今年9月にイミフィンジ(一般名:デュルマルマブ)が「膀胱がんにおける術前・術後療法」としての承認を獲得したことを受け、アストラゼネカ株式会社主催のメディアセミナーが10月24日に開催された。
II-III期膀胱がんに新たな治療選択肢が登場
膀胱がんは、膀胱の粘膜に生じるがんのことであり、大部分(90%以上)が尿路上皮がん。2023年の膀胱がん死亡者数は、男性6515人(部位別がん死亡数12位)、女性で3076人(同15位)である。北村寛先生(富山大学 学術研究部医学系 腎泌尿器科学 教授)によると、膀胱の壁はバームクーヘンのような層になっており、膀胱の収縮に関わる筋肉の層までがんが到達しているかどうか(筋層浸潤の有無)によって予後が大きく変わってくるため、治療方針の分かれ目になる。「膀胱がんの治療成績を改善するためには、II期以上の筋層浸潤性膀胱がんを制御する必要があります」(北村)
今回、新たにイミフィンジが適応となったのは、転移のないII-III期の筋層浸潤性膀胱がん。現在の標準治療は膀胱全摘であり、更に術前・術後の薬物療法の効果が長年検討されてきた。
既に膀胱全摘の前に術前化学療法を実施することの有効性が国内外で複数報告されており、現在のガイドラインでも推奨されている。しかしながら膀胱全摘のみと比較して、術前化学療法による5年生存率の改善率は5%にとどまっており、化学療法を実施しても95%はその恩恵を受けることができないというのが現状であることから、まだまだ治療改善が望まれる。
また、術後化学療法については、統計的に有意な改善を示した試験がなく、有効性に関しては明らかとなっていない。一方で、術後免疫チェックポイント阻害剤(ICI)に関しては、術後オプジーボ(一般名:ニボルマブ)を検討したCheckMate 274試験において無病生存期間(DFS)が改善され、ICIの効果に期待できる結果が示された。
このような背景の中、NIAGARA試験では、術前のイミフィンジ+化学療法(GC療法)および術後イミフィンジの有効性・安全性が術前化学療法と比較された。
同試験では、試験群で88.0%、対照群で83.2%が術前療法後に膀胱全摘を実施。そして術後に評価された病理学的完全奏効率(pCR)は、全例で評価した場合には試験群で37.3%に対して対照群で27.5%、また膀胱全摘を受けていない症例を除外した場合には、42.4%に対して33.1%であり、試験群における改善が認められた。
主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)は、両群間でハザード比が0.68(95%信頼区間:0.56-0.82)であり、試験群で統計的有意な改善が認められた(p<0.001)。また、重要な副次評価項目である全生存率(OS)に関しても、ハザード比は0.75(95%信頼区間:0.59-0.93)で、試験群で改善が認められた(p=0.01)。
試験群における免疫介在性の有害事象は、甲状腺機能低下症が最も多く、10.4%に発現したが、グレード3以上のものは0.2%であり、その他の有害事象に関しては全て10%未満であった。また、免疫介在性の有害事象の対処として、全身性ステロイド投与を要した症例は全試験期間10.8%、高用量ステロイド投与を要した症例は6.6%であった。また、それぞれの薬剤(イミフィンジ、ゲムシタビン、シスプラチン)の完遂率も高かったことから、忍容性についても高く評価できると、北村先生はコメントした。
北村先生は今回の新規レジメンについて、これだけ効果の高い治療法は標準療法として使われていくだろうとしたうえで、自己免疫疾患などの合併症、経済的あるいは通院の負担など、個々の患者さんの状況に応じて使用を考えていきたいと話した。
また、膀胱がんによる死亡を減らしたいという目標を達成するためには、転移をいかに制御するかが一つのカギであるとし、今回、新しい治療法が使えるようになったことで、転移リスクが高い症例に対する転移抑制効果と治癒を目指せるようになるのではないかと、北村先生は期待を語った。
違和感に気づいたら我慢をせずに早めの受診を
セミナー後半では、「あなたにも知ってほしい膀胱がんのこと」と題して、市民公開講座が開催された。
北村先生のお話を受けて、ゲストの長州力氏(元プロレスラー)は、「がんは遺伝するものだというイメージを持っていたが、“がん家系”ではないからと安心はできないのですね」と語り、歳をとるにつれて体力の衰えを感じることが多いので、がんにも気を付けなければとコメントした。
長州氏は、定期的に一般的な健診は受けているとのこと。これに対して北村先生は、定期的に通っている病院があるのは良いことであるとしたうえで、一般的な検診では、がんの発見が難しい場合もあるので、普段と変わったことを見逃さずに、すぐにかかりつけ医に相談してほしいと強調した。
また、泌尿器科の受診はなんとなくハードルが高いように感じると話す長州氏に対して、北村先生は「患者さんは恥ずかしいなと感じるかもしれませんが、早期に見つけるほど予後が良いことは確かなので、ぜひ早目に受診してほしいと医師側は思っています」と、早期受診の重要性を強調した。
膀胱がんの治療について、患者は自分で治療法を選べないのかと長州氏。北村先生は、患者さんには推奨治療の提示だけでなく、可能な選択肢は可能な限り説明するようにし、患者さんそれぞれの価値観などに合わせた治療を一緒に決めていくことが理想だと語った。またセカンドオピニオンについて、「セカンドオピニオンは医師の間でもかなり浸透している考え方なので、主治医と違う医師の意見を聞くことに対して患者さんは後ろめたさを感じる必要はありません。納得できずに治療方針が決められない場合はぜひ利用してみてください」と話した。
膀胱がんのリスク因子について、生活習慣で唯一分かっているのは喫煙だと北村先生。これに対して、タバコを楽しみのひとつとしている長州氏は、「禁煙にもチャレンジしたいですが、なかなかやめるのは難しいです。でも今日の話を聞いて、タバコの体への影響はすごいんだなと怖くなったので、まずは本数を減らすところからかな」と話した。
最後に北村先生は、「がんが進行した状態で見つかる患者さんの多くは、実は以前から異常を感じているにもかかわらず“様子見”をして受診を後回しにしています。ですが、進行する前の発見が望ましいです」と改めて早期受診を呼びかけた。「我慢していいことはひとつもない、ということが私の今日のTake-home Messageです」(北村先生)
なお、アストラゼネカは9月25日、膀胱がんの患者さんやご家族に向けの疾患情報サイト「
膀胱がん、それでも。」をオープンしている。