サクラファインテックジャパン株式会社は2月4日、「がん診断の最前線~がん検査を取り巻く環境とイノベーションが患者にもたらす価値とは~」と題したプレスセミナーを開催。JA三重厚生連鈴鹿中央総合病院中央検査科の村田哲也先生(病理専門医)広島大学病院診療支援部病理検査部門・部門長の石田克成先生(臨床検査技師)らが講演した。
診断を陰から支える「病理」の存在
現代のがん医療において、がん組織の種類や遺伝子変異の有無など、病理検査からわかる情報は重要な役割を担っている。一般的に、まずはスクリーニングとしての細胞診が行われ、その後、必要に応じて病変の一部を用いた生検が行われる。その結果を患者に直接伝えるのは主に主治医だが、その背景には、採取された細胞や組織を詳細に分析し、「がんであるか否か」「どのような性質のがんか」を判定している病理医や臨床検査技師の存在がある。
採取された検体は、病理検査室(または検査センター)へ運ばれ、臨床検査技師の手によって顕微鏡で観察できる薄さの「標本」に加工される。それを病理医が観察して診断(病理診断)を行い、報告書を作成する。主治医はその報告書に基づき、患者への説明や治療計画の立案を行う。つまり、主治医と病理医・臨床検査技師は、それぞれの専門性を活かし、患者に最適な医療を提供しているのだ。
村田氏は「我々病理医や臨床検査技師が患者さんの前に現れることはまずありませんが、治療方針や予後の推定に関わる最も重要なデータを担っているのが病理スタッフです」と説明する。

(村田哲也先生)
がんゲノム医療の進展と病理検査の重責
近年、がん医療はめざましい進歩を遂げており、従来の顕微鏡による形態観察(細胞の形を見てがんかどうかを判断すること)に加え、特定のタンパク質や遺伝子を調べる検査が標準的になってきた。石田氏は、現代の病理検査の新たな役割として、「コンパニオン診断」や「がんゲノム医療」への対応を挙げる。コンパニオン診断は特定の蛋白過剰発現や遺伝子異常の有無を、がんゲノム医療は遺伝子検査による遺伝子変異の種類などから使用できる薬剤を判断するために欠かせないプロセスであり、これまでの「診断のための病理検査」から「治療のための病理検査」へと、その比重が変化している。
こうした精密性を要する検査を行うためには、検体の品質管理が極めて重要になる。手術などで採取された組織は、適切な処理が行われないとDNAなどの質が低下してしまう可能性があるためだ。例えば、検体をホルマリン液に浸して固定するまでの時間や、固定する時間(6時間から48時間以内)など、厳格なルールの遵守が求められる。
石田氏は「検体の処理を適切に行うことが、患者さんの利益に直結します」と語り、病理検査室における精度管理の重要性を強調した。

(石田克成先生)
構造的な課題に直面する病理検査室
病理検査の重要性が増す一方で、医療現場は構造的な課題に直面している。サクラファインテックジャパン・マーケティング本部の森誠氏は、高齢化に伴うがん患者数(検査数)の増加と、生産年齢人口の減少による担い手不足のギャップについて指摘。また、村田氏は病院経営の視点から、病理部門が抱える難しさに触れた。
物価高騰や賃上げの流れがある中で、診療報酬は公的に決まっており、コスト増を価格に転嫁することができない構造がある。さらに、日本の保険制度上、病理組織作製料や病理組織診断料など収益の多くは、オーダーを出した診療科に計上されることが一般的であるため、病院経営の中で病理検査室単体の収益貢献が見えにくく、設備投資や人員確保の予算が回りにくいという現状があるという。
村田氏は「業務量は増え、内容は高度化しているにもかかわらず、限られた人員で対応せざるを得ない状況です」と実情を語った。
医療の質を守る「自動化」と「デジタル化」
こうした課題を解決し、持続可能な医療体制を維持するための鍵として提示されたのが、検査工程の「自動化」と「デジタル化」だ。
石田氏が紹介したのは、病理標本作製工程のひとつである「包埋(ほうまい)」の自動化だ。包埋とは、組織を薄くスライスするためにパラフィン(ロウ)で固めてブロック状にする作業で、従来は技師の手作業に頼る部分が大きかった。サクラファインテックジャパンが開発した全自動包埋装置は、この工程を機械化できる。広島大学病院でのシミュレーションでは、技師2名分の作業時間にあたる1日約3時間の削減効果が見込まれたという。
さらに、デジタルパソロジー(病理画像のデジタル化)とAIの活用も進んでいる。ガラス標本をデジタル画像として取り込み、モニター上で診断を行う技術だ。石田氏は、AIを用いた画像解析により、がん細胞の数や腫瘍の占める割合を客観的な数値として算出する方法を紹介した。これにより、目視によるばらつきを防ぎ、より精度の高い遺伝子検査が可能になることが期待されている。
こうしたテクノロジーの波及について、石田氏は「働き方改革が進むことで、新たな研究や学会発表などに積極的に取り組むことができるようになります。(中略)結果として、医療全体の質の向上につながるのではないでしょうか」と語った。
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