国立がん研究センター、浜松医科大学、慶應義塾大学医学部、および日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は10月30日、切除可能な食道がんに対する手術法として、従来の標準治療である開胸手術と、より低侵襲な胸腔鏡下手術を比較した臨床試験の結果を公表した。
食道は首と胸を縦走する管状の臓器であるため、食道がんの外科手術は広範囲に及び、患者の心身への負担が大きい。この負担を軽減する目的で、開胸手術よりも侵襲の少ない胸腔鏡下手術が世界的に普及しているが、これまで両治療法の長期成績を直接比較した研究はなかった。
そこでJCOG食道がんグループは、切除可能な食道がん(食道扁平上皮がん)患者を対象に、開胸食道切除術(標準治療)と胸腔鏡下食道切除術(試験治療)の生存期間を比較するランダム化比較第III相試験(JCOG1409)を国内の多施設と共同で実施した。
同試験では、2015年5月から2022年6月にかけて300名の患者が登録された。解析の結果、3年後に生存している患者の割合は、開胸食道切除術群で70.9%であったのに対し、胸腔鏡下食道切除術群では82.0%と良好な結果であり、胸腔鏡下手術を受けた患者の生存期間は、開胸手術を受けた患者に比べて劣らないことが示された。

(画像はリリースより)
さらに、食道がんの術後に早期の呼吸機能低下を来した患者の割合は、開胸食道切除術群が12.5%であったのに対し、胸腔鏡下食道切除術群は9.7%と、胸腔鏡下手術の方が術後の呼吸機能低下が抑えられることが示された。また、術後の肺炎や縫合不全などの合併症発生割合に大きな差は見られなかった。
これらの結果から、胸腔鏡下手術は切除可能な食道がん患者に対する標準治療のひとつとして有効であることが明らかになった。JCOG食道がんグループ代表の竹内裕也先生(浜松医科大学医学部)は、同日開催された記者会見で、「今回の試験結果をもとに胸腔鏡下の手術が標準治療のひとつとなったがこれは開胸手術の推奨度に影響するものではない。ただし侵襲度などのメリットもあるため、このエビデンスをもとに今後はより広く胸腔鏡下の手術が選択されるのではないか」と述べるとともに、今後の展望として、「ロボット支援下手術についても同様の形でエビデンスを構築していくことが重要だと考えている」と語った。
参照元:
国立がん研究センター プレスリリース