」であるため、免疫療法の恩恵を長期にわたって受けられる患者は限定的であった。
コールド腫瘍を「ホット」に変える新薬
このような背景の中、新たなメカニズムを持つ新薬として登場したのが、二重特異性T細胞誘導(BiTE)分子である「タルラタマブ(商品名:イムデトラ)」である。
倉田先生はタルラタマブの作用機序について、「がん細胞の表面にある『DLL3』というタンパク質と、免疫細胞(T細胞)の表面にある『CD3』の両方に結合し、リンパ球をがん細胞の近くに引き寄せて攻撃させる作用を持つ」と解説した。これにより、免疫細胞が少ない「コールドな腫瘍」を「ホットな腫瘍」に変え、免疫療法を作用させることが期待されている。
臨床試験(DeLLphi-301試験)において、3次治療以降として投与された患者を対象とした結果、客観的奏効率(ORR)は41.4%、全生存期間(OS)の中央値は14.3ヶ月という成績が報告された。さらに、2次治療を対象とした第III相試験(DeLLphi-304試験)においても、従来の化学療法と比較して全生存期間の有意な延長(中央値13.6ヶ月 vs 8.3ヶ月)が確認され、2026年3月に2次治療薬として保険適用となった。
一方で、免疫細胞が活性化する過程で生じる「サイトカイン放出症候群(CRS)」や発熱などの副作用も報告されており、医療従事者による適切な副作用マネジメントが重要であることも共有された。
セカンドラインでの承認が持つ意義
倉田先生は、タルラタマブがセカンドライン(2次治療)で使用可能になったことの意義を強調した。一般的に免疫療法は、患者の免疫機能が保たれている治療歴の浅い段階で投与する方が、効果を得やすいと考えられている。約20年間、2次治療において新薬が登場していなかった小細胞肺がん領域において、セカンドラインの選択肢に新たな免疫療法が加わることは、患者の予後改善を目指す上で重要な一歩となる。
また「単剤で他の薬剤と比較して生存期間を伸ばした結果」と評価し、将来的には初回治療や、より早期の段階への導入にも期待を寄せた。
「生きられるか」から「どう生きるか」へ
新薬の登場は、患者や家族にとって生存期間の延長以上の意味を持つ可能性がある。自身も肺がん患者であり、患者会を運営する長谷川さんは、小細胞肺がんの患者が直面する現実について言及した。予後の厳しさに加え、喫煙由来というスティグマ(偏見)が重なり、診断の場で家族から責められ沈黙してしまう患者もいるという。
しかし新たな治療薬の登場により、患者の状況にも変化が起こっている。「これまでは『生きられるか』どうかだけで精一杯だったが、薬の選択肢が増え、仕事を続けたり、家族との時間を守ったりと、『どう生きるか』を考える余地が出てきた」と長谷川さんは語った。実際、患者会に参加する小細胞肺がん患者の中には、副作用を抑える薬の進歩なども相まって、治療を受けながら仕事を続ける人も出てきているという。
長谷川一男さん(提供写真)「厳しいだけの物語」で終わらせないために
長谷川さんは講演の最後に、社会やメディアに向けて次のようなメッセージを送った。
「小細胞肺がんをただ予後が悪い、喫煙と結びついた『厳しい病気』として伝えないでほしい。事実のみの報道では、患者や家族は再び孤立の中に置かれてしまう。進行がんでもあきらめるだけの時代ではなくなってきた。治療の景色が変わりつつある兆しを伝えてほしい」
約20年間にわたり治療開発が停滞していた小細胞肺がんにおいて、新たなアプローチの登場は、治療成績の向上だけでなく、患者が自身の人生をどう生きるかを考えるための新たな選択肢をもたらしつつある。
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