2月25日、Johnson & Johnson(ヤンセンファーマ株式会社)は、「高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫における進展遅延に対する本邦初の治療薬『ダラキューロ(R)』― 早期段階での新たな治療選択肢が、患者さんにもたらすベネフィットとは ―」と題した記者説明会を行った。
「ダラキューロ配合皮下注(一般名:ダラツムマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え))」は、2025年11月20日に国内で初めて「高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫における進展遅延」を効能・効果とする承認を取得した。これにより、同疾患において症状が出る前に介入する新たな治療選択肢が加わった。
多発性骨髄腫は、血液細胞のひとつで抗体を作る「形質細胞」ががん化し、異常増殖する病気である。進行すると、免疫が低下するほか、高カルシウム血症(C)、腎機能障害(R)、貧血(A)、骨の痛みや病的骨折といった骨病変(B)など「CRAB(クラブ)症状」と呼ばれる重篤な臓器障害を引き起こす。
その一歩手前で、異常な形質細胞が増加し「Mタンパク」が認められるものの、CRAB症状が出ていない状態を「くすぶり型多発性骨髄腫」と呼ぶ。このくすぶり型多発性骨髄腫は、症状が出るまで「経過観察」とするのがこれまでの標準治療であった。古くから多発性骨髄腫の治療に使われていたMP療法(メルファラン、プレドニゾロン)などで早期に治療を開始しても、生存期間を延ばす効果が確認されなかったためだ。
秋吉由香子さん(提供写真)
一方、患者にとって経過観察が不安を伴う場合もある。2006年にくすぶり型多発性骨髄腫と診断され、長期の経過観察を経験した秋吉由香子さんは、「診断されたのに治療されないというのは、『ほったらかしなのかな』と感じました」と当時の心境を語る。鈴木憲史先生(日本赤十字社医療センター 骨髄腫アミロイドーシスセンター顧問)も、「『先生は私が悪くなるのを待っているのですか?』と言われたことがあります」と語った。
鈴木憲史先生(提供写真)
くすぶり型の患者の中には、進行が遅い人がいる一方で、短期間で急速に進行してCRAB症状が現れる「高リスク」の人が混在していることが、これまでの研究から分かっている。
髙松泰先生(福岡大学医学部 腫瘍・血液・感染症内科学教授)は、「症状が出てから治療するということは、辛い症状が患者さんに表れているということ。患者さんの立場からしたら、『症状が出る前に治療を始めて、症状が出ないようにしてほしい』と思うのではないか」と語った。
髙松泰先生(提供写真)
このような背景のなか、ダラキューロは高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫に対する適応追加の承認を取得した。この承認は、国際共同第III相試験「AQUILA(アクイラ)試験」に基づくもの。同試験の全体集団では、高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫患者に対してダラキューロ単独投与群は経過観察群と比較し、多発性骨髄腫への進展または死亡のリスクを51%低下させた。日本人患者の解析でも全体集団と一貫した有効性が示されており、多発性骨髄腫への進展または死亡のリスクを75%低下させた。
今後の課題は、高リスク患者の特定にあるという。米メイヨークリニックの「Mayo 2018モデル」で高リスクと判断された患者は、47.4%の患者が2年間で多発性骨髄腫へと進展した。 一方、国際骨髄腫作業部会(IMWG)による「IMWG 2020モデル」では、72.5%の患者が2年間で進展した。
現在、世界中で最も使われているのはIMWG 2020モデルだが、この分類がベストな方法であるかどうかについては、今後さらなる検証が必要であるという。髙松先生は、複数のリスク分類基準において、評価が一致しないケースがあることを指摘。「それぞれの研究を見ると妥当な結果が出てるように見えるが、なかなか一致しない。本当に高リスクな患者さんをどのように見つけるのかが、今後に残された大切な課題」と語る。
鈴木先生は、「SLiM-CRAB基準では、2年以内の多発性骨髄腫への進展率が80%と予測され、この基準に該当する患者さんには治療を開始してきた。今後は、IMWG基準の進展率70%を治療開始の基準とするのか、あるいはMayo基準のように、進展リスクが50%の患者さんにも治療介入を行うのか、その判断が課題となる。患者さんやご家族とよく話し合い、お互いに共通の理解を持って治療方針を決めるSDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)が重要になる」と語り、分類基準だけでなく、臨床データの傾向やMタンパク・β2ミクログロブリンといった数値の動き(トレンド)も注意深く観察し、患者さんの人生観も踏まえた上で治療方針を決定することの重要性を強調した。